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085 息づく記憶

 レベッカは女性の身ゆえ、筆頭は名乗れはしないが、実力では侯爵領随一の腕前の剣士だ。

 その攻撃は的確で、私の急所だけでなく、次の攻撃の起点となる足元や、膝の動きを阻害するように攻撃を放ってくる恐ろしい相手だった。

 攻撃が意地悪といったら、意地悪程度にしか思われてないなんてと、逆にレベッカはショックを受けていたが、よくわからないので、ごめんと謝った。まるで効果は……いや。逆効果だったかも……。

 ブリジットは槍の名手だ。

 連続の突き、払い、たまにひねりで間合いを伸ばしてくる。

 それがレベッカと同時に連携してくると、もはや笑えない程凶悪になる。

 二人がこちらの動きを阻害しに回ると、こちらは避けることもままならなくなる。

 そこで、大剣でとどめを刺しに来るのがヘレンだ。

 一撃一撃が必殺ともいうべき剛の一撃で、こちらがレベッカとブリジットに足を止められると確実に放ってくる。

 とんでもない火力の代償として、一発を放ったスキが大きいのが弱点だが、最良のタイミングで放ってくるので、スキを突く余裕などなく、集団戦ではデメリットにならない。

 そして、その重いブリジットの攻撃をぎりぎり躱しても、二本の短刀を巧みに操るカミラが備えているのだ。直接の攻撃力よりも、阻害される行動が厄介で、素早さでかく乱された間に、レベッカたちが再度攻撃態勢を整えてしまう。

 そんな四人になぜしごかれなければならないのかと、ずいぶんと疑問に思っていたものだけど、どうやら人生、役に立たない経験などはないらしい。

 四人との格闘で得た思い出が、魔力が、私の動きに切れ味を与えてくれる。

 意図したよりも、より早く、より遠くへ体が動く。

 避けるスキがほんのわずかしかなくとも、四騎士の攻撃を交わせているのは、思い出補正とでもいうべき魔力の後押しあってのことだろう。

 そんな中で、両手に持った二本の槍に、魔力を纏わせていく。

「まずは、ブリジット!」

 一声吠えつつ、ブリジットから盗み取った高速突きをお見舞いする。

 槍を放った姿勢で、脇ががら空きの騎士の一体へと放った穂先を魔力で包み込んだ槍は、面白いほど簡単にその装甲を貫いた。

「あ、いけそう」

 放った槍を引き戻しながら、バックステップを踏むと、目の前で肩を砕いた騎士が槍ごと腕を落とした。

「ああ、ソフィア様!」

 遠くから飛んできたのは普段無口なブリジットの声だった。

 表情までは見えないけど、どうも声から察して喜んでもらえたようだ。

 ならばと、力が籠る。

 攻撃が一つ減って余裕ができたところで、、今度はレベッカに倣って、横をすり抜けながら、胴を薙ぎ、膝を打ち砕く。

 正直、やってみて思ったけど、かなり難易度の高い攻撃だ。思わずこんな本気の攻撃をされてたんだな私はと思うと……正直、色々複雑な気分だ。

 目論見通り槍を落としたのとは違う騎士の動きを奪ったところで、レベッカの興奮した声が聞こえてきた。

 ちゃんと、誰を参考にしたか、彼女たちにはわかるようだ。

 と、なれば、平等に見せないといけない。

 カミラの動きを真似て、壁に見立てた動けない騎士の体を駆けあがる。

 そのまま下に向けて飛び降りれば、不可抗力でスカートがめくれ上がり、ミリアとヴァネッサの悲鳴が聞こえた気がするけど、今は非常事態だ、気にしない。

 着地と同時に、くるくると体を回転させて、目の前の騎士の体を切り刻み、完全に破壊した。

 短剣とはまるで違う威力だが、カミラは十分満足してくれたようだ。

 これで、まともに構えられるのは一体、槍なしの一体、動けない一体は距離を取ったので、大丈夫だろう。

 二体を前に、槍を一つ地面に置く。

 魔力の形を巨大な刃の大剣に見立てて、力を籠めると、魔力が可視化域を超えたのだろう。

 ミシェル達の方から歓声が上がる。

 やや水平から切っ先を下げて脇に構えたまま、重心を低くする。

 相手を斬る線を意識して、一撃で振り抜くための力を籠める……まあ、魔力で後押しするから、籠めなくてもいいんだけど、この方が私の頭の中のヘレンに近づくのだから、意味はあるのだ。

「では、斬る!」

 ノリノリでヘレンのセリフまで真似て、跳躍するように踏み込み、思い切り大剣と化した光る槍を横凪に上へ向けて解き放つ。

 斜めの線を描いた剣閃は、近くに迫っていた二体をあっさりと斜めに切り裂いた。

 ゴインと重い音を立てて二体の上半身が謁見の間の床に転がる。

 最後に、私は一度しか見なかったが、記憶を手繰り、その技を放つ。

 槍を投げ捨て、両手を魔力の刃で包み、相手に超近接して切り裂いていく。

 ウォルターさん必殺の魔手刀だ。

 一撃ごとに、表面を覆う鎧を切り落とし、露出した関節駆動部を切り裂く。

 魔手刀を放ちながら、薄く笑みを浮かべていたウォルターさんを思い出しつつ、なんとなく笑みになる気持ちがわかる。何しろ、爽快なのだ。

 そして、沈んだ最後の一体を背に、ウォルターさんを真似て「楽しませていただきました」と手を合わせる。両手を合わせるポーズはこちらでも祈りとか鎮魂の意味合いがあるらしい。

 まあ、ちらりと見たウォルターさんは何がいけなかったのか、完全に視線をそらしてしまっていたし、お父様はものすごく悔しそうな顔で見ているので、放っておいて、私は隔離したままの問題点を見た。

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