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僕のクラスの不登校が実はアイドルだった!  作者: M.H
二章 愉快な先輩たち
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27話『雨の日、晴太は傘を差す』

 晴太はいつものように目を覚ました。夜中に目を覚ましてしまったおかげもあり眠りが浅く、起きることに苦労はなかった。


 ガチャ。


 向かいのドアが一緒に開いた。こういうタイミングの良さはやはり兄妹なのだなと思ったりする。寝起きだとわかるほど不機嫌そうな顔をする春乃。整った顔立ちは我が妹ながらかわいいと思う。


「おはよ」


「おう……おはよう」


 短く挨拶を交わし、晴太は春乃の二歩後ろを歩き、一階に降りた。出来ればさっさと支度を済ませたいのだがレディーファースト。


 晴太は一足先にキッチンに向かい、朝食の支度を始めた。炊飯器の蓋を外すと炊き立てごはんの良い香りが顔を包み込む。


 とりあえずグリルにホッケを突っ込んで放置。あとは冷蔵庫に仕舞った昨晩のおかず。朝から香りも味も濃いが特に問題はない。


 春乃は顔をしかめた。そして指差し言う。


「朝からなくない? ありえんくない? なぁ」


 いやいや、臭いきっつい――と鼻をつまんで言う春乃だった。まぁ、しっかり食べたわけだが。体は正直なのだろう。


 ふとテレビの天気予報に目を向けると夕方から怪しい天気だった。


 傘を持っていこうと晴太は家を出る前しっかり傘立てに手を伸ばして傘を取る。


「あいつ……やりやがったな……」


 なんという事だろうか。春乃は傘を忘れていっているではないか。水色のかわいらしい細い傘。良心に従いもっていこうかとも考えたがやめた。主に面倒だから。主に恥ずかしいから。というか下校して家に帰る間に雨は降らないだろう。そういう時間だ。


「ま、いっか」


 いざとなれば『お友達』とやらと相合傘でもしたらいい。


「今日雨降るらしいぞ」


「らしいな」


「らしいな、って。知ってて自転車のってんの?」


「仕方ねぇだろ、家の方からバスまでメンドクセェんだよ」


「濡れる方を選んだのか……」


「ま、雨降るの夕方だろ? 飛ばして帰りゃいいだけだ」


「そういうもんか」


 自転車通学の生徒は大変そうだ。バス停が遠く、学校から家が遠いと雨の日も自転車を必死に漕いでいる姿はよく見る。珍しくはない。授業中頭にタオルをかけていたり、毛先から雨水を滴らせていたり。雨の日の教室というのはなんだかとてもよろしくない環境だ。


「今日雨降るらしいよ? 傘持ってきた?」


「持ってるよ」


 見えてないのかな? と晴太は心配になる。もしかしたら僕の事興味ない? いや、あるわけないか……お茶しただけで思い上がるな僕、と晴太は叱責した。


「そうそう、雨の日っていえば、小学生の頃なんだけどね」


 いきなり昔話を始める磐木に晴太は耳を傾ける。


「大雨の日で、道路に大きな水たまりがあって覗いてたの。そしたら車が走ってきて――バシャン! ってそしたら私盛大に水被っちゃったんだ~」


 楽しそうに話す磐木と昇降口で上履きに履き替え、教室前方に置かれた傘立てに傘をさす。


 それから放課後。


「雨だね」


「あぁ、降ってきたな」


 自転車勢の生徒は慌てつつ楽しそうに外へ走っていった。この雨の中自転車を颯爽と漕ぐのだろうと考えると風邪をひきそうになる。


 気が向いた晴太はやや心配な気持ちでスマホを立ち上げ、アプリを立ち上げる。しばらく悩んだ末に一応春乃にメールを送る。


『傘持って行ってなかったけど大丈夫か?』


 とりあえず晴太はそう送信してスマホをポケットにしまう。


「どうしたの? なんかあった?」


「なんで」


「いや、表情暗いから」


「雨がふりゃそりゃ暗い気持ちにもなるよ。それより早く帰らないとじゃないの?」


「あ! そうだね」


 晴太は傘を持ち、磐木とともに昇降口に降りる。昇降口付近でたむろするのは傘もない、自転車もない、そもそも濡れたくないという生徒達。とても邪魔で当たり判定のないカバンにタックルでもかましたろうかと思うが性格が悪いのでやめた。


「でも私はこういうの嫌いじゃなかったりする」


「僕は晴れてる方が好きだよ。雨の日は洗濯物も干せない」


 乾燥機は電気代が高くなるからなるべく使うなと親からのお達しだ。


 主夫だね――と、磐木は言う。


「雨の音とか聞いてるとなんだか落ち着かない?」


「……確かに嫌な気持ちは忘れられそうだね」


「でしょ? 特にね車の中できくと世界から隔絶された気持ちになるよ?」


「それ落ち着くの?」


「さぁ、とりあえず自分だけしかいないような気持ちになれるね」


 やっぱりそれ寂しいよねと晴太は思うも口にはしなかった。


 しばらく屋根の下でバスを待ち、磐木と別れた。そういえば忘れていたとスマホを取り出し、通知の主を見る。


『傘ない』


「わかった。学校だよな?」


『来てくれるの?』


「行くしかないだろ」


『うん、昇降口にいる』


 職員室でも事務室でも行けば傘の一本くらい貸してもらえそうなものだが。


 とりあえず晴太は春乃の通う中学へ向かった。たぶん三十分ほど歩いた。通りすがる中学生がとても不思議そうな目で見てくる。晴太は眉根を寄せ、見るなオーラを発して昇降口へと向かう。警備のひとに見つかる前に帰りたい。


「お兄ちゃん……」


「帰るぞ」


「……バカみたい……」


 春乃は悪戯に微笑んでそういう。そんな様子を見てこそこそと変なことを言う中学生のガキは無視。


「――おい! 何すんだよ!」


「お兄ちゃんは濡れて帰っていいよ!」


「よかねぇよ!」


 晴太の手から傘をひったくった春乃は雨の中、飛沫を上げながら校門まで走り、しばらく進んだところで息を切らし、足を止めた。


 奪い戻した晴太は胸を激しく上下させて呼吸を整えた。


「ったく……最悪の気分だ」


「ごめんて、あんな大勢の中で相合傘なんて恥ずかしいし」


 晴太はびっしょりと濡れて重たく下がった前髪を五指でかき上げた。


「水も滴るいい男って? あっはは、ないない!」


 けらけらと笑う春乃の頭を鷲掴み、そして髪をぐしゃぐしゃにしてやった。


「マジありえない! サイテー、感謝して損した!」


「いつお兄ちゃんに感謝したんですか? ねぇ。お兄ちゃんびっしょびしょ。風邪ひいたら炊事洗濯、全部お前がやるんだからな? おぼえとけ?」


 こつんと春乃の額にデコピンをかました。


 すると春乃はへらへらしながら言う。


「ありがと。お兄ちゃん」


「最初っから素直に言え」


「絶対ムリー」


 兄妹仲良く、鈍色の空のもと、相合傘をして自宅へと仲良く? 帰ったのだった。



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