【東方二次創作】どことなく似ている
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いつになく太陽が活力を増して、容赦なく全てを照りつける夏真っ盛りの幻想郷。その端の方にあり険しい道程と狂暴な方の妖怪の巣が乱立している関係で出来た人類未踏の地に、風見幽香は(私だけど)新種の植物の噂を聞き、太陽の畑から足を運んだ。
人類未踏と言えども、空を飛べる妖怪は普通に向かうことが出来るから、様々な噂が流れている。特に人間相手にはどうとでも言うことが出来るから、噂の信憑性は高くはない。妖精なんかは行ってすらいないのに新しい噂を産むだろうから、さらに拍車をかけて信憑性を下げている。
しかし、もし本当ならば見てみたい。
私も最近はひまわりばかりを世話していたから、ここら辺が今どうなっているかは全く知らない。だから視察も兼ねて来てみることにした。
もちろん主な目当ては新種の植物だけれど。
道なき道を軽快に歩いていると、藪の中で何かを踏んづけた。ぐにぐにと弾力のある何かを。
「あら?」
何かと思って腰まである藪から引きずり出したら、どこかで見たことのある妖怪がぐでっと伸びていた。確か、竹林の狼だったかな?名前は───えーと?
「カーペットに良さそうな毛皮ね。毛づやも良いし。······ただ、あんまり長持ちしそうにないわ。やれやれ。」
どうにも様子が変だ。ほっといたら消えそうなぐらいに弱っている。どうしたのだろうか。
見殺しにはしたくないし、持って帰ろう。ダメそうなら、きちんと見殺しにはしないわ。
と、背中におぶって来た道を引き返し始めた。背中の荷物に気を使って、持ってきた日傘をさして。さくさくと。
例え森の中だとしても、私の日傘に触れるような草木はいないのだ。
「う······」
床に敷いた敷物が呻き声をあげて目覚めた。重厚な美しい色合いのアンティークな木の机がガタガタ揺れて、鏡のように綺麗な年代物のシルバーのティーポットが頭に落下して中の紅茶が撒かれる。
「あら、キームンを軸とした私のブレンド紅茶がそんなに気に入った?」
「い、いや、この、頭のこれ!どけて!どけて下さい!痛い!痛い!死んじゃう!」
「仕方ないわね」
と敷物の頭を軽く蹴り飛ばして、足で放り投げ机の上にポットを着地させる。
「う、うぐ、ここは一体······」
うぞうぞと机の下を這い出して服で床を掃除している様子を見て、ちょっとやり過ぎたと思った。まあいいか
「ここは太陽の畑よ。私は風見幽香。あなたは───私の敷物の付喪神ね?カーペットが服を着ているのはいささか不思議だけど、とりあえず私のペットとして」
紅茶を入れ直しながら敷物に状況を説明していると、そこそこ元気を取り戻した敷物が起き上がって私の言葉を遮った。
「いや適当な記憶を植え付けないでよ。私は今泉影狼。竹林で狼の妖怪やってるのよ。」
今泉、影狼。影狼ねえ。どっかで聞いたことあったような、いや、こんな弱そうなのじゃないだろうからどっちにしろ無関係ね。私が覚えておくぐらいの妖怪じゃないわ。多分。でも以前も油断して痛い目にあったから、ちょっと調べてみてもいいかも。
新しいペットもほしかったし。
「なんだ、つまんないの。あなたは幻想郷の外れとしか言いようがないエリアで倒れてたのよ。雑魚妖怪はこんな日は家に居るのが一番なのに、なんであんなところまで?」
「え、ああ、たいした事じゃないんだけど、あそこに幻の草食動物が生息しているって噂があって、」
恥ずかしそうに頬を掻いて、
「ちょっと、その、食べてみたかったのよね。そ、そういう貴女は?」
ごまかすように私に話を振った。
「私も似たようなものよ。お花を見に行くつもりだったの。あ、そうだ。一緒にピクニックに行きましょうか!お弁当作って。どうかしら?」
「お、いいじゃん。手伝う手伝う······うっ、」
ぐらりと頭が揺れて、影狼は半歩体を下げた。倒れそうな体を、胸ぐら掴んで正す。
