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041 ベッドの中で

「それにしても、あれは驚きました」

 ベッドに入ったミシェルが、笑い声の後に最初に言いだしたのは『それ』だった。

 本日の授業を終え、就寝時間を迎えたミシェルと共に、今は彼女の布団に寝転んでいる。

「あれは、事故というか、想定外というか……」

 私がそう言い淀むと、彼女は嬉しそうに「服のままびしょ濡れになるなんて思わなかったですよ」と返してきた。

「そ、その、あれよ、ミシェル達も魔法陣を覚えるのに熱が入ってたから、冷却の意味も込めてね?」

「ふふふ」

 私の返しに実に上品な笑みで応えるミシェルは、なんだかとっても嬉しそうだ。

「服のまま水で濡れるなんて、もっと小さい頃……お姉様がいたころみたい」

 ほんのわずかに悲しみを匂わせた、それでも嬉しそうな言葉に私は無言でミシェルの頭をポンポンと軽く叩く。

「明日からは、ミシェルだって練習するんだから、きっと、やらかすわ」

 そう言って時間の問題よと付け加えると、くすくすと笑ったあとでミシェルは気どった声で返事をくれた。

「私の魔法陣には厳重な制御線が書き込まれてますから、ソフィア様の様に暴発させることはできませんね」

「正論過ぎて、返す言葉もないわ」

「ふふふ」

 そうして、その後もしばらく会話を交わした後で、ミシェルは寝息を立て始めた。

 そして、私は師匠から教わったばかりの精神遮断の魔法を使う。

 魔法陣は二重円の内側と外側の円の間に、V字の楔が外向きに、上下左右、さらに右上、右下、左下、左上の合計8つ刻まれている。 これで干渉を遮断する魔法陣は完成だ。

 ルーヴェンスバリアの魔法陣もこれをベースに、外側に障壁を展開する術式、魔法と物理に対する術式などが書き加えられている。

 将来的には、この構成や術式の意味合いも師匠から教われるらしいし、完全には解析されていないアンを若返らせてしまった回復魔法陣などの研究もできるらしい。正直、楽しみで仕方がない。

 そんなことを考えながら展開した魔法陣に、内側の円に接するように精神を意味する正六角形を書き加える。次いで、目を閉じて意識を集中する。

「翌朝までミシェルの記憶と私の意識が繋がらないように」

 そう口で唱えてから、意識を魔法陣に向けると、ほのかに青い光を発したあとで解けるように消えていく。

 私は確認の為に、さっきミシェルが話していたびしょ濡れになったッという姉との記憶を思い浮かべてみる。

 そのまま数十秒、まるで浮かばないことに、魔法の成功を確信して、私は安堵した。

 ミシェルが意識のない時にその記憶が必要になる緊急事態以外は、こうして彼女のプライバシーを守ろうと考えていたので、成功したのは素直に喜ばしい。

「これはあっさり教えてくれた師匠に感謝だわ」

 人形で眠れるのかどうかはよくわからないけど、とりあえず私はベッドというか、ミシェルの頭の乗っている長く大きなフワフワの枕に身を預け目を閉じた。


 目を閉じてしばらく、意識が遠のきそうにもないので、今日の出来事を反省の為にも思い出すことにした。

 まず、魔法陣を展開した私は浴槽に張られた水を相手に魔法を使っていたんだけど、うまく温度を下げられなかった。

 習熟度の問題かと幾度も繰り返したものの、まるで成果が出ないことに痺れを切らした。師匠が。

 結果、温度を下げる魔法陣を強制的に上げる魔法陣にさせられた。

 ご丁寧に『制約』まで使われたので、私に拒否はできない。

 そして、爆発した。

 別に、何かしてやろうなんて気持ちはまるでなかった。

 温度を下げようとしていた時と同じように、単純に『水の温度よ上がれ』と念じて魔法を展開したところ、視界が一瞬で白く染まって、雨粒というか、水滴というか、無数の小さな水の玉が降り注いだ。

 これがミシェルを始め、その場にいた全員を濡らしたわけだけど……意外なことに師匠は起こる言葉く笑っていた。

 度量が大きいのか、単に私の失敗を笑ったのかはわからない。

 でも、被害が水に濡れただけで済んだのは、師匠がルーヴェンスバリアの様な魔法障壁を展開させて、威力を弱めてくれたおかげだと思う。

 なにしろ、私の放った魔法のモノとは違う魔力の残滓を感じたし、何よりあれは、水蒸気爆発じゃないかと思うのだ。それが、部屋全体に雨を降らす程度で済んでるのは、爆発の威力が抑え込まれたからに違いない。

 もっとも、師匠はそれを口にする気はないらしく、すぐにミリアに着替えの指示を出すと、一言だけ「どういうわけか、温度は加える方が大きく反応が起きるんだ」と今更ながらのご説明を頂けた。

 つまり、失敗も経験する必要があるということなんだろうと理解し、私はあえて『何』に対してか言わずにお礼を述べた。

 対して、師匠の反応はひらひらと手を振って、気にするなと言わんばかりの態度だった。


「それにしても、なんで粗野なフリをしているんだろう」

 私は師匠の行動の謎に首を傾げながら、とりあえず水蒸気爆発を繰り返さないために、明日の修行の注意点や改善点を思い浮かべつつ時間を過ごす。


「それにしても、眠れる魔法を作るか、魔法の実験を許可してもらいたいかも」

 すぅすぅと可愛らしい寝息を立てるミシェルを見ながら、少し退屈な夜に私はそんなことを考えていた。

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