21話『文化祭 二日目』
二日目は近所の祭りのような雰囲気に落ち着いた。
一日目のように生徒しかいない内輪の空気。ゆえに晴太のようにひとり寂しく歩いているととてもみじめな気持ちになったりする。そのたびに「僕、つくづく高校生活充実してないな」と痛感。もともと自覚しているのだが、現実をわざわざ突きつけられているようなそんな痛さだ。晴太は今日も適当に校舎を歩く。
そして晴太はそっと振り向いた。
「気のせいか」
先ほどからなんだか視線を感じていた。自意識過剰かもしれない。自分のどこに見られるところがあるのか。顔つきだって普通だし、別に顔にゴミが付いているわけでもないだろう。気になってトイレに駆け込み、鏡を睨んだがいつも通りの冴えない顔だ。
そういえば準備期間の時、磐木は「友達が来たいんだって」と晴太に伝えたのだが、晴太はあのスープのせいで完全に忘れている。
三階から一階に降りて、いまだに視線を感じた。悪寒すら感じて背中に嫌な汗をかいた。
足は早まりライブの準備が完了した体育館へと晴太は向かう。
長時間の使用には向かないパイプ椅子に腰かける。そしてひとつ隙間を開けて誰かが座る。
「席はつめてください」
誘導の生徒に促され隣の席に腰をかけた。
晴太は少し仰け反って頭を固定したまま、眼球だけを動かして隣を見る。
ゆったりとした白のサマーニット。細い肩から流れる白く細い二の腕、薄暗い体育館内では不要な大きめのサングラス、そしてまだ暖かい季節、帽子は暑そうだと晴太は思う。視線に気が付いたのか隣に座る女性は左手で視線をカットした。
そして右手でこそこそとスマホを操作しだした。
晴太は不審がりながら前を向き。足をしっかり踏ん張っていきなり立ち上がり、出口へと小走りした。
「はっ――」
「もしかして、僕の事つけてます?」
塗装が剥げて錆びが浮かぶ重たい扉に背を預けた晴太が飛び出してきたロングスカートの女性に話しかけた。心臓はバクバクと鳴っている。もちろんこの感情は恐怖由来ではない、知らない異性に話しかけたという勇気由来。
「……バレた……っく!」
ぎこちなく顔を向けた女性はシンデレラのごとく裾を持ち上げて走り出した。
「うわ」
そして走りにくいスリッパ故盛大にこけた。その手に握っていた何かが地面を滑っていく。
「大丈夫ですか……って」
心配に話しかけた晴太はスマホを拾い上げて眉を寄せた。
「返して!」
「なにこれ」
「か! 返して! はよ返せ!」
晴太の身長は男子の中では低めだがそれでも女子と比べれば頭一つ分は高い。
伸ばした手の先にあるスマホを奪うべく、晴太の腕にしがみつく女性。
晴太が持つスマホには磐木の名前があった。そして現在、この女性は磐木とやり取りをしていた。
それからしばらくして人目のつかない校舎裏。非常階段下で。二人は隣り合って座っていた。
「磐木とはどういう関係?」
「……ただの友達」
「磐木はライブでしょ?」
「……だから来たの」
磐木の友達、相良友紀曰く。文化祭に行けない磐木の代わりに文化祭に行き、テレビ通話で様子を見せていたところ偶然晴太を目撃しあとをつけてみようという話になったらしい。そして見つかって焦った相良は走って逃げることを試みたものの転んだと。
「てっきり僕は磐木のファンに命を狙われてるのかと思ったよ」
「な訳ないでしょ。それで、あなたたちはどういう関係なの?」
相良はサングラスを投げ捨て、帽子を投げ捨て長い髪をバサッと散らした。かわいい子の友達は可愛いというように、晴太は思わず息を飲んでしまうかわいさだった。
晴太は「かわいいやつしかいないのかよ」と心の中で嬉しそうに言う。
そんな相良はむすっと頬を赤くしてグイっと顔を寄せてきた。挑むような視線はまるで役者のようだった。お化け役とかして不良を驚かせたら幼児退化させられそうだ。
それとふわっと良い香りが包み込む。
視線を下げるとゆったりした胸元から谷間が見えてしまったり……した。あとちょっとだけ指が触れた。
「じっと見んな!」
「――った! 何すんだよ、冤罪だ!」
「そんなことどうでもいい! どういう関係なの! あ、言えないんだ。だから誤魔化そうとしたんだ……」
相良の目からスッとハイライトが失われた。冷徹で冷酷なことを考えている瞳だ。
だからすかさず向けられたスマホを手でふさいだ。
晴太の顔を撮ってネットに晒すつもりだ。たぶん。ファンにバレたら抹殺される!
「僕らはただの友達で、それ以上の何物でもない!」
「予定は!」
「ない!」
なぜか相良は悔しそうに渋い顔をして、すぐにあきらめたように強く息を吐いた。
「あっそう、ならいいんだけど?」
「何なんだよ」
投げ捨てたサングラスと帽子を拾い、再び装着して歩く相良。
「もう帰る、さようなら村川」
晴太は名乗っていない。どうせ磐木から聞いたのだろう。しばらくして晴太は残りの時間を体育館で行われるライブで過ごすと決めた。
「相良って女子は何者?」
『この前言った友達だよ! 中学の頃からの。かわいい子でしょ』
「ノーコメント」
『そんなことより文化祭二日目はどうだった?』
「ライブお疲れ様。来年は一緒に回りたいね」
『え! それはなんと?』
二時間ほどして。
『え! 既読無視、、、(しょぼん)』




