140字小説集 第1巻
百鬼夜行のハロウィン
今日はハロウィン。みんな仮装して街を歩きます。
お化けにゾンビ、フランケンシュタインに吸血鬼、天使に悪魔に魔女だっています。
おどろおどろしい見た目に反して、みんなとっても楽しそう。
そんな中に、私のような妖怪が混ざっても。
きっと誰も気づきはしないのでしょうね。
例外的な君
僕は君だけが『例外的』に嫌いだ。
作り物の笑顔を振りまき、酷くつまらない物をとても素晴らしいと拍手をする。他人に合わせて泣きもするし、怒ったりもする。
その他大勢の意見と同化し本当の気持ちを知られるのを何より恐れる君は、自分自身を見ているようで本当に大嫌いだ。
朝焼け
目覚ましのアラームはいつも朝の5時に設定してある。
ベッドから起きるとお気に入りの真っ赤なマグカップに、砂糖とミルクを多めに入れたコーヒーを注ぎベランダに出てから飲み始める。
空は水色とオレンジで鮮やかに彩られていた。
この景色は、早起きしたあたしへのご褒美だ。
魔法少女のステッキ
子供の頃に大好きだった魔法少女の変身アイテムが押し入れから出てきた。だけどどうしてだろう、年期の入ったそれは酷く下らない物に思えた。あんなに大好きだったのに。
大人になったからだろうか?
いいえ、違う。私は素敵な魔法少女ではなく、酷く下らない大人になったからだ。
雨は好き
雨の日は好き。確かにお気に入りの服は濡れるし、