「無理しないの。犬肉食べたいのかしら?」
「は、はい······」
手を放すと萎縮したように床に三角に座り込みうなだれる影狼の首筋を鷲掴みにして、
「あら、殊勝な考えね。」
手の間接を小気味良く鳴らして柔軟する。
「えっ」
「めんどくさいけど、解体してあげるわ」
「いやそういう事じゃなくて!そういうはいじゃない!ヤメテー!幽香さーん!助けてー!」
もがく影狼を、寝室のベッドまで引きずった。
時間は移り夜。三日月から半月までの微妙で中途半端な月を背に、陸路をのんびり歩いていた。手に大きなバスケットを持った犬を連れて。
「何で首輪なんて家にあるんですかねぇ幽香さん」
「迷子になったら影狼、死ぬわよ?」
「そういうことじゃなくて······」
反論が無駄だと悟ったのか、不貞腐れたように無言になって引かれる影狼。なかなか素直になったじゃない。
夜の森をしばらく進むと、下草の心地よい広間に出た。あんなに密々と茂っていた森がそこだけぽっかりと穴のように空き、ちらほらと小さな花の咲く地面を少しばかり進むと、美しい月を仰ぐ事の出来る幻想的な風景。その魅力は、確かにありとあらゆる噂を産むのに相応しい。
「ゆ、幽香さん、休憩しましょうよ!というかこの先こんなに綺麗な場所無いですって!」
木々に引っ掛かり雑魚妖怪に絡まれて疲労困憊の様子の影狼は、嬉々として犬のように駆け巡ろうとして首輪に引っ掛かりずっこけた。
「私からリードを奪える犬は居ないわ。でもまあ、ここで休憩しましょうか。」
「やったぁ!」
「じゃあ、これ影狼の分ね」
マットを敷き、3つ焼いたパイのうちの1つを半分に切って手渡した。元気にかぶりついた影狼は───
「ゆ、幽香さん?」
そのままの形で固まった。
「なに?私のパイなんて食べたくないのかしら?」
ちょっと傷ついた様子で出方を待つ。
「あの、これ、何のパイ?」
「クズ野菜と魚の骨」
「えっちょっと」
「犬にはちょうど良いかと思って」
「食べ物粗末にしないでよ······」
「粗末になんかならないわ。ねえ、影狼?」
「ひっ、ま、まさか」
······まあ、見たい顔を見れたから良し、ということで一口で許してあげたけど。
草原を撫で付ける爽やかな風を追いながら、魔法瓶で持ち込んだ紅茶を飲む。影狼は隣でとても美味しそうにほっぺに手を当てながらミートパイを食べている。今度遊びに来ていいか、とか湖に居る親友の事だとかちょっとひねくれてる親友の事だとかを楽しそうに話す影狼を、隣で花のように静かに聞いていた。
そして満月がとっぷりと天を過ぎ、星々が太陽の訪れの香りを感じ始めるぐらいになって、私達は帰ることにした。
「やー、疲れたけど楽しかったよ!幽香!パイは美味しいし!」
「自分の事を話すのが好きなのね。でも、誰が呼び捨てを許したかしら?影狼」
すらっと手に殺気を込めて、抉るような突きを繰り出した。
「ひっ!」
私の右腕は影狼の背後の空間にめり込んで、紫がかった謎の体液と、私から吹き出る真っ赤な血液に濡れている。
「影狼。······なかなかやるじゃない」
左腕は影狼の肘間接から先を捻切っていた。
あの一瞬で私の右腕に左手を突き刺し、心臓を摘出する一撃をついでに狙って来た。とっさのことで対応が遅れて、つい心臓をガードよりも早くに手が出てしまった。
「えっ、あ、えっと」
空間がぼやける。徐々に徐々に無限に続くような木々が映り出す。それと、そこに居る異形の木のような妖怪の死体も。
「んっ!」
私は何かの血液が滴り、影狼の爪が突き刺さった右腕を服ごと肩から切り離した。体液が入ると、さすがの私でもヤバいかも知れない。
「あ、あの、何が······」
「······幻覚はどれだけ楽しかったのかしら?」
「影狼」
影狼を木の根の上に正座させて、その膝上に石抱きのように座り込む。
「はっはい!」
