10.モンスター討伐
この世界の食べ物はあっちとは全然違ったけど、これはこれで美味しかった。
調理法とかは似通ったものがあるみたいで、ゼルディアが頼んだものは男の子らしく肉だった。
それもボアの燻製肉。
周りにちらばってる色とりどりのものは野菜の甘みに似た味がした、ソースはなんなのかよく分からなかったけど……スパイシーな味とコクがあって、私は好きだった
「美味しかったぁ〜……」
ユイは先程とは違って満腹になったお腹を擦りながら歩く
「はは、俺もあの店よく行くんだ、美味しいよな」
ゼルディアはそう言って笑った
昔から通っていて、あのボアの燻製が好きで常連になったのだという。今では店長とも顔見知りなんだ、と言うゼルディアはなんだか嬉しそうな顔をしていた
「うん、美味しい、私もあそこ好きかな!」
その後もゼルディアはあの店の美味しい料理のことや、あの通りにある隠れた名店の話もしてくれた
楽しくおしゃべりをしているうちに、私達は森の入口へ着いたのだった
「イビルウルフの生息地はシュカの実の生息域と重なっていることが多い、この森のシュカの実は入口から西に、しかも限られた場所にある。他の生息地に比べたらここはわかりやすい方だな。」
ゼルディアは西に指をさしてあちらだと示してくれる。
「うん、そうだね、ふふ、ありがとう、じゃあ私行ってくるね」
あそこに倒すべきモンスターがいる。
倒したらそれだけでクエスト達成。
お金がはいる。
それだけの簡単な作業かと思うとユイは笑いが生まれた
さっさと終わらせてしまいたいという気持ちとゲーム以来久しぶりのモンスター討伐というのに気持ちが高ぶって別れを切り出した、
……のだが、
「えっ、待てよユイ、一人で行くのか?」
思わぬ所で静止が入った。
後ろを振り返るとゼルディアがえっ、という顔でこちらを見つめていた
……そっか、そうだよね、私が連れて行って欲しい、って言ってここまで連れてきたのにここでバイバイはダメだよね……
「う……う、ゼルディア……仕事、は?」
仕事を切り上げてきたのなら戻ってもらえばいいのではないのか?
そう思ったユイは聞いてみた
「いや、それは気にしなくていい、俺もついて行くよ」
にっこり笑ってくるゼルディアに
いいんかい!と結衣は心の中でツッコミが入るが、もういいか、と諦めて行くことにした
「ありがと、じゃあここから走っていかない?初めての依頼で友達にも心配されてるから早く済ませたいんだよね」
「え!?初めて!?」
ユイは驚くゼルディアを置いて走り始めた
後ろからユイ!変えた方が……あぁもう!とかいう声が聞こえたがユイは構わず走り続けた
そのうち木の上に黄色くて丸い木の実がなり始めた
「ゼルディア、ここ?」
横を併走しているゼルディアに問掛ける
「いや、これはジェルの実だよ……食べてみるか?」
少し笑いを含んだような声にユイは疑問を覚えつつもうん、といって2人は走るのをやめた
「この木の実はな……まぁ、いっか、食べてみれば分かるな」
食べてみるか?と言うくらいだから食べれないものとかではないと思う、ユイは恐る恐る実を口に運んだ
「……っんっっ!?!?うぇっ!?」
とてもヤバい!!!!!!
とにかくやばい!!!
やばいとしかいいようがない!!
ゼルディアがお腹を丸めて肩を震わせているのが見えるがそれどころじゃなかった。
これは食べ物じゃない。やばい。
とりあえず草むらに吐き出して腰のベルトに備え付けてある水を飲んでゆすぐ
……どういう味かと言うと、果肉がジューシーなんだなと思うほど分厚い果肉を噛むと果汁と言う名のスパイシーななにかが口の中いっぱいに広がる。
えぐみが半端なかった。
涙目になりながら、ようやく笑いが納まったというように歩いてくるゼルディアを睨む
そうすると怖いなんて少しも思っていないように手を軽く上げておぉ怖い怖いなんて言うもんだから私は頭にきてしまった
「もう!なんで言ってくれなかったのよ!」
「えーいやぁ……これ実はさっき食べたボアの肉料理に使われてたソースに入ってるやつなんだよ。」
そう言われてハッとするソースの中にあるスパイシーな部分はこの木の実だったのか、
「〜っ……だからって普通生で食べさせるわけないでしょ!」
ユイは立ち上がって先に歩き始めた
「ごめんって、ユイ、許してくれ」
そんな笑いを堪えながら言っても許さないし!
