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僕のクラスの不登校が実はアイドルだった!  作者: M.H
二章 愉快な先輩たち
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13話『危険人物』

 先に言っておく。晴太と志良は先輩後輩の関係以外の何物でもない。友達でもなければ親友でもなく、ましてや恋人でもないし、結ばれる世界線もない。


 そんな志良衣澄と村川晴太の出会いは入学してしばらく経ち、部活見学の時。


 仕事熱心な両親のもとに生まれた晴太はもともと料理が好きだった、食べることも作ることも。だから『料理研究会(部)』というものが気になった。説明書き曰く、部員が足りず同好会扱い。一年を勧誘して部に昇格させたい。そのほかにも欲望は書かれていた『おいしい男子部位』とか。それは誤字で正確には『おいしい(が好きな)男子(部員)』だ。それでもよくわからないのだがとりあえず晴太は行ってみることにした。


 戦慄した。


 活動で使うのはもちろん調理実習室。入部希望者が数人いたのだが最後まで残ったのは晴太だけだった。なぜほかの生徒は逃げたのか、なぜ生徒数名が倒れたのか。その理由は『人間の味覚を持っていたから』。


「これが今回試作のオムライス! 一個千円の高級卵を今回特別に! 三つ!」


 目の前に置かれたそれはなんだ。味蕾がねじ切れるほど辛くしょっぱい血色ご飯で、それにまんべんなくかけられた卵黄、しかもただの卵だったら幸い、けれど塩だった。シャリシャリと岩塩の触感があった。味の極振り。憤慨した晴太は腕を振るい、真のオムライスを志良に食わせた。食らった志良はガクガク震え叫んだ。もちろんおいしすぎて、結果、晴太は志良という厄介な先輩に目をつけられお昼になると調理実習室へ召喚させられた。


 それからしばらくして晴太は磐木と仲良くなり、志良を無視し始めたのだ。


 特に嫌がらせをしてこないからあきらめたのだと思っていた。そして磐木がいなくなった七月。期末テストが終わり夏休みを目前に控えた時。志良はこういった「夏休み! 毎日うちに来て料理を作ってください! お願いしますなんでもしますから!」土下座して確かこんな感じに。普段やけに上から目線な言動故に感心したのだが……、