「まず、自然にあんな地形は出来ない。土か、草か、周りの木か、他の何かに原因があるから疑いなさい。次に、出掛けるときは半月にすらなっていない月がなんで綺麗で丸いのかしら?この時点で幻覚を疑いなさい。そして狼のあなたが森で迷った事と照らし合わせなさい。二度目よ?影狼が幻覚にかかったの」
「ごめんなさい!」
返事だけはいい。ま、こういう言われた通り出来るタイプも嫌いじゃない。
影狼の、いろいろあってくたくたに汚れたドレスの肩に手を回して、お姫様抱っこのように抱きつく。
「それと、」
「わたしを信じなさい。」
顔を真っ赤にする影狼。これはペットになる日も近そう。
「じゃ、帰りましょうか。私もさすがに利き腕無いのは怖いし、飛んで帰るわよ。」
「じゃあその、降りてくれませんかね」
「飛ぶのは苦手なのよ。送ってって」
「え······あ、か、かしこまりました!」
空に上がると幻覚の楽園にも引けをとらない景色が眼下に広がり、透明な空気は遠く人里上空で弾ける弾幕も見えるほどだ。月光に青く染められた幻想郷を塗りつぶすような星の光。先手優勢って所だろうか。星屑の魔法使いはいつだって先手だ。そろそろ大技でシメにかかるかな。
「ところで、千切れた腕なんてバスケットに詰めてどうするの?影狼食べるの?私のなんて多分毒よ?」
「いや、友達に手フェチが居るから見せびらかしてやろうかと。肌とかすべすべじゃないですか」
「再生した腕ってしばらくケアしないといけないのだけれど?」
「ごめんなさい幽香さん~!」
幻想郷を縦断して、太陽の畑の私の家まで戻ってきた。静かで変わりのないようで良かった。
「気分は空飛ぶ絨毯だったわ」
「敷物じゃないですよ!」
「フン。お休みね、影狼」
「おやすみなさーい」
冷たい湖には、常に恐ろしい怪物が居るらしい。だが、幻想郷の湖は魑魅魍魎すぎて怪物がどうたらとか言うレベルではない。
「やっほ、姫。腕とれちゃってさ。持ってきたよ」
と水面に気さくに話しかける影狼。揺らめく影が浮き上がり、水柱と共に彼女の親友であるわかさぎ姫が這い出す。
「お帰り影狼ちゃん。今日はどこ?」
「右の間接の先。今回はさすがに結構時間がかかりそうな怪我だぁ。はい姫の分」
千切れた自分の腕を、袖から出して水に放り込んだ。
「あとこれ。幽香さんの右腕。いいでしょ。あげないよ」
「えっ、何、あの幽香の腕もぎとったの?影狼ちゃんもやるじゃない」
「いや、守って貰ったと言うかなんと言うか······助けて貰ったね。あ、あとねあとね。ミートパイごちそうになったのよ!」
「······???」
「ああ、えっとね───」
お話好きの狼は、興奮冷めやらぬ子供のように朝が更けるまで話こんだ。途中で人里に住むもう一人の親友と合流して、話はますます加熱していった。
「あんたが腕を丸っと取られるような相手なんて珍しいわね。幽香」
「なかなか面白いのが居て。ペット候補なの。あなたもどう?アリス。」
朝焼けの力強い光すら届かない瘴気に包まれた魔法の森。中央に位置する西洋のような白を基調とした館には、旧友であるアリスが住んでいた。本職は人形使いなんだけど、今日は友達のよしみと言うことで服を直して貰いに来た。
「よしみって言って何度コキ使うつもりよ。お陰で血抜き処理が得意になったわ」
なんて言って喜んでくれるし、すごく助かっている。
「ところでなんで着替えてないのかしら?肩が丸出しじゃないの」
「家に帰ってから真っ直ぐアリスの家に来たから······」
「相変わらずどこか抜けてるわね、幽香は。ほら、ちゃちゃっと直すから脱いで頂戴。あと洗濯はしないからね」
「血抜きはアリスのが上手いじゃない。今度茶葉持ってくるから抜いといてよ」
「むー······」
むくれながらも、なんだかんだ言って世話を焼いてくれる。そこがアリスの良さでもあり、また弱点でもある。
まあこれだけだと何なので、出不精の魔法使いにとっておきの土産話もプレゼントすることにした。今ごろはきっと影狼も、親友たちに今日のことを話して聞かせているだろう。