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僕のクラスの不登校が実はアイドルだった!  作者: M.H
三章 アイドルとアイドル
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40話『そしてラスト』

「えぇっ! ゲホゲホ! ど、どうしたのこれ! どこ歩いてたの!」


 春乃に東吾が描いたサインを渡したら咽び泣き喜んだ。それがどれほど神聖なのか晴太には理解しがたい。ただの紙切れなのに。


「それ? 描いてもらった。妹が好きなんですぅって言ったら描いてくれたよ」


「ま、まじ……どこにいたの」


「学校」


「ふぁ……」


 席を立って玄関に向かった春乃の肩を掴む。


「いや、もう下校したから」


「張り込み!」


「迷惑だからやめろ」


 しょぼんとした春乃を席に座らせ食事の続き。


「これちょー大事にする、家宝にしよう、あ、やば、今度ライブ行くときお礼言わないと!」


 この日、晴太は余計なことを考えないようにすぐに寝た。


 翌朝、晴太は学校に行く途中。


「うわ、こわ! なんだよ、親でも殺されたか?」


「しんでねぇ、勝手に殺すなよ」


「じゃぁなんでそんな凶悪な目つきなんだよ」


「知るか」


「おう……ま、気にすんなよ。ほかにお前の良いところを知ってくれる女子はいるって」


「ぁぁん?」


 同情を示す小島に晴太は不良っぽく返事。


 逃げる小島の背中を見送りバス停。


「村川君、誰か待っているのかい?」


 ニコッと朝から無駄に、無差別に爽やかを振りまく東吾。出来損ないの不良を憑依させていた晴太の闇が払われてしまいそうだ。だから敬礼のようなポーズで視線をカットした。


「無視とはいただけないな。君は樟葉ちゃんのなんなの?」


「友達なんじゃないですか? この際だから言いますけど、僕は磐木のことが同じクラスになったときから好きなんですよ。振られても先輩みたいに貶めることは絶対にしない」


「貶める? さて知らないな」


 バスが到着して降車する生徒達、女子生徒なんかは東吾を見て目をハートにしていた。


「……おはよ……村川くん……東吾先輩」


 困惑気味の磐木は晴太と東吾を交互に見る。先手を打った東吾。


「おはよう、樟葉ちゃん。行こうか」


 紳士的にリードする東吾はどさくさに紛れて磐木の背中に手を添えた。


 寝不足とストレスが頂点に達していた晴太は息を吸う。


「磐木!」


「え」


 晴太は先回りして磐木の肩を掴んだ。困惑を浮かべる東吾と磐木。それと見物する生徒の視線。


 晴太は後先など考えず衝動的に、理性を一割ほど残して決断。


「樟葉ちゃんからその汚い手を退けろ!」


「うっせぇ黙ってろ――」


 東吾は不快だと眉を寄せる。


「僕は磐木が好きだ。僕と付き合ってください――ッ」


「なんの真似だ……」


 東吾は晴太の胸倉をつかみ上げた。晴太は軽くつま先立ち。東吾は力を加減して力はそんなに入れていなかった。磐木は東吾の手を強く掴む。東吾は晴太を開放する。


 野次馬がざわつく。顔が信じられないほど熱くなっていく、耳なんて溶けて落ちそうだ。


 一秒が過ぎ、二秒が過ぎ、三秒が過ぎ、四秒が過ぎ、五秒が過ぎ。伸ばした手が、指先が震える。このままあと十秒が過ぎたら膝から崩れそうだ。


「……し……すこし……待って」


 か細く言った磐木に晴太と東吾は視線を向ける。磐木はしばらくうつむいたまま、そしてそのまま二人の横を過ぎて走って学校へと消えた。


「苦しい」


「……村川君は好きな子を泣かせてどんな気持ち?」


「……磐木が泣いたのはきっと、東吾先輩がこんな暴挙に出たからですよ」


「……暴力事件で取り上げられたら恨むからな」


「妹にも恨まれそうだ」


 それから一ヶ月が経って十月も終わりだという季節、いまだ磐木は晴太を避けていた。東吾はあの一件以降意地悪なことを仕掛けてくる、といったことはなかった。


「仕方ない。公衆の面前で告白なんて相手を貶める様なものだ。晴太君は嫌われたのだよ」


「先輩、進学するんですか?」


「まぁね」


「やっぱり調理の専門学校ですか?」


「国立法学部だよ」


「強そうですね」


「東吾はどんな男だった」


「変な人でしたよ、何枚も皮を被った別人みたいな。結局何がしたかったのかも謎です」


「だろう? 結局学生の恋愛なんて二か月持てば大台なのだよ」


「先輩も、ですか?」


「ふふふ……私は好きな人には永遠に執着するよ……こう見えても一途な乙女なんだ」


 晴太はぞくっとして視線を逸らした。


 それからさらに一ヶ月が経ち、冬休みを目前に控えていた。


「……ねぇ、村川くん……」


 前に座って沈黙してた磐木が二か月ぶりに晴太の苗字を言った。一瞬幻聴かと疑った晴太。


「いま、僕の事よんだ?」


「……うん。あのさこれ。よかったらあげる……いらないから……別にいらないなら捨てていいから、というかいらないなら今すぐここで破って」


 淡々と話す磐木は見る見るうちに顔を赤く染め上げる。そんな具合に晴太は嬉しく微笑む。その渡されたものは磐木の所属するアイドルグループの、『一之瀬彩羽』のラストライブのチケット。二枚。


