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僕のクラスの不登校が実はアイドルだった!  作者: M.H
二章 愉快な先輩たち
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15話『朝支度』

 翌朝、晴太は『ライブの最前列でオタ芸を披露する』という夢を見た。一度もそんなことをしたことはないが完璧な振り付けだったと思う。


「卵の逆襲に燃えた鶏に襲われる夢じゃないだけましか……」


 いつも通り嫌々寝たがる体を起こし、手すりを頼り一階に降り、洗面所で顔を洗う。


 それから約十分が経ち。


「長いんだけど、早くどいてよ」


 壁に寄り掛かる妹、春乃が心底嫌そうにそう言った。髪は乱れて、目つきは凶悪という寝起きを隠すことない佇まい。


 晴太は黙って手を拭い、場所を譲り、入れ違いに出る。朝から喧嘩なんてごめんだ。争いごとは好まない平和主義。売られた喧嘩は買うが。


 晴太はキッチンに立ち、適当にウインナーを焼き、弁当と朝食を同時進行。面倒くさくてついつい手を抜く。炊き立てのご飯と袋から出したままのウインナーを入れたこともあった。春乃の身支度は長い。すでに三十分以上が過ぎていた。晴太は一足先に食べ始める。


「早く食べろー、遅刻するぞ」


 返事はドライヤーの向こう。中学三年生だ、わざわざ言ってやらなくてもわかっているはずだ。時間にはうるさい春乃。


 身支度が終わった春乃は女子中学生している。第一ボタンを開けていたり、注意されない程度のメイクをしたり、毛先がグルグルしていたり、スカートが短かったり。


 ぱっぱと食べて春乃はカバンを持って家を飛び出した。


「車には気をきぃつけろー」


 晴太の声はたぶん届いていない。注意散漫になるような性格ではないが心配だ。


 いつものように通学路を歩いているとまた小島と会う。ということはまだ遅刻じゃないなと晴太は安心する。


 けれどそんな小島はまずあくびをした。今日のイケメンの顔はどこか眠たげだ。眠たげなイケメン。この文字列は女子が喜びそうだと、極めてどうでもよく思う。


「珍しいな、あくびなんて。遅くまでゲームでもしてたのか?」


「ちげぇよお前と一緒にすんな。ちゃんと寝たはずなんだけどなぁ、なんだか眠いんだよなぁ」


「僕は毎日眠いけどね」


「ま確かにな。けど今日はやけに機嫌よさそうじゃん?」


「わかるか?」


「ははぁさては彼女とイイことしたからだな?」


 小島は「ヤルことはヤリやがってコノコノ」と晴太の右肩をパシンと叩いた。


 晴太は眉根を寄せて言う。


「カノジョじゃねぇし、友達だ……それにな、僕はまだ一度も……。そういうこと絶対に磐木の前で言うなよ?」


「なんでだよ」


「僕が傷つくし、磐木だって絶対に嫌がる」


 小島は疑問符を浮かべたが納得したように相槌を打った。どういう解釈をしたのか知らないけど。


 バス停で待つ晴太をじっと観察する小島をしっしと手で払い、待つこと約五分。磐木が現れた。バス前方降車口から降りる数名の生徒の中。磐木だとすぐにわかる。


 磐木は晴太を見つけるなり朝とは思えない笑顔を見せてくれる。きっと磐木が起きたから朝が来るのだとすら思う。違いない。


「おはよ村川くん」


「おはよう」


 ついついカバンを持ってあげようかと思ってしまった。それはある意味友達以上の関係だ。主従関係かも知れない。


「……あぁ……」


 晴太は眩しいものを見るように目を眇めてぼそっと声を漏らす。


 磐木は可愛い。デパートで会った時の磐木は完璧でもっとかわいかった。だから晴太は不思議だった。なぜ完璧でかわいいで学校に来ないのか。とてももったいない。


「どうしたの? なんかついてる?」


「いや、別に」


「んー? 何か聞きたいことあるの?」


「……あー、そう、卵焼きの話……かな」


「あ! 卵焼きね! そうなの、甘いのもしょっぱいのもどっちもあった方が良いかなって思って、二つ作ってきちゃったんだ」


「マジか」


「うん、それも今日に限って上手にできたんだぁ。楽しみにしててね」


 磐木は楽しそうに、言いたいのを我慢していたようにそう話してくれた。


 朝食を摂ったばかりの晴太だがすでに空腹だ。これはいわゆる別腹というやつだろうか。


「実はさ、昨日卵料理作ってみたんだよ」


「へー、どんなの?」


「本当に簡単なものだよ、親子丼とかオムレツとかスープとか」


「ほんとに料理好きなんだねぇ、食べてみたいなー……先輩も食べたんでしょ?」


 晴太は思わず隣の磐木を見た。少し視線を下げるとちょうどよく目が合う。ニコニコと相変わらず何が楽しいのか笑顔だ。そんな彼女は今「食べてみたい」と言った。最後の一言はよく晴太の耳には響かなかった。しばらく見つめあったせいかお互い顔がちょっと赤くなる。


「は、恥ずかしい……」


「食べたいか」


「え?」


「僕が作った料理」


「あ、うん? 食べてみたいかな」


 晴太はなんだかやる気に満ちた。こんな形で再び調理実習室に行くことになるとは。


 磐木はかわいらしく首を傾げる。何やる気になってんの? という視線に取れなくもない。



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