006 驚愕
アンやアレク様、ルーヴェンスを含めた使用人たちとひとしきり盛り上がったところで、すでに半分以上開かれているドアがノックされました。
反射的に「はい」と返事をすると、ノックの主が「入るぞ」と低い声が響きます。
直後、私に抱き着いたり、触れていた使用人たちが一気に体を話し直立不動になったのです。
「皆、ミシェルの快復を祝ってくれていたのだろう? そのままでよい」
言いながら、姿を見せたのは、ビシッと光沢のある衣装を着こなした父でした。
「お父様!」
思わず、私が声を弾ませます。
バッと体にかかっている薄手の描け布団をはいで、私が立ち上がります。
そして、とても嬉しかったのか、周囲の目も気にすることなく、久々に顔を合わせた父の胸に飛び込んだのです。
顔を胸に寄せると、ふわりと香るのはやや甘みのある煙草の紫煙の香りでした。
「お父様」
幸せそうに父の感触を味わう私の頭に、大きな父の手が触れ、優しく撫でます。
「はしたないと叱るところだが、今日ばかりは女神さまも、お目こぼしくださろう」
低くて心地よい声でそう囁く父の視線に気づいたアレク様が、慌てて頷きました。
ただ厳しいだけでなく、ユーモアを併せ持つのも、父の魅力の一つなのです。
(本当に幸せそう……お父さんがすごく好きなんだ……ね?)
直後でした。
私は、とんでもないことに気付いたのです。
私と、私が、乖離してる……。
ミシェルの父親の訪問で、私は私の中にあるミシェルに気付いたのです。
……と、い、う、よ、り……
私がミシェルに入り込んでる!?
そうです。
いや、そうだった。
私はミシェルじゃないし、12歳でもない。
ほんの少し前に、日本とか思いだしたはずだったのに、いつの間にか、またミシェルだと思い込んでた?
このままじゃ、私、消えちゃう!?
そう思うと焦りだけが募ってきた。
ミシェル自身は、お父さんとの時間を堪能するのに意識が向いてるせいで、私には気づいてみてないみたいだけど……このままじゃまずい事だけはわかる。
どうする?
どうしたらいいの、私!?
そう思って、ミシェルとお父さんを振り返ると、不思議なことに、私の視界には2人をの姿がはっきりと映る。
(あれ? 私って、ミシェルの中に……)
確かめるように視線を落とした私は、またも驚きの中に突き落とされた。
私、はみ出てる!?