① 狂人の序曲
ポツポツと点在する住居と秋ごろに毒煙を上げる毒草だらけの道を
自分は最大限の警戒を凝らしながら自転車で進む。
いつどこで、どんな所で敵が現れるか分からない。
自分はいつでも狙われているのだ。
自分を狙う組織は常に自分を狙っている。
私という、自分という存在は常に狙われている。
私は狙われているのだ。私は常に危うい。
私は常に警戒しなければならない。それが今を生きる私の姿だ。
私は狙われている。
今日だって自分を狙う輩がいつ背後から襲ってくるか分からない。
敵は何処にでも居るのだ。注意しなければならない
そうして最大限注意深く毒道を進む私の前を
まだ十台であろうか、同じく自転車に乗った若者が近づいて来る。
私は警戒する 彼は敵だろうか?
いや違う 今の所、彼は敵ではない
そんな事がなぜ言える? 彼は敵かもしれない
それから自分は自転車をこぐスピードを緩め、彼の動向を見守った。
そして彼は自分の前を通り過ぎる時、自転車のベルを一回鳴らした。
そう 彼は敵だった。
自分は敵に向かっていく 彼は敵なのだから当然だ
自分は大声を上げながら、敵に向かって自転車をこぐ
自分の先制に驚き、敵が一瞬自転車を止めこちらを向いた。
チャンスだ
そのまま自分は自転車の後輪を一気に持ち上げて
それから左回りで後輪を回転させ、敵の車両へとぶつける
ガシャン、っと大きな音が立て、敵とその車両が床に転がる。
敵が叫ぶ「何するんだよ!!」しかしそれはこっちの台詞だ。
自分はそのまま敵である彼に馬乗りになりながら
黙々と彼に向かって拳を入れる。
「うわあああああああ!!」 悲鳴を上げる彼、いや敵
その声を聞いて、少し良心が痛む。
しかし彼は敵なのだ 容赦する事はない
だが彼が大声を出した事でギャラリーが自分の正当性を攻撃し
また彼等彼女等も敵となった。
やはり組織はここで私を排除するつもりなのだろう。
中年の男性が老齢の紳士が そして彼の母だとうそぶく女性が自分を攻撃する。
戦わなければならない。 それが自分の使命だ。
自分を制止する存在がどんどん出てくる。それ等は全て敵だ。
しかし自分は負けない。 雑兵の一人や二人、自分には造作もない事だ。
自分を止めようとする存在をその拳でバッタバッタと打ち倒し
私は戦う。 自分を守る為に、私を守る為に。
それはとても高潔で素晴らしい行為なのだ。
誰も自分を責める事は出来ない なぜなら私は正しい事をしているのだから。
だが、非常に空しい事が起こった。 権力が裏切ったのだ。
国家権力が私の権利を妨害した。
私は数十名の国家の奉仕者に囲まれ、私は彼等に捕まった。
抵抗はしない 彼等に罪は無い。
そう彼等を責める事は出来ない。
彼等は歪んだ国家の欲望にただ従っているだけなのだから
私の妻の義理の父も良く言っていたものだ。
「常にこの世で正義が守られているとは限らない」
国家の権力者に従う、忠実な公僕であった義理の父は
ある日悔しげな顔で自分にそう告げた事がある。
正義は常に正しいとは限らない。 自分は、彼等を許す事にした。
「大変、ですね」
彼等の車両に鉄の器具を付けられて乗せられた私は
やや寂しげな口調と笑顔で、彼等の労を労った。
彼等は私の行動に何とも言えない表情で眺めた。
やはり、彼等も大変なのだろう…
可哀想に…… 心の底から同情する。
私は彼等を非常に気の毒に思った。