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僕のクラスの不登校が実はアイドルだった!  作者: M.H
三章 アイドルとアイドル
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35話『皇』

 晴太は東吾悟とうご さとるという人物を初めて見た。


 晴太の第一印象としてはやはり『イケメン』という事。けれど……いけ好かない、そんな雰囲気を本能的に感じた。それはイケメンに対する僻み、ともとれる感情。けれど本能的、嫌だと感じた。


 家に帰ると廊下に響き渡るほどに絞られたボリュームで『男性アイドルグループ』の歌唱が聞こえてくる。最近はおとなしくて感心していたのだが新曲でも出たのだろうか。


「春乃、うるさい」


「んー、新曲止めないでよ」


 むすっと怒りたそうな曖昧な表情を向ける春乃。晴太はやれやれと息を吐いて再生ボタンを押す。近所迷惑にならないほどの音で男が歌いだす。


「お兄ちゃんも歌唱力があればいいのに」


「あ? 鍛える気もねぇって」


「もったいないの」


「なにが」


「べーつに? 早く出てってよ、落ち着かない」


 春乃は足でしっしと晴太をあしらう。


 晴太は先に風呂を済ませてからキッチンに立ち。調理をしながら考える。


 磐木に親しく話しかけてきた東吾。接点なんてないはずだ。晴太は少なくとも知らない。下校だって登校だって、一緒にいる。初めて見た。


 一体、磐木とどんな関係なのか、晴太は気になって仕方がなかったわけだが、それを磐木に訊くなんて行為には及べなかった。


 あー、あのイケメン何者なんだ……気に食わない、いきなり可愛くなった磐木にちょっかいでも出しに来たのか? だとしたら許さん! 僕が見定めてあげようと晴太は思う……彼氏面すんな、烏滸がましいぞ……と言い聞かせる。


「――ちゃん! お兄ちゃん!」


「なんだ春乃か」


「なんだ、じゃないよ全く。どうしたの?」


 吹きこぼれしようとしていた鍋の火を弱めて息を吐く春乃。火力調整を覚えたなんて、と晴太は感慨深く思う。


「ちょっと考えごと」


「えー、お兄ちゃんが? 考えごと? なになに?」


 春乃はニヒヒと好奇心旺盛に晴太の背に手を添える。


 包丁持ってるから離れてろ――と晴太は言い、春乃は従って食卓に着いた。


「で、悩み事って?」


「……いや、なんで言わなきゃいけないんだよ」


「えー、だって気になるじゃん。あのお兄ちゃんが、だよ? ……コイバナだったら……気になるし」


「え? コ? なんだって」


「……そうじゃなくて! ただ春乃が気になるだけ」


 晴太はしばらく考えた。こんなこと、いくら妹に対してといえ言う自信など無い。どうせ辛辣な言葉が返ってくるだけ。わざわざ心を傷つけに行く理由はない。


「なら言わない」


「……なんで」


「話せるようなことじゃない」


「いいじゃん」


「あのなぁ、言いたくないって言ってんだよ」


 晴太は少し語気を強めてそういう。ようやく空気を読んでか春乃は息をのみ、口を横に結んだ。


「あっそ……別に、怒らせたい訳じゃないし……」


 ちょっと泣きそうな声で春乃はそういう。


 晴太は取り繕うような言葉を探す。


「悪い、別に怒ったわけじゃない。まぁ、自分から話すから……その時は聞いてくれ」


「……うん」


 しばらく静かな空気の中食事をした。そんな沈黙を破るように食卓に置かれたスマホが振動した。春乃のスマホが起こす振動。晴太は瞳孔を開いて言う。


「春乃」


「なに?」


「スマホ貸せ」


「え、なんで」


「いいから」


「……はい」


 春乃は嫌そうな顔をしながらスマホを寄越した。


 晴太は見逃さなかった。その通知が来た瞬間に画面がついたのを。その待ち受けがしっかり見えた。それはきっと春乃のカレシだ。怪しからん。どんな男か兄である晴太が見定めようと。


 それはとても見覚えのある顔だったことに晴太は驚愕。しばらく顎が外れた。


「なぁ、これ。カレシか?」


 まるでショックする父親のように、晴太は問う。すると春乃は呆れたようにため息を吐き。箸をおいて手からスマホを奪おうとする。


「答えろ! 春乃! こんなイケメンと――」


「――違うって! それはアイドル!」


 カレシではないらしいことに晴太は安堵する。そして今の爽やかイケメンが、春乃がよく聞いている音楽を歌っているアイドルグループらしい。


 けれど晴太は少し既視感を覚えた。


「なぁ、その男の画像、ほかにないのか?」


「え? まぁあるけど……見たい?」


「見たいから言ってるんだ」


「……じゃぁ……えへへぇ。はい!」


 恍惚とした表情の春乃からスマホを受け取る。


 皇スメラギという写真フォルダがひとつ。二千枚ちょっとの画像が保存されていた。


「あ……こいつ……」


 誤ってすべて削除しようとしてしまったがこれは妹のスマホ、勝手なことはしてはいけない。


 晴太は口元を押さえる。


「どうしたの?」


「……まぁな、お兄ちゃんはたった今、失恋したかもしれない」


「は? え……もしかして……お兄ちゃんって……スメラギ君が好きだったの」


「な訳ねぇよ」


 春乃の額にデコピン。


 晴太の心境は穏やかではなかった。


 まさか、高校で初恋の相手、磐木を狙うのがアイドルとは……。そりゃ磐木も濁したわけだ。


 そもそもアイドル同士で恋愛ってどうなの? という疑問が浮かんだがさしたる問題ではない。


 晴太は記憶を探ると出てきたひとつの言葉『皇帝』こんな強そうな存在があるなんて、そう思っていたが本当にあったとは驚く。『皇』すなわちスメラギ。


 その日の夜、晴太はそのアイドルグループの動画なんかをずっと眺めていた。気が付けば朝になっていた。



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