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僕のクラスの不登校が実はアイドルだった!  作者: M.H
二章 愉快な先輩たち
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29話『ハーレムは夢のまた夢』

 朝、晴太は瞼をゆっくりと開いた。まだもう少し寝ようかと迷ったが上体を起こした。伸びた骨が擦れる様なそんな感覚がする。


 現在時刻は九時ちょっとすぎ。


 平日なら致命的な遅刻。けれど今日はそれも許される土曜日だ。ならなぜ寝るという選択をしなかったのか。それは昨夜の事。


『明日時間ある?』


「あるけど、なんで?」


『じゃ明日 十一時駅前集合ね』


 それっきり既読はつくものの返信はなく、晴太はおかしいと思いながら眠りについた。


 きっとスパムの類だろう、磐木のアカウントは乗っ取られているのかもしれない。


 けれど一応、もしかしたら本当に磐木本人かも知れない。そう思って晴太はパパっと支度を済ませ、春乃の昼食を作り置き。


 妹のピンクピンクとした自転車を飛ばして三十分ほど。駐輪場に自転車を止め、駅に向かう。大体待ち合わせ場所に使われる時計の下へ行く。


「遅い、五分遅刻なんだけど」


「……」


「訊いてんの?」


「どこだろうな……」


「おい! ……ねぇ?」


「やっぱりいたずらかー」


「ねぇってば……うぅぅ」


 晴太は泣き始めそうになった声の方に顔を向けて。自分に掛けられた言葉ではないと判断して辺りを再び見渡した。


 僕は女の子を泣かせたりしない……。


「あんたに言ってんの!」


 ガシと顔を小さな手が晴太の頬を挟む。晴太は困惑を浮かべる。掴まれた晴太の口がタコ見たくなっていてとても醜い。


 変な顔――と相良はぶつっという。


「まさか、磐木と思わせて君?」


 正体がバレ、相良は芝居がかった手つきでサングラスと外し、マスクを外し、帽子を外した。


「よく気が付いたわね、褒めてあげるわ!」


 ニヒヒと笑い相良は手を晴太に伸ばすが、晴太はぺしっと柔らかく払った。


「で、僕を呼び出して何するつもり? 警察でも呼ぶの?」


「……なんで機嫌悪そうなの。こんなにかわいい女の子と話してるんだからもっと嬉しそうにしたらどうなわけ?」


 相良は一歩踏み込んで頬をぷっくり膨らませ上目遣いに見てくる。


 晴太は可愛い女子と顔を合わせるのが不得意だった。そっと視線を逸らすと警察の男性と目が合う。


「うれしさよりも残念って気持ちの方が大きいんだよ」


 晴太は磐木に会えると思って来たのだ。相良に会いたいわけではない。それならいないでくれた方がよかったとさえ思っていた。けどまぁ……かわいいから……本気で帰ろうとは思わない。


 通りすがる男の目を引く容姿の相良はぷるぷると震え、怒り心頭。憤りをあらわにし、厚底の靴で地面を叩く。


 そのせいで周囲の奴がさっきから無関心にスマホを見ていたくせにここぞとばかりに視線を向けてきた。


「あんた! 樟葉にもそんな態度してんの?」


 信じられないという意図を含んだ声音に、晴太は一歩後ずさり訂正する。


「するわけない」


「なんで? 私だって負けてないと思うんだけど?」


 そう言って相良は肩を狭めて胸元をアピール。確かに……負けてない、というか勝ってるだろ……。晴太はゴクリと唾を飲む。


「知るか」


「あ、顔そらした。ま、いいや。早く行こ。予定の時間」


「はぁ? どこに行くって?」


「あんた男でしょ? 男は女の子の意志を尊重するの」


 すたすたと人ごみに進む後姿を晴太は追いかける。意思は帰ろうと、けれど帰らないのは女子とこうして二人きりで何かするというのは貴重な体験だから。経験値稼ぎだ。他意はない。


「あれ……村川……くん……――! どうしてここに!」


 そこには磐木がいた。かわいらしい淡い色合いのワンピース姿の磐木はあわあわと頬を火照らせ、片手を胸に添え、片手が相良の肩を掴んだ。


「磐木! なんでここに?」


 相良はこしょこしょと磐木に耳打ち、そして磐木はしばらく目も口も開いて、しばし晴太とみあってどちらからともなく顔を逸らして何もないように頬を掻いた。


「ほら、早く行こう」


「だからどこに――」


 晴太の質問に一切答える気のない相良に連れられ、苦笑する磐木と顔を合わせてちょっと照れる。電車に揺られ到着したのは、


「映画?」


 郊外特有の大型ショッピングモール。土曜日ということもあり学生が多く見受けられる。その中でも目立つカップルや、女子の群れがこちらに視線を寄越したりする。


 カレシ、こちらを見てはならない……。


 きっと帰り道で喧嘩するのだろう「かわいい子、見てたよね?」と。


「そうそう、パパの知り合いが監督してる映画。そんで、感想を聞きたいらしく見て来いってチケット渡されてー気が付いたら公開最終日に、って、何その顔。あんたホラー苦手とか言わないわよね?」


