059 シナプス
「今までの話を総合すると、魔力というのは『記憶の欠片』じゃないかと思うの」
「さっきの魔力イコール私より、だいぶ形が変わったねぇ」
そう言って茶化してくる清華に、ミシェルへと視線を流しながら、改めた理由を告げる。
「最初は私の使う魔力が、清華そのものなんじゃないかと思っていたんだけど、ミシェルの話を聞いて違うなって気付いたというか、考えが改まったの」
「私の話というと、見たこともない高い建物や、魔法を使わない乗り物、魔法陣を描く機械を見た話ですよね?」
「私の中に入るまで、建物や乗り物、機械だなんて思ってなかったって言ったでしょ?」
「はい。正直得体が知れなくて、相談しようかどうしようかと迷っていました」
「でも、私の中に入ってきて、私の魔力に触れたことで、認識が変わった」
「はい、少なくとも建物や乗り物であることがわかりました」
頷くミシェルに、清華が納得とばかりに頷く。
「そうか、魔力に触れて情報が保管されるなら、魔力自体が情報を記憶しているってことになるのか」
「そう。清華ちゃんの言う通りだとすれば、主従で魔力の相互通行がある私とミシェルの間で、記憶がやり取りされていてもおかしくはない。というより、それ以外ないと思う」
「あの、ところでソフィー?」
「何かな、ミシェル?」
「せめてちゃん付けにしてください!」
ぷくぅと頬を膨らませて、ちらりと清華を見ながら、そう言い放った。
「ああ、ここはクリフィーちゃんの心の中だから『制約』が効かないものねぇ」
そして、にやにやと挑発を始める清華、一体幾つよ。ミシェルと何歳差があると思ってるのよ、このバカは……。
でも、まあ、私は一つため息をついてから、ミシェルを見る。期待する目が私を見返してくる。
「じゃあ、ここでは、ミシェルちゃんでいい?」
「はいっ!」
大きく頷いてくれたので、そこから藪蛇にならないように、すぐに推察に話を戻す。
「魔力が記憶の欠片だとすれば、師匠の言ってた思いの力で魔法の威力が変わるって話もしっくりくると思うの。思い出ってそれだけで心に力を与えてくれるでしょ?」
私の言葉に、清華が「確かに、魔法の威力に思いの力、それと記憶というか思い出か、確かに関連して層に思えるね」と頷く。
「でも、すこしクサいね」
そこは同意しないでもないけど、今は掘り下げる部分でもないので、スルーして話を進める。
「それに、こちらでは命を落とす人が、『透明化』という症状を起こしたりするんでしょう?」
ミシェルに視線を向ければ、コクリと頷いてくれた。
そもそも、ミシェルの知識から得た情報なので、彼女が知らないわけがないのだ。
「はい。高齢の方にまま見られる症状で、徐々に自分を失っていき、最後は記憶も自我も失って眠るようになくなる症状だそうです。一般的に個性そのものが希薄になっていって亡くなるので『透明化』と呼ばれてるそうです」
「つまり、それも?」
「たぶん、魔力欠乏症と同じことなんじゃないかと思う」
清華の言葉に頷きながら答えると、ミシェルがハッと何かを思い出した。
「そういえば、ルーヴェンスが『透明化』も魔力の喪失が徐々に起こっているって言ってました……でも……」
そこでいい淀んでしまったので、私は「ミシェルちゃん、続きも教えて」とお願いしてみる。
ミシェルはコクリと頷いて教えてくれた。
「高齢になると、自然と魔力が減衰していくので、自然なことなのかもしれないと……」
「あー確かに、年取ると、記憶があいまいになったり、朧になったり、忘れたりって聞くよね、シナモンだっけ?」
「シナプスよ」
私達のやり取りにミシェルがきょとんとした顔をしているので説明しておく。
「私達の世界で記憶の保管場所として考えられていたのがシナプスと呼ばれるものなの。まあ、ミシェルちゃんの世界で言うところの魔力ね」
私の記憶も少し曖昧なので、シナプス説が覆されつつあったような気もするけど、脳の詳しい構造とか、記憶先はこの際どうでもいいので、ミシェルがなるほどと頷いてくれたので先に進めることにする。
「ともかく、この記憶の欠片である魔力がなくなると、人は死に至るんだわ」
やや強引ではある気もしたけど、方向性は大きく間違ってはいないはずだ。
だから、更にもう一つ思いついたことも口にしてみる。
「で、清華の様に、体外で記憶が集約したものが、天使とか精霊なのかもしれない」
「サーヤが!」
「ちょ、まって、私をメルヘンにするな! 私はゴースト、幽霊、怨念だ!」
「その自己主張に何の意味があるかはわからないけど、実はこの世界、幽霊は確認されてないのよ」
「なんと!」
「その代わり、個別の意識を持ち、魔力の体を持つ者として、天使、精霊、悪魔なんかが確認されているわ」
私がそう伝えると、清華はうーんと唸り始めた。
そこに、ミシェルが「私はユウレイはよくわかりませんが……サーヤの様に死者が魔力を纏って魔力の体を得た者は『精霊』の一種とされています。ですから、シュゴーレイも、精霊なのでしょうね」と微笑む。
微妙にアクセントがおかしい気もするけど、こちらにない言葉を覚えて、もう使い始めてるミシェルは本当にすごいなと感心する。
「そういえば、ミシェルちゃんの魔力が多いのにも仮説があるのよ」
「え?」
私がそう言うと、キラキラと輝かせたミシェルの期待の目が私に向いた。
「それって、ソフィーが私のことを考えてくれていたってことですか!?」
あれ、何か予想と違う食いつき方な気がするけど、その通りだったので頷く。
「嬉しい! ぜひ!! ぜひ聞かせてください!!」
なんだかすごいテンションで迫られてしまったので、期待に沿える内容だろうかとどぎまぎしながら、私は仮説を伝えることにした。




