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僕のクラスの不登校が実はアイドルだった!  作者: M.H
一章 アイドル
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3話『妹の我儘』

 晴太はひとりで帰り道を歩いているにもかかわらず楽しそうだった。その理由は、トークに磐木が追加されたから。いまなら不審者と間違われても傷つかない。


 晴太は何か忘れながらも気にせず家に帰る。すると複数の笑い声が出迎えた。とうぜんそれが晴太に向けられたものではないと知っている。


 どうやら春乃は帰っているらしい。それも友達も連れて。ローファーが五つ。晴太の靴を並べて六つ。右左合わせ十二足。大きさ似たようなもの。晴太の靴が一番大きい。


 揃えられている靴、揃えられていない靴、いったいどんな子が来ているのだろうと気になるがそれを聞くのは憚られるし、絶対に教えてくれない。


 やはり兄として妹の友人の『質』をチェックしてみたくなる。


「お兄ちゃん」


 手すり越しに顔を出した妹、春乃は不機嫌そうな声音。


 何をしてほしいのか、抱きしめてほしいのか? 春乃は晴太の前に立って恐喝まがいに、


「ん」


「は?」


「ん!」


 春乃は「お手」の真似をする。


「なんだよ」


 晴太が春乃の手に「お手」をすると、次第にイライラを顕著にし、眉を険しく寄せる。晴太の手に春乃の爪がギリギリと食い込んでいく。


 危機を感じた晴太は結局春乃の意図を汲み取ることが出来ず、お手上げだと反対の手を挙げた。


「メールみろ! とっとと、はやく!」


「あんま大きな声出すなよ、近所迷惑。そんな乱暴な言葉遣いだと友達に怖がられるぞ?」


 晴太は頭を左手人差し指で掻き、面倒くさそうに右手でスマホを操作しアプリを立ち上げる。一分ほどデレデレと磐木と晴太だけのトークルームを鑑賞しているとガシッと横から奪われた。


「はぁ? 誰これ……まさか、彼女!」


 しばらく睨めっこ。


「誰でもいいだろ、勝手にみんな」


「彼女出来ようがどうでもいいし……チッ。はぁ? 見てないとかマジ意味わかんないから」


 春乃は「言うのも疲れました」とため息を吐き、晴太と春乃のトークルームを開く。


 晴太はちっこい文字をまじまじと見つめる。わざとらしく近眼のおじいちゃんの真似をしてみた。


 どうやら友達が来るから気を利かせてお菓子を買ってこい。という事らしい。『いいお兄ちゃん』を演じさせようとしているのかも知れない。


 晴太はとりあえず『嫌だ』と打って送った。すると春乃は「うぅぅ!」と悔しそうにする。


「マジ使えない。お兄ちゃんって何のために生きてんの?」


「少なくとも妹を喜ばせるためには生きてない」


「最低……」


 心底不愉快だと苦々しく顔をしかめ、大きくため息を吐き、二階へと戻っていく。そんな後姿を見て晴太はため息を吐き、カバンから財布だけを取って家を出た。


「ったく、黙ってりゃいいのに」


 別に妹のためではない。ただちょうど買いたいものがあっただけ。そのついでだ。


 晴太は兄として、ひとりの男として動いた。家族に優しくできない男が家族を持つべきではない。つまりそういう事だ。妹という最も近い異性を喜ばせられずにどうする。


「いらっしゃいませ」


 晴太が入店すると同時に、モップ掛けをしていた大学生くらいのアルバイトのお兄さんが迎えてくれた。やたらイケメンっぽいのが癪に障る。それに声もいいし。


 家から片道十分ほど。とてもアクセスの悪い場所にある故、晴太は春乃の自転車を飛ばした。


 この時間帯の客層は主に高校生や主婦など。


 とりあえずスマホを開き、何が欲しいのか春乃にメールを送る。


 既読はすぐについた。返信もすぐに来た。


『ポテチ コンソメ』


 晴太はうすしおが好きだ。言われた通りコンソメをカゴに入れる。あとお昼がまだだ、ハンバーグ弁当を追加。あとついでに春乃の好物のブリトー。


 同じように自転車を飛ばし家に帰る。安全運転第一。住宅街ゆえに車の交通量は少なくついつい道路で右左対向車の確認を怠ってしまう。


「ここに置いとくぞ、コンソメ」


 歓談を邪魔するわけにはいかないと思ったのだが盗み聞きは趣味じゃない。そっと置いて声をかけるにとどめたがどうやら余計なお世話らしくよくわからない理由で怒られた。ドアの向こうからは「え、いまの春乃のお兄さん?」「マジ? みたーい」というノリが聞こえる。


 晴太は自転車を飛ばした事もあり汗をかいた。不快を払うためにすぐにシャワーを浴びた。こんな格好で妹の友達に会う訳にもいかない。


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