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僕のクラスの不登校が実はアイドルだった!  作者: M.H
二章 愉快な先輩たち
23/41

23話『アイドルとデートは周囲に注意』

 四限が終わり――お昼時間。


 もうお昼まで来ると気だるさは晴れていた。そしてなぜ調理実習室にいるかと言うと。


「今日は行かないの? 先輩のところ」


「……なんでいつも行ってるみたいなの?」


「でも実際ほぼ毎日通ってたじゃないの?」


「まぁ、確かにそうだけど、あれは料理の味見とかをするためであって決して、好きで行ってたわけじゃない、そう、人助けだ」


「人助け? 立派だね! それならきっと先輩は村川くんの事待ってるよ?」


「なわけ」


 晴太は不安になると落ち着かなくなる質だ。ちょっと様子を見てみる程度のつもりだった。文化祭の日もなぜか志良は除外されていたし。理由は薄々わかるが。ちなみに禁止券にされた無料券は未だポケットに入っている。あとで捨てておこうと晴太はくしゃっと握った。


「おや、晴太君」


 肩から膝くらいまである黒無地のエプロンが妙に似合う志良が、まるで待っていましたとばかりの笑顔を浮かべた。その手に握られていたのはフライ返し。野菜を炒めていたところらしい。正直うらやましいとは思う。料理研究会というおかげで出来立てのご飯が学校で食べられるのだから。購買に群がって、わざわざ大しておいしくないものにお金を払っている生徒が群がってしまいそうだ。が、そうはならないのは志良の作る飯はまずいと評判が広がっているから。けれど今の彼女は違う。しっかり人間の味覚に優しい味だ。


「先輩何作ってるんですか?」


 廊下にも少し逃げていた香り。酸っぱい香りが満ちている。なんだか体に染みついてしまいそうだ。


「これは酸辣土豆絲。この前中華料理屋で食べてな。作り方を教わったんだ」


 志良は磐木と晴太に箸を渡した。つまりは味見だ。


 細く麺のように切られたジャガイモ。つやつやと油を纏う。香りが強くきっと午後の教室はこの香りが微かに香るのだろうと思う。


「ん、普通にうまい」


「普通とはなんだ」


「うまい」


 それからそんなおかずと各自持参の弁当を食べ終えた。


 なんか臭くね? という現象は起こらなかった午後。


「今日久しぶりにレッスンないんだよねー……よかったらさお茶でもしない? ケーキとか食べて」


「今から?」


「そうなんだけど……もしかして用事とかあるのかな? それだったら全然いいんだけど……」


 磐木は上目遣いに晴太を見る。もちろんそんな控えめな表情で見られたら刺激されてしまう。


 勢いで二つ返事しそうになったが断りを入れてからスマホを開く。うちには腹をすかせた妹が待っている。お腹をすかせた妹を任せたらどんな暴挙に出るかわからない。外に隠してあるカギを家の中に置かれてしまうかもしれない。セルフ兵糧攻め。晴太が帰らなければ春乃は自滅。


『ケーキ、何味がいい』


『チョコ』


「よし、用事なんてない」


「ほんと! じゃぁ」


「行こうか」


「やったぁ」と微笑み、控えめに喜んだ磐木。さすがアイドルだと晴太は思う。ファンクラブとかあったりするのだろうか。


 それからバスに揺られること約十分。例のデパートが近くの駅で降りた。そこから三分ほど歩き一段下がった場所にあるカフェに入った。


「ここ今有名なんだ。友達に教えてもらったの」


「そうなのか」


 晴太は感心しながら店内を見渡す。静かな店内には馥郁としたコーヒーの香りが染みついていた。晴太は女性店員と目が合いそっと視線をテーブルに戻した。


「どれにしようか」


 磐木はすっとメニューをテーブル中央に寄せる。覗き込む体勢になると頭がごっつんとぶつかってしまいそう。わざとらしくぶつかってみようかと晴太は思うが痛いだろうからやめた。それに可哀想だ。傷つけたい訳じゃないんだ。


「僕はこれにしようかな」


「トッピングとかあるみたいだよ? えーどうしよう……これもいいかなぁ、これも、どれもおいしそう~……あ、でも太っちゃう……でもレッスンがあるから……少しくらい……ねぇ?」


 磐木の指がメニューの上で右往左往。時々指が引っ込むけれど再び伸びては懊悩としていた。


 そんな仕草で晴太はお腹いっぱいだ。


 結局磐木は欲に負けて、チョコレートソースとイチゴやバナナなど果物にホイップクリームなんかを追加していた。晴太は格好つけて名前の長いコーヒーなんかを頼もうとしたがやめた。何を隠そう晴太は苦いものが苦手。特にコーヒーは未だに受け付けない。たぶん子どもの頃に強引に飲まされたのが今でも濃く印象に残っているのだと思う。


 それから待つこと約五分。その間、なんだか視線を感じた。あとシャッター音。きっとパンケーキでも撮っていたのだろう。晴太は特に気にしない。


 運ばれてきたプレーンのパンケーキと磐木のトッピングありのパンケーキ。


 文句のないパンケーキを切り、口に運ぶ晴太は磐木を見る。夜色の瞳に星を浮かべた磐木はニコニコと満点の笑みを浮かべながら切り分け、パクっと……そしてしびれるように身もだえた。恍惚と脱力したように天井の梁をやや見つめて、再びパンケーキに向き直り。そして幸せに息を吐く。


「おいしい……はぁぁ」


 あっという間に磐木は三段のパンケーキを平らげ、さらにホイップの痕跡すら残さなかった。


 柑橘系の香りが強い紅茶を飲んで一息。そしてお会計。春乃のご所望通りチョコのケーキを買ってやった。


「僕が払うよ」


「いいの?」


「いいよ」


 ここは押し問答でもするかと晴太は思っていたがすんなりと払うことが出来た。


 店を後にして駅が近くなってきたころ。


「はい」


「なに?」


「さっきのお金」


「いや、良いって」


「ダメだよ」


「駄目なの?」


「ダメ。私奢ってもらうようなことしてないもん」


「……奢るもんじゃない? 普通」


「普通の友達関係に奢りなんて文字はないんです」


「……」


 結局晴太は磐木の手からぴったりの金額を受け取った。


 何とも言えない気持ちで晴太は財布に仕舞ったのだった。


「じゃ、私はこっちだから」


「そっか、じゃ」


「明日! 今日はありがと!」


 磐木と別れ、家に帰ると春乃は玄関にいた。


「ぐずん……」


「何してんの……お前」


 玄関にぺたんと女の子の座り方で座っていた。膝に置かれた手にはスマホががっちり握られていた。


「お兄ちゃんのばかぁぁぁ」


 どうやら春乃は晴太がかなり怒っていると思っていたらしい。だからケーキの味を聞かれた時、それは何かの暗号かと疑ったそうだ。ちなみに晴太の好物がチョコだったりする。


 すぐさまちゃんと晩御飯を作ってやったら機嫌を取り戻してくれた。志良に教えてもらったジャガイモの炒め物みたいなやつは好評だった。


「メール見ろ。ばか」


 晴太がトークアプリを開き、真っ先に見るのが磐木。次に気が向いたら春乃。基本的に気は向かない。


 春乃はちまちまとケーキをつついた。



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