22話『文化祭明けの空気』
二日間の代休を経て学校へ。
普段なら学校へ行っている日が休み、というのはなんだかとてもいい気分で思わず昼夜逆転生活をしたくなるものだった。おかげさまで朝起きるのがつらかった。こんな愚行が出来るのは若さ故だろう。
斯くして訪れた水曜日。
「お兄ちゃん邪魔なんだけど、何もしないならさっさと朝食の支度してよ」
「それが兄にものを頼む態度か?」
「違うの?」
「……違わないな」
絶対に違うのだが兄妹の間に縛りはあってはならない。無礼でも受け止めようという寛大な心に春乃は感謝すべきだ。
まだ頭が寝たいとうるさい。
ダルイ。
「……」
「さ、食わないと頭働かないぞ?」
「……お兄ちゃん……もしかして怒ってる?」
とても申し訳なさそうな顔をした春乃。さっきまでの不機嫌度合いはどこへ行ったのか。不思議に晴太は首を傾げる。
本日の朝食はレンジで温めたウインナーとごはん。一見とてもひもじい感じに見えるがとんでもない、十分すぎる朝食なのだ。ちなみに村川家での卵ブームは去った。
「はぁ。別に今更怒ったりなんてしねぇよ。ただ眠くてな」
晴太は大きなあくびをしてパリッとかじる。〇ャウ〇ッセンはそのまま食べてもうまい。
黙々と朝食を食べる。なんだか変な空気をかろうじて持ち上げるのはテレビの天気予報だけ。
まだまだ暑そうだ。早いこと涼しくなることを望む晴太。
カバンを持つと肩が重たい。別に何か入っているという訳ではない。教科書もノートも入っていない。シャーペンが二本と消しゴムと三色ボールペンが入っているだけだ。道中五度目のため息で心配な顔つきの小島に背を叩かれた。
「遅刻ギリギリだぞ」
「マジか、急がねぇとな」
「急ぐきねぇな? 仲良く遅刻はごめんだ、俺は一足先に行くぞ」
「おう、気をつけろよ」
普段より飛ばし気味の小島の背中はすぐに見えなくなった。大して晴太と言えばもうどうでもいいとばかりに歩いていた。何が彼を堕落させたのか、当然代休。長期休みの時は始業式を見据えて早起きの準備が出来るのだが。何が違うのかと言われたらたぶん特別感だ。他校の生徒は登校している中、コンビニでお菓子を買ったりするのだ。「あ、みんな勉強頑張ってんなー、ま、僕は休みなんですけどね」と言うあれだ。
時計を見るとホームルームが始まる時間だった。さすがにバス停に姿はないだろう……ないだろう。ないはずだ。悲しい。そんな感情。
「遅いよ! 遅刻じゃん!」
ガシ。
「あ?」
手首が掴まれた。職質かと驚き顔を上げるとちょっとだけ怒ったようなかわいい顔があった。
磐木はバカなのか、遅刻してなお晴太のことを待っていた。晴太は気が付いた。なぜ登校するのか。それは磐木に会うためなのだと。ダルイ道のりをさぼらず登校したのは磐木に会うためなのだ。ようやく晴太は思い出した。
「行くよ!」
「あ、」
手を引かれて校門をくぐり、昇降口でさっさと上履きに履き替え階段を駆けあがる。
そして入室。
「磐木、村川。同時入室、減点五……冗談だ。遅刻だな」
磐木は晴太の手を掴んだまま。その光景はあれだ、カップルのそれだ。どう考えてもただの友達ではなかろう。弁明の余地なし。
笑顔の磐木と向かい合う幸せ。
男子生徒数名は殺意を向けている。そんな気がする。晴太はゾッと冷や汗をかいた。
休み時間になり、磐木は席を立つ。すると驚くことに磐木は女子の群れの方に臆することなく割り込んだ。晴太はそわそわとしてせわしない気持ちになる。けれどそんな心配は不要だったのかもしれない。なんだか笑顔で会話を交わしている。周りの女子も特に嫌そうな顔はしていない。代わりに男子が殺意を向けている。晴太に。
人の感情を勝手に理解する能力に長けた晴太は身の危険を感じ、顔をそむけた。