「べ、別に? 苦手じゃねぇよ? ……苦手じゃ、ない」


 ちょっと胃が痛くなってきた。今すぐトイレに駆け込まないとやばい気がすりゅ――。


「ほら、男なら奢りなさいよ」


 そんな晴太の気持ちなどお構いなしに相良は晴太の袖をグイっと引いた。


「……」


「な、なによ……」


 晴太がじっと蔑んだ瞳を向けると居心地悪そうに相良は唇を尖らせた。先に折れたのは相良だった。


「わ、悪かったわよ、調子乗った……」


 しゅんとしてポシェットから財布を取り出した相良。なんというか春乃とどこか似ていて晴太は逆に悪い気持ちになる。


「別に気にすんな。映画代だと思って払うよ」


「ほんと! やったぁ、じゃぁね、私はあれとーあれとー」


 思わず拳に力を入れてしまう。


 晴太は相良の我儘だけを聞くわけにはいかない。そう思い磐木に向く。ふと晴太はあのカフェでのことを思い出す。友達間での奢り行為はダメだと窘められた。


「友紀ちゃん」


 そっと相良に歩み寄って肩に手を置いた磐木が、とても優しそうな、良心に訴えかけるように言う。


「ど、どうしたの? 樟葉」


「村川くんを困らせたらだめだよ? 私の友達なんだから」


「え、でも、奢ってくれるって――」


「――友紀ちゃん? 奢ってもらうなんて、悪いと思わない?」


「え……だって」


「それにまだ会って二回目くらいじゃなかった?」


 相良は晴太に助けを求めるように目配せ。晴太はため息を吐いて一応言ってみる。


「これは映画代として、ほら、映画って高校生千円だろ?」


「駄目だよ村川くん、友紀ちゃんはね、一度そうやって甘やかすとずっと甘えるんだよ」


「え、マジ? って、別に甘やかしてないと思うんだけど」


 割と磐木は頑固なのかもしれない。別に高額取引じゃないんだから、千円くらい、二千円くらい奢らせてくれよ、男子として……。


「いいわよ、別に……たった千円、奢られるまでもないわよ」


 不貞腐れ気味に、鼻を啜りながら千円を財布から取り出す相良。


「また今度、別の形でお礼でもするよ」


「いらないわよ、そんなの。それに別の形って何かするつもり? やめてよね」


 肩を抱いて二歩後ずさる相良。かわいくねぇと晴太は思う。


 それからチケットを受け取り、ポップコーンにドリンクにチュリトスにホットドッグというやけくそ山盛り具合のプレートを持ちシアターに移動する。


 もちろん晴太が荷物持ちだ。


 足元の明かりを頼りに座席を見つけ座る。磐木を真ん中に、右手に晴太、左手に相良という座席。本当なら真ん中に陣取ってハーレムを味わいたいとか思っていた晴太。まぁ、隣が磐木というだけで充分だ。


「届かないんだけど」


「もっと乗りだせ」


「友紀ちゃん、シー」


「んんー」


「もうそっち持ってけよ」


「いやよ、邪魔なんだもん」


「ならこのバケツだけでも抱いとけ」


 晴太はプレートを陣取るポップコーンのバケツを相良に渡した。そのやり取りはすべて磐木の前を横切り行われた。


「村川くんも、シー」


「あ、はい……」


 本来ならちょっと手が触れてしまう、みたいな展開を期待していたのだが生憎、晴太は中盤辺りから大きく頭を振っていた。要するに寝てしまったのだ。


 だから鑑賞後の感想会で感想は浮かばない。


「別にあんたの感想なんてもとから期待なんてしてないわよ」


「そうかよ」


 晴太は格好つけて頼んでしまったコーヒーを啜る。


 高級感とコーヒーの香りに満ちた、高校生にはまだ早いおしゃれな店。晴太ひとりでは入店拒否されそうな店構えで臆することなく入っていった相良と磐木に驚きを隠せなかった。


 当然値段も相応。ちょっと考えて、キリマンジャロとか何まんじゃろとか何なんじゃろとか混乱してきたのでオリジナルブレンドを頼んだのだがやはり、晴太は後悔した。


 けれど今更コーヒーが飲めない、なんて思われたくもない。


 一口すするとまぁ、思っていたほどまずくはないが、二度目を飲みたいかと訊かれたら首を傾げる。


 それからしばらく、デザートなんかを食べてお口リフレッシュ。


 磐木が席を立った。どこに行くかなんて野暮なことは聞かない。


 丸い年季の入ったようなテーブルには二人、相良と晴太が残された。


「あの子、昔っから変わんない、変なところで頑固なのよね」


 先に沈黙を破ったのは相良だった。その発言が晴太に対して向けられたものなのかは不明だが、晴太は適当に言葉を返す。


「この前、奢ったら『ダメ』って言って金返されたな」


「そういう子なのよ、だから仲のいい友達が出来ても一時的で、一緒に遊んだらその日にハブられるなんてくらい」


「でも、ノートとかは貸すんだよなぁ」


「え?」


「ん?」


「あ?」


「何話してるの? 二人で、内緒話?」


 乗り出していた相良はそっと澄まし顔でお尻を椅子に戻す。


「別に内緒話なんて……そう、学校でのことを語らってたんだ。な」


「そうそう、学校でのことをねーあははは」


 相良は長い髪をくるくると指に巻き付ける。


 磐木はどうやら納得してくれたようで椅子に腰かける。


 それからしばらくして会計を個別に済ませて店を出た。


「じゃ、僕はこっちだから」


「私はこっちだから」


「わたしはこっち」


 各々帰路につき、別れた。


 家に着くころにはすでに夕方だった。


「あ、春乃に土産買ってくの忘れた……まぁ、いいか」


 代わりにコンビニで晩飯と板チョコを買って帰った。

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