「行くに決まってる」


 晴太は磐木の目の前で恭しくクリアファイルに仕舞った。


「なんのライブ?」


「これ」


「えー、誰……お兄ちゃんいつからドルオタになったの? おどんの? まじキモじゃん」


「ま、無料だし、ついてくるか?」


「お兄ちゃんが一緒に行きたいっていうなら……行ってあげなくもないけど……」


「じゃ、予定空けとけよ」


「ただし、春乃に勉強教えてね」


「お安いな」


 そして当日。


 磐木たちの単独ライブ。小さな箱は満員。隣の男の体臭が分かるくらいには詰まっていた。


「なんでいんの……」


 壁際の男が晴太の肩をぎゅっと掴んだ。サングラスにマスクに帽子。春乃が不審者を見る目を向ける。春乃に気づいた男はサングラスを外し、控えめにマスクをずらしてウインク。


 春乃は絶叫して絶命した。最後の最期は幸せだった……。


「やばい、お兄ちゃんがいてよかったって、春乃人生で初めて思った」


「かわいい妹じゃないか……」


 そう耳打ちしてきた東吾の膝を蹴ってやった。


「うちの親は絶対に許さないな」


「あ! この前はサインありがとうございました――」


 それからステージ照明が一斉につき、軽快な曲とともにステージ端から飛び出してくるアイドル。ぎっちりと詰まった人の壁は光すらこぼさない。


 ハイテンポに動いて踊って、胸と肩を上下させるアイドル達、顔つきが怪しくなると春乃が鳩尾に肘鉄を食らわせてくれる。


 何曲か歌い終わり照明が安定。自己紹介が始まった。


 自分の推しの自己紹介の時にアイドルの名前を叫ぶという。


 磐木(一之瀬彩羽いちのせ いろは)の紹介が終わり、晴太が「彩羽ー」と叫んだら春乃が恥ずかしくてしゃがんでしまった。


「東吾先輩もちゃんと言ったらどうなんです?」


「俺じゃ声で誰かバレちゃうよ」


「嫌味か?」


 それから大体三十分ほど、休憩なくぶっ通しで踊って歌って。汗が滴る。


 そして最後にお知らせがあるとメンバーのリーダーらしきアイドルが宣言して磐木にマイクを渡す。磐木の手が遠目に見ても震えていた。


 ここにきている人ならみんな知っているだろう情報。それでも磐木のことを見に来ている人がいる。


「私は今日の、クリスマスライブで卒業します――」


 十分ほどたどたどしくもメンバーに支えられながらファンやメンバーへの想いを伝えた磐木だった。


「――好きです――みんな! スキだよ!」


 そう締めくくって暗転。


「だってさ、村川君」


「毎回意味わかんないこと言って逃げようとしないでほしいんですけど……」


 晴太は自分の肩より高い位置にある肩に手をかける。


「あまり鈍感だと樟葉ちゃんも苦労しそうだ」


「また意味の分かんないことを……」


 それから人ごみが好き、小さいと思っていた会場は意外と広く、静か。


 最後に大きなハウリングが響き、一点の照明がついた。


「なに?」


「さぁ」


 聞き覚えのあるイントロが流れ出し、照明の下にひとり、磐木が登場した。


 そして磐木は歌いだす。少し震えた声で一曲歌いきる。恋愛的な歌詞だったと思う。


「なんか決まらないね……村川くん。好きです。この前の返事……もう遅いかな」


 磐木は手を伸ばしたまま。


「いいや、遅くなんてない」


 晴太はその手を取るためにステージへと大股で向かう。


「返事がなくてもずっと待つつもりだよ。磐木」


「ここでは磐木じゃない、一之瀬彩羽」


 そう言って涙を湛えて笑って見せた。ひと仕事終えた彩羽の手はまるで水につけた後みたいに冷たかった。


「僕と付き合ってください」


「よろこんで――」


 そんな二人を遠くからつまんなそうにぶすっと見守っていた春乃だった。


「……春乃だって……好きなのに」


 会場でいったん別れ、眠らない街を歩く。


「今日は外食がいいな、何がいい? なんでもいいぞ~」


「言ったね? なんでもいいんだね?」


「おう!」


 連れていかれた〇々苑。晴太はしばらく手料理がひもじくなることを宣告した。


「あー、スメラギ君ちょーかっこよかったぁぁ、やっぱり現実で見るとイケメン度が増す! っていうか、なんでそんなイケメンが平凡なお兄ちゃんと親しげだったわけ?」


「さぁな、ほら、肉焼けてんぞ」



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