8.泉で
「ただ今戻りましたー!」
ユイは家の扉を開けてそう言った
「あぁ、おかえり、冒険者登録は済んだのかい」
「はい!なんか色々ありましたけど……」
ユイは冒険者ギルドで起こった冒険者ランクの話をした
ユーリカさんは椅子に座って黙々と聞いていたが話し終わるとはぁ、とため息をついた
「こうなるとは思っていたんだよ」
え……?
「どういうことですか?」
「いや、ならないように願っていたんだけどねぇ、結果的に事実は変えられないからどうしようもなかったんだよ」
「あんたが家の前に倒れていた時に無事だったのは魔獣の闇属性とは逆の光属性が魔獣より大きく上回っていたことを意味するんだ。」
「それが、どういう……?」
例え私の光属性が高かったところで魔力が多くなるとか分からないんじゃないのかな?
うーん、よく分からないや……
ユーリカさんはよくわかってない私を見て呆れたようにもう1つため息をつく
「そうだったね、あんたには何もわからないか。この森の魔獣に襲われないくらいに魔力が高いってことはその時点でAランクに到達できるくらいなんだよ」
「おっと……」
なんとそれは、だったら私が自分の家の前で倒れていた時点でユーリカさんにはAランク以上ってことはバレてたわけだ
「それでねぇ、あんたには危機感が足りなさすぎるよ……その話をする人は限られた人にしな。魔力の高い女は貴族に献上すると莫大なお金と交換されるんだ。」
「はい……」
しかもユーリカさんはお金が貰えるにも関わらず私を貴族に突き出さなかったんだ。
たった2日一緒にいただけなのにユーリカさんが私のことを大事に思ってくれているのがつたわってきて、私は思わず泣いてしまった
「ユーリカさん……ありがとうございます……!」
ユーリカさんは私が泣いてしまったのを見て酷く驚いていたようだけど、家族がいない私にとって、その気持ちは何にも変え難いものだった。
その後私は寝てしまったみたいで、起きたらソファに横になっていて毛布がかけられていた
そんなことでも嬉しくなって私の頬は知らず知らずのうちに緩んでいた
「ユーリカさん、毛布、ありがとうございます」
ソファから起き上がって机について一息ついていたユーリカさんにお礼を言う
「あぁ、それよりユイ、長い間寝ていたけど、仕事なくなっちまうんじゃないのかい?」
「えっ!!!今何時ですか!!!」
「9時くらいじゃないのかい?」
どんだけ寝てたんだ私!?!?安心し過ぎだよ!!
急いで部屋に戻ってユーリカさんに貰った動きやすい冒険者用の服をきて、ラルフさんの店で買った剣を持つ
「じゃあ行ってきますね!!」
「気をつけていくんだよ」
ユーリカさんの家から王都まではずっと森の中を突っ切っていくだけだ。道の途中で魔物に会うことがないからこの森は安全な森なんだと思っていたけど、私の魔力のせいで魔物が出てこないだけなんだと知ったあとは全速力で走り抜けるようにしてる
そうすると結構早く王都まで着くのだ。
「ふー、結構走ったかなー、昨日教えてもらった泉はここら辺だったはず……」
昨日王都へ連れていってもらう時にユーリカさんが半分くらいの目印、って言うのといい休憩ポイントって事で教えてくれた場所だった
木に囲まれていて分かりにくいけど澄んでいてきれいな水があるから落ち着く場所だった
きれいな水がある所には生き物も沢山集まってくる
「ふふ、かわいい……」
水の近くの岩に座っていると、角が1本生えている兎が来た
「よーし、おいでー……」
触りたいなーっと思ったユイはその兎に手を伸ばすが、それで気づいたのか兎は怯んだようにキィッといって森の奥に逃げて言ってしまった
「ええっ、兎さん!!行かないでぇ……」
可愛い小動物に逃げられた……
私何にもしてないのに……
そうして悲しみに暮れていた時だった
急に前方からガサガサと音がする
魔物がきたのかな、闇属性じゃない魔物?
近づいてくる音に警戒してユイは剣に手をかける
「……まも、の……?」
森の中から出てきたのは金色だった
「俺を魔物扱いするなんて相当頭がいかれてる奴らしいな」
金色の髪が太陽の光に照らされてキラキラと光っていて、目の色はきれいな蒼だった。
「あっ、す、すいません!」
あんまり綺麗な人だからびっくりしちゃった……
こんな人がなんでこんな森の中にいるんだろう……?
「ここで、何してるんだ?」
目の前のキラキラしてる人はあろう事か私に話しかけてきた
「え、っと、王都に行く途中で、休憩してました」
へぇ、とキラキラさんが言って近づいてきた
「俺も今から王都へ行くところなんだ、よければ一緒に行かないか?」
「えええっ!私なんかがそんなキラキラしてる人と行くなんて無理です!」
思わず心の中で呼んでいたものが口から飛び出してしまった
数秒後ぷっ、と吹き出す声が聞こえたと思うと口を押さえてこちらを見ていた
「キラキラしてる、……ってそれ、髪の毛だけだろ、俺の名前はゼルディア、君の名前は?」
「ユイです、よろしくお願いしますゼルディアさん」
ゼルディアさんは顎に手を当てて少し考えたようにしたあと、顔を上げて言った
「ユイには俺を呼び捨てしてもらいたい」
……
……
「え!?」
呼び捨てしてもらいたいとは!?
「だめか?」
「特別な意味とかありませんよね……?」
なんでわざわざそんなこと言うの!?え!?なんかあるのかなこの国!?いやいやでもみんな私の事呼び捨てだし何も無いはずだけど!?
だが杞憂だったようだ、ゼルディアさんは眉間に皺を寄せてこっちがわからないと言ったように首をかしげた
「特別な意味……とは?」
「なんでもないです!呼ばせていただきます!!」
結局自分だけ恥ずかしくなるユイだった
あの子は森の中へ帰っていった。
あの森は強い魔物がいるから人はあまり近づこうとしない、ましてやその森に入るなんてことはまずしない。
森の奥には一件家があるという噂がたったこともあったが、そんなことは無いだろうと噂は直ぐに消えた
だが、あの子が森の中へ行ったということは噂は本当だったのかもしれない。
次の日俺は森に入ってみた、案の定魔物だらけだったが、苦戦する程ではなかった。
話し声が聞こえたので近づいてみると、いた。
キラキラ光る銀髪を持つあの子が。
思わず木の影から出て行ってしまうと、警戒されていたみたいで剣に手をかけられていた。
まぁそうだよな、普通この森から何か出てきたら切りつけてても仕方がない……とは思ったけどまさか俺を見た後に魔物?だなんて、面白いことを言うものだ。
何をしていたか聞くと王都へ行く途中だという、これは……噂は本当だったらしい。
1人で森の行き来が出来るということは相当強い冒険者らしいな。
これは可能性があるんじゃないか?
俺らしくはないが、少し頑張ってみるか。
ようやくなんか若い男の子が出てきました……
おばあちゃんにおじちゃんに若い女の子に強面……キャラが濃いですね……