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僕のクラスの不登校が実はアイドルだった!  作者: M.H
三章 アイドルとアイドル
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36話『相談』

 朝。当然、晴太は寝不足だった。


 夜中まで男性アイドルグループの歌唱を聴いていたせいでついついイントロを口遊みそうになった。


 晴太はペチンと頬を叩き、洗面所で顔を洗う。超冷たい水を張った水面に自らの顔を沈み込ませる潜水モード。浮上すると鏡越しに春乃と目が合う。


「な、何してんの……やめてよ怖いから……」


 戦慄した春乃が、ギョッと肩を抱いて言う。鏡と睨めっこする晴太の背に恐る恐る手を触れる春乃。


「顔洗って潜水艦ごっこ」


 晴太は、風呂でやったら潜望鏡のように……と思いながらタオルを顔に押し付けて春乃に場所を譲る。


 しばらく顔に押し付けていたタオルを剥がし、晴太はひとつ息を吐き洗面所を後にした。


「お兄ちゃん……? 変なの」


 春乃は心配そうに首を傾げる。歯磨き粉があと少しで切れそう。洗面台の角にこすりつけて絞り出す。


 晴太はついついイントロを口遊みながら朝食を作っていた。


 そんな違和感に春乃はとても心配そうな顔をするが近寄りがたく訊きがたい。訊くか悩んでいると晴太が先に言う。


「どうしたんだ? 渋い顔して」


「んん! なにもー……渋い顔なんてしてないし!」


 朝食を食べ終えると春乃はさっさと制服に着替え、現役女子中学生の姿で家を出た。


 晴太も八時前には家を出る。


「よっ」


「おう」


 同じクラスで友人の小島が肩を叩いてきた。晴太はいつも通り返事を返す。


 晴太は藪から棒に話を振る。


「そういやさ、あのなんか爽やかそうな先輩いんじゃん、す、スメ……スメ何とかって呼ばれてる」


 この名を口にするのは些か恥ずかしいものがあった。


 小島は考える時間も要さず「いるな」と答える。


「で? それがどうしたんだ? あれか、さては愛しの先輩が告白されたからかぁ?」


 ぐいぐいと鳩尾辺りを肘で突く小島を軽く払う。


「先輩が?」


 晴太の疑問に小島は「マジか、知らねぇのかよ」と言い、話し出す。


「とはいっても先輩が一年の頃」


「先輩ってだれ」


「志良衣澄先輩」


「ここで出てくんの?」


 記憶を探ると確かにそんな話は聞いたことがある。


 小島は面白そうにニヒヒと笑いながら言う。


「でも断られたらしいぜ皇帝」


 ついでにぺらぺらと口にした小島曰く、三年女子が志良のことを嫌っている理由は


一年の頃のそれが影響していたりする。


 晴太はスラックスのズボンからスマホを取り出して小島に動画を見せた。


「あぁ、皇帝のアイドルグループだろ? それがどうした。めっちゃ再生されてんのな」


「いいや、知ってんだ。アイドルなの」


 それから小島と別れ、磐木を待つことにした。


 晴太は自分が歩いてきた方に視線を向ける。


 また、熱烈に注がれる視線。そんなものを感じた。


 それからほどなくして磐木はいつも通り登校した。


「おはよ」


「おはよう」


 磐木のいつも通りの笑顔を見て晴太は心を落ち着かせる。


「ちょっと涼しくなってきたかな?」


「もう十月だし、そりゃね」


 とはいうもののまだ汗ばむ陽気だ。


 晴太はスマホを取り出して、小島の時同様、スマホに動画を再生させる。


「これ、知ってる?」


「え? なんで」


「あぁ、いや別に……実はさ、うちの妹がファンでよく聴いてるんだ……」


「……へぇ、村川君の妹は僕の『ファン』なのか」


 晴太の隣から覗き込んできた部外者はスメラギ(東吾悟)だった。爽やかな先輩はアイドル然として、液晶の向こうと差して変わらぬ笑顔で言う。


「うれしいなぁ、あとでサインでもプレゼントしてあげようか?」


「あはは……願ってもないことで……」


 一瞬爽やかな先輩、東吾悟はアイドルの顔を捨て、悉く氷縛するような真顔を晴太の隣の磐木に向けた。最後にそんな瞳が晴太に向けられた。ただの威嚇なのだろうか、殴られたということはなく、見つけては集まってきた女子を肉の壁にしていく。そのせいあって指の一本すら触れることはできなかった。


 しばらく後姿を眺めていると磐木が晴太の肩を軽く肩で叩く。


「……行こうか」


「磐木って、あの先輩とどういう関係なの?」


「あはは……どうしたの急に、別にたまたまあっただけだよ……」


 晴太が訊いてもあいまいに流されるだけ、そもそも晴太が訊くようなことではない。


 先輩の情報を聞くに最適な人物ならいる。出来れば頼りたくはないが恩返しして貰わねば。


「訊きましたよ先輩。先輩って意外とモテるんですね」


 そう晴太が言うと志良は目を驚いた猫みたいにして、箸をカランと落とした。地に落ちた箸は何度か跳ね返り、力を尽くして無音。静謐な空間へと早変わりした。


「な! なんだ……急に……晴太君、私は君より三歳も年上なんだぞ……」


 志良の顔は耳まで赤く染まっていく。乙女が恥じらうように頬に手を添えて身もだえ始めた志良に晴太は眉根を寄せる。


「ス……す、す」


「す、す…………なんだ! 早く言え!」


「はぁ……皇帝、あの爽やかな先輩に告白されたって、聞きました、それに断ったって」


 志良はしばらく憮然として、箸を拾い、流しで洗ってから箸立てにもどし、腕を台の上に組んだ。


「訊きたい話とはそのことか……」


 晴太はうなずく。


 それにしても『皇帝』で通じるとは……。


 志良はやれやれと息を吐いた。


「磐木君から何か話は聞いたか?」


「訊いて教えてくれたならわざわざこんなところに来ませんよ」


 まだお昼じゃないこともあり休憩時間は十分、調理実習室に来た時にはすでに三分が過ぎていた。無駄話をする時間など無かった。あと二分とない。戻ったらちょうど号令がかかっているだろう。


「私は約束を守る主義だ。だから詳しくは言えないが……晴太君にはいろいろと世話になっているからね……時間もない、簡潔に言うとだな…………磐木君は東吾に告白された――」

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