 まぁ、無視した。


 そして今日、夏休みがあけて三日目の放課後。足止めを食らった。


「また、料理研究会に来る気はないか…………」


「絶対にイ――」


「そうか、そういう事か」


 断ろうとした晴太は顔の前に手のひらを突きつけられ言葉を飲み込んだ。


 何かを悟ったとばかりに志良は腕を組み、晴太と磐木を交互に睥睨した。背にナイフが突き当てられたような悪寒を感じる。


「何、知ったような顔を……」


「つまり君たちは付き合っているな? よし。そういう事か。よくわかった」


 志良はグサリと包丁を突き立てるように晴太の眉間にビシッと指を突く。


「何が分かったって――」


「――よし、二人とも、私についてこい。カップルの成立を祝そう」


「どうしてそうなった! ――いや、うれしいけど……」


 幸い最後のセリフは磐木の耳には届かなかった。


「私、レッスンが……」


「知ってる。磐木。君を巻き込むわけにはいかない。早く帰るんだ――さぁ!」


「え、でも……祝ってくれるって」


「祝う気なんて……絶対にない! 早く帰るんだ! 見たろ、あの目。あれは『リア充死ね』の目だ」


 まるで感動的な別れを演じようとしたが無理。本当に巻き込みたくない。下手すれば声が出なくなってしまうし、神経がマヒして踊れなくなってしまう。


 晴太の心配をよそに磐木は手首の小さな腕時計を確認して言う。


「でも大丈夫だよ、一時間くらいなら。ご厚意を無碍にしちゃいけないんだよ?」


 晴太は頭を抱えた。仮に本当に何か食わせられそうになったら全部代わりに食えばいいと晴太は自暴自棄に考えた。


 調理実習室のある特別棟までの道のりはやけに遠く感じた。マラソンのラスト500メートルくらい遠い。


 道中、磐木は「カップルだって、そう見えるのかな?」と言い、クスと笑って見せた。晴太は「どうだろうね……あははは」とだけ返した。


 特別棟の調理実習室に来るまでの道のりで一通り晴太と志良の関係を磐木に話した。


「ここ?」


「そこだよ」


「お邪魔しまーす……わぁ」


 磐木は臆面もなく戸を開き、そして歓喜した。晴太は留めるように磐木の肩を掴み、そして唾を飲む。


 恐る恐る晴太は磐木の肩越しに覗く。


「晴太君なら来てくれると信じていたよ」


「セン、パイ――ッ」


 思わず感動しそうになった。銀色のテーブルの上に置かれた大きなチョコレートケーキ、鳥の丸焼きや焼き菓子たち。見た目だけは上達していた。


「君たちの噂を聞いてね、ついつい作ってしまったのさ。我ながら至高の出来だと思う。さぁ、味の感想を」


 何から食べるべきか――いいや、『見た目に騙されてはいけない』としばらくして正常を取り戻した思考が伸ばした手を殴打する。作ったのは志良だ。おいしい食材を無碍にするプロフェッショナルだ。


 それから晴太と磐木は志良に促されるがまま席に着いた。磐木はニコニコと笑顔を湛えて切り分けたケーキにフォークを突く。


「じゃーケーキから」


「勝手に――」


「晴太君、君には丸鳥をお勧めするよ」


「あぁ、ハァじゃぁ」


 どう切ったらいいのかわからない。迷っていると志良が捌きで丸裸にしていく。削がれ落ちていく肉。そして見え始めた骨格、そして内臓があるべき部位に詰まるのは何だろうか。ビンゴカードだった。しっかり袋に入っていて汚れてはいなかった。晴太は呑気に「フォーチュンクッキーかな?」と温厚な感情で思う。


「磐木? さっきから動きがないけど――」


 晴太が心配になり、そっと磐木の肩をゆする。


「――! 磐木――!」


 カチャン――音を立てて磐木の手からフォークが抜け落ちたのだ。


「だ! 大丈夫か磐木!」


「……あ、あぁ……何だろう……彗星かなぁ……あぁ……いや違う」


 磐木の口の端には死因と結びつくチョコレートが付いていた。腕の中で静かに息を引き取った磐木を椅子に寝かせ。晴太はびくびくしながら新しいフォークで少し掬い、口に運んだ。


 舌に走った刺激が全身に稲妻がごとく駆け抜けた。


 横に志良がいたからついついスタンガンでも食らったのかと錯覚した。


「彼女は大丈夫か?」


「ありがとうございます……って、原因先輩……これ、何入れたんです?」


 志良が渡してくれたコップに注がれた水はきっと「磐木の顔面に振りかけて起こせ」という事だろう。磐木をこうした原因である志良は得意げに腕を組み言う。


「知りたいか?」


 顔つきだけは一流のシェフだ。


 知りたいと口に出すのも嫌なので頷いた。


「胡椒、山椒それと――」


「――待って、先輩。待って」


 確かにチョコにそれらスパイスは合うけれど、たぶん相当分量を間違えている。これはチョコじゃなくて山椒と胡椒の塊みたいだった。


「なんだ?」


「常々気になってるんですが先輩。味見してます?」


「してないが?」


「なんで」


「なんでって、自分で作ったものだからだな」


 晴太は先輩の声など別に聴きたくない。だからとりあえずフォークで大きめに削り取った山椒胡椒ケーキを渡した。


「とりあえず食ってください。そうすれば多少の上達は見込めますよ」


「……私は自分で作ったものは食べない主義なのだが」


「いいから――くえっ!」


 無駄口を叩く口に押し込んだ。失敗したら先輩の前歯を折るところだったアブナイアブナイ。


 強烈な一撃。先輩は自らが生み出した兵器によって悶絶。末に白目をむいた。泡を吹いてしばらくシンクに顔を埋めては呪詛を唱えていた。


 その隙をついて晴太は磐木を背負い、戸を乱暴に引いた。


「磐木、ここは危険だ。早く逃げるぞ――おっも!」


 いくら女子と言え睡眠中。足腰に響く重たさだ。細いのに。詰まってんだなぁ。


 この時、晴太は背中と膝裏に回した手で感触を味わっていた。非難されることはない。これは避難だ。あの場にいたら死んでしまいかねない。


 背中が、熱い!



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