「もうゼルディアなんて知らない!」
ユイはあぁまって!と今度は焦る声のゼルディアを置いていくことに決めた
五分くらい走っただろうか、ジェルの実もなくなってきた時、赤とクリーム色のよく熟れた木の実がなっている開けた場所があった
ユイはここだ、と思って立ち止まる
草が短いということはよく人か獣が通った場所、つまりイビルウルフもよく来ているということになる……
気配は感じないが、来ていることは間違いないだろう。
ユイは警戒するが、一向に来る気配はなかった。
「うーん、ここ、だよね?……って、あれ?ゼルディア……来ないじゃん」
置いてきたのは確かだが、そんなに引き離した覚えもなかった
「さすがに職務放棄が気になって帰っちゃったのかな……」
ユイは少しだけ引き返してみようと戻り始めた
少し歩くと、木が折れるような音と、剣が奏でる金属音が聞こえてきた
不穏な空気を感じとってユイは小走りに音に向かった
『Guooooooooooooooo!!』
「っくッ!」
「ッゼルディア!?」
なぎ倒された木、剣を抜いて戦っているゼルディア、そして……黒い獣。
ゼルディアは一瞬こっちに目を向けた
「ユイ!危ない!下がっていろ!」
だが、その一瞬が危なかった。ゼルディアの体は黒い獣の尻尾に吹き飛ばされて後方の木の嶺にぶつかった
「ゼルディアっ……ごめん、先にこの子を倒すから回復は自分でして!」
ヘイトを自分に集めるためにまずは剣を抜いて獣に走る
それに気づいた獣はゼルディアに向かうのをやめて私に視線を向けた
モンスター討伐は足から狙うのが基本だよね。
ユイは四足の獣の後ろ足を強く薙いだ
『Gyaoooooooooooo!!!』
獣の咆哮を間近で聞いて体が揺れそうにるが、次はもう片足、胴、最後に首、とモーションを続けながら弱ってひざを折った所を見逃さなかった
「終わりだっ!!やぁぁぁぁぁあっ!」
ユイは剣を下に構えたまま走る。
そして獣の首を上から下へと切り落とした
ピクリとも動かなくなった獣を一瞥してユイは剣に付着した赤黒い血を剣を振って落とす
「ゼルディア!大丈夫?」
剣を収めて、木にもたれかかっているゼルディアの元へ駆け寄った
ゼルディアはお腹のあたりを抑えながら私の方をじっと見ていた
荒い息をしているゼルディアは口を開いたり閉じたりしていて、何かを伝えたいのかとも思うが、そうではないみたいだった
「……ゼルディア?」
「ユイ……、クエスト……達成、おめで、と」
それが言いたかったのか?とユイはありがとうと言うが、ゼルディアはまだ何かを悩んでいるらしかった
「ユイ、そうだ、今思えばお前がいた時は、何も出てこなかった、先に行ったあとにあいつが飛び出してきたんだ、ユイは、もしかして……?」
「え……?どういうこと……?」
わたしはゼルディアの意図していることが分からなくて聞き返すが、ゼルディアは少し苦しそうな顔をして立ち上がった
「なんでもない、魔石、取って早く王都へ戻ろう。ユイの友達がまってるんだろ」
先に歩き始めてしまったゼルディアの顔は、私の場所からはよく見えなかった。
ユイがちょっと今回やらかしの回です。
いままでより少し長めでした
次はクエスト報告の回ですね