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僕のクラスの不登校が実はアイドルだった!  作者: M.H
一章 アイドル
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7話『磐木は決意する』

 磐木樟葉には好きな人がいる。


 四月下旬の頃。


「ねぇねぇ、磐木さん悪いんだけど宿題みせてくんない? やったんだけど忘れちゃってさ」


 磐木は席に座り、カバンからノートや教科書を出し、机に仕舞っていた。そんな磐木に話しかけたひとりの女子生徒が申し訳なさそうな顔で磐木の机に手を置いた。


 どうやら彼女は宿題をやってきたけど忘れたらしい。


 磐木は肩の力を抜いて優しく言う。


「忘れちゃったの? なら仕方ないね、いいよ」


 磐木が数学のノートを渡すと彼女はすぐさま磐木の席を離れて友達の輪に消えた。


「マジ? ちょー神じゃん助かったー!」


 その日、ノートは帰ってこず、様々な『宿題やったけど忘れた』生徒の間を巡り行方不明。結果として磐木が宿題を忘れた生徒になった。


 課題がある日、それが毎回だった。普通最悪の高校生活だと思う。けれど磐木は、その思いを表に出すことはしなかった。


 中学の時、アイドルになって「人を笑顔にできたなら自分もうれしい」と、そう思うようになっていた。


 そんな与える側だった磐木が誰かに『うれしい』という感情を与えてもらった。


 その『誰か』は後ろの席の男子生徒。


 村川晴太。


 磐木と晴太が話すようになったきっかけはこの、宿題がらみだった。


「貸してやるよ」


 磐木のノートがほかの生徒に渡った後、晴太は毎回宿題のノートを見せてくれた。そのおかげで宿題を毎回忘れる生徒という烙印はなくなった。


 意表を突かれたように磐木は目をパチパチとする。そっと両手で受け取り、磐木は自然な笑みで言う。


「ありがとう、見せてくれて……」


「いいよ、別に。困ってんだろ?」


「え?」


「むやみやたらに貸すのはやめた方が良いと思うけど」


「でも、困ってる……」


「自分が困ったら意味ないでしょ」


 それから磐木は晴太とお昼にご飯を一緒に食べたりするようになった。けれどどうやら磐木の行動を気に食わない生徒がいたらしい。晴太が言っても磐木はノートを貸すことはやめなかった。やめられなかった。けれど返ってきた。返ってきたノートの中身は心が凍るようだった。


 それが約十回続き、磐木は学校へ行くことを、精神的に拒むようになっていた。


 行きたいと思っているのに、何かがつかえたように、行けなかった。代わりにアイドルとして日々の練習はいつも以上に身が入った。そんな学校を忘れようとしていたのかもしれない。逃げるためにやったわけじゃないのに。結果的には後ろ向きだった。笑顔にできれば良い。


 そして磐木が「やめよう」と思っていた時期、郊外のデパートでのミニライブで二か月ぶりに晴太に出会った。


 晴太に会いたい。そんな気持ちを日に日に強めた磐木は学校へ行ってみようと覚悟を決めた。


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