カエルの王子さま(もうひとつの昔話 32)
その昔。
ある国に王様がおり、この王様には、だれもが目を見はるほどの美しい王女がいました。
ある日。
王女はお城の近くにある森で金色のマリをついて遊んでいたのですが、うっかりそのマリを泉に落としてしまいました。
マリは泉の底に沈んでしまいます。
そのマリは王女のお気に入りで、とても大切にしていたものでした。
王女が泉のほとりで涙を流していますと、泉の中からカエルが顔をのぞかせました。
「王女さま、どうして泣いているのですか?」
「泉にマリを落としてしまったの」
「では、わたしが拾ってきてさしあげましょう」
「ほんと?」
「はい。そのかわり、わたしの友だちになってください」
「いいわよ」
「それに、同じお皿で食事をして、同じベッドで寝てください」
「わかった、約束するわ」
王女はとんでもないと思いましたが、お気に入りのマリがほしいばかりに、このカエルの望みをしぶしぶ受け入れました。
カエルは泉の底からマリを拾ってきて、草の上に放り投げました。
王女はマリを手に取るとカエルには目もくれず、一目散にお城へ向かって走りました。
「待って! わたしも連れていってください」
カエルは王女に追いつくことができず、泣く泣く泉にもどるしかありませんでした。
その晩。
王女が王様たちと食事をしていると、ペチャリペチャリと奇妙な音が近づいてきました。
音がやんで声がします。
「王女さま、わたしも一緒に食事をさせてください」
そこにはあのカエルがいました。
「お父さま、あのね……」
王女は森であったごとを王様に話しました。
「どんな理由であれ、約束したことはちゃんと守りなさい」
王様はそう言いました。
王女はしかたなくカエルを食卓へと招きました。
カエルは王女の隣で食事を楽しみました。
反対に王女は気持ち悪くて、食事がちっとものどを通りませんでした。
その夜。
王女が寝ようとすると、カエルがベッドのそばにやってきました。
「約束どおり、同じベッドで寝させてください」
「イヤよ!」
王女はカエルをいきなりつかむと、ありったけの力で壁に投げつけました。
するとどうでしょう。
カエルは美しい若者の姿に変わりました。
「わたしは隣の国の王子です。王女さましか、わたしを元の姿にもどしてくれる人はいなかったのです」
魔法使いに呪いをかけられ、みにくいカエルにされていたことを、王子は話しました。
「でも、今はこうして立派な王子さま。ぜひこの城にいてください」
王子が叫びます。
「いいえ、わたしはカエル!」




