002 目覚め
寒い。
「ぅく……ぁ」
声もうまく発することが出来ない。
寒い。
間に幾重にも布を重ねたような遠くに、何かが身体に掛けられているような感触がある。
昔、高熱を出した時に、感覚としては似ているかもしれない。
だけど、そんなことがどうでもよくなるくらい、寒い。
「ぁ……ぅ」
口から洩れているらしい声に、空気が漏れる音が混じる。
自分がどういう状況なのかまるでわからない。
目が見えない。
いや、目を開ける力もない。
手も足もうまく動かせない。
感触はおぼろげで、自分がどうなってしまったのか全く想像もできない。
そして、ただただ寒い。
どうしたらいいの?
ふと、そんな言葉が脳裏をよぎった。
とても寒いなら……。
温めればいい?
どうやって?
服を着る? 布団をかぶる? 毛布を掛ける? 暖房を入れる?
だけど、体が言うことを聞かない。
一方で、どんどん体から外側に熱が流れ出ていく感覚が浮き上がってきた。
出て行かないで、寒くて死んじゃう!
気付くとそう心の中、あるいは頭の中で私が叫んだ瞬間だった。
急に流れが止まった。
「え?」
喉から零れ出た音が、戸惑いを含んだ声に変わる。
直後、あれほど寒さを感じていた体は、とどまった熱が肌をすべるように全身に巡り始めたことで、寒さを感じなくなり始めた。
「はぅ……はぁ」
急激に失われていた熱が身に留まりだしたことで、力が入らなかった体が反応し始めた。
随分と遠くに感じていた体に触れる感触が、身体に掛けられた布団らしいと認識できるほど鮮明になる。
同時に目に力を入れればゆっくりとまぶたが上がり始めた。
そして、私は魔法陣を描いていた自室とはまるで違う板張りの天井を見た。