後輩
「ユーリカさん、私にそんな大事な話をしてくれてありがとう」
「ユイはもう私の家族だからねもう二度も同じ失敗は繰り返したくないんだよ」
ユーリカさんは私の手をぎゅっと握って悲しそうに笑った
その手を握り返し、ユーリカさんを見つめ返した
「私は絶対絶対、ユーリカさんのそばを離れないよ、一人になんてしない、幸福のネックレスだってあるもん、大丈夫だよ」
「……ありがとうね、ユイ」
ユーリカさんが弱気になっていたところはこの時だけで、そのあとそんな風になったところを私は見なかった
次の日からは、それはもう昨日なんかありましたっけ?あれ?幻?ってくらい普通だった
「じゃあ行ってきますね!」
「あぁ、気を付けるんだよ」
「はーい!」
あの出来事から一週間ほどたった今でも、あの人たちが出てくる気配はなかった
だからそこまで心配することなかったじゃないですか、とギルマスとレティに言ったらめちゃくちゃ怒られた。解せぬ。
「いやぁ……クエストも慣れてきたし、レベルも13、まだまだ低いけど一週間クエストだけやってたにしては上がったほうだよね、10も上がったっていえば聞こえはいいし……」
家から王都までの森の道を歩きながらレベルだけのステータス表示を見つめる
「うーん、やっぱりRPGの醍醐味って……レベリングだよね」
「はぁあああああっ!」
前の戦闘でリアルに戦うと返り血がすごいことを知ったユイは次のクエストからゼルディアから貰ったマントをつけて戦っていた
幸いマントの色は血が目立たないようにという配慮からかダークレッドだった
血がどれだけついていようと気づかれない、とユイは何も気にせずに戦えた
「っふー、疲れた、大きめの魔物を重点的に倒した、と思うんだけど……システムログがないとやっぱ不便だな……」
どの魔物を借るのが効率がいいのかわかんないよ……
とレベル表示のウィンドウを出す
「おっ!」
朝早くから今、ちょうど王都の昼の鐘が鳴るまで狩っていたからか、レベルは26まで上がっていた
「うーん!お腹もすいたし、ここらへんでいったん休憩だな!」
ユイは王都についてすぐ目的の場所へ向かった
目的の通りまで行ってしまえばあとはわかる、なんてったって匂いがすごいのだ
「相変わらず空腹に毒だな……」
扉を開けていつもの席を見る
「あ」
「ん?」
そこはゼルディアと共に食べた店だった
「ユイ!!」
「誰、ですか」
目の前にはゼルディア……と、黒髪の目つきの悪い男がいた
「こ、こんにちは、ゼルディア、その人……ひっ」
なんでこの人は私をこんなににらんでくるの!?!?
ユイは初対面なのにこんなにも睨まれるようなことをした覚えはなかった
「お前!誰にむかっ……んむぐっ!?!?」
「あはは、久しぶりだなユイ、最近どうだ、危ないこととかないか」
ユイに突進してくるんじゃないかというくらいの勢いで何かを言いかけた黒髪の人の口をゼルディアが笑顔で塞いだ
「えっ、その人大丈夫……?」
「あぁ、こいつは俺の後輩だよ、頑丈だから大丈夫だ、なぁ?レノ?」
口を抑えられてゼルディアになんでですか、と言わんばかりに眉を下げて見上げる姿はさながら子犬のようだった
「で、ですが」
「レノ??」
ゼルディアの目が笑っていない笑顔にレノさんは顔を引きつらせてなずいていた
「そっか、ゼルディアは王国騎士団に勤めてるんだもんね、」
「あぁ、ゼルディア様は騎士団団長でありその上この国ぃっ……ったたたたた」
ゼルディアに勧められるがままに同じテーブルに同席させてもらえることになったのだが、レノさんがなぜか急に呻き始めた
「えっ、レノさん、大丈夫ですか!?」
「レノ、大丈夫か急に……」
「ぜ、ゼルディア、様……??」
「なんだって、腹を下した??すまないユイ、少し席を外す」
そういうが否やゼルディアはレノさんを連れて店の奥に消えて行ってしまった
「なんかレノさん……ちょっと様子がおかしかったな……」
ユイが頼んだ料理がちょうど出来上がって出てきたころに二人は戻ってきた
「ユイ、またせてごめんな、」
「……すいません」
「大丈夫だよ、それよりも、レノさんお腹大丈夫ですか?」
「え、何がです?」
「…下されたって言ってたので……」
「ぶっはっ……」
レノさんはそれを聞いて唖然としてしまったし、その横でゼルディアは盛大に吹いていて、ユイは何か駄目なことを言ってしまったのかと焦るのだった。
「っは、ゼルディア様!?なにするんですか!」
「すまないな、手荒な真似をして」
ゼルディアはレノを人目のつかないところへ連れていった
「大体あの女性は誰です!?ゼルディア様にあんなに馴れ馴れしく……っ!」
「あの子はユイっていう子で、俺の大事な人だ、あの指輪も渡してある」
「……えええええええ!?んぐっ!」
「大きな声をだすなっ!」
ゼルディアはレノの口を再び手で塞ぐ
「し、しかも、あの指輪まで渡しているなんてっ!」
レノは無言で見つめる俺の目を見て、静かに口を開いた
「本気なんですね」
「あぁ」
「ですけど、魔力の問題があります。あの子は平民ですよね?」
このことを聞かれるであろうことくらい予測はついていた、だがこの件に関しては魔力の少なさよりも気を付けなければいけないことがあるのだ
「その事は問題ない、むしろユイは……魔力が多い、ほかの貴族に狙われる可能性があるんだ」
レノは驚いたように目を見張って、考えるようにあごに手を当てた
「あの指輪を見れば王家の物だいう牽制になるはずですが、……もしかすると……」
「もしかすると、なんだ」
「強行突破する無粋な輩がいるかもしれません」
新しい登場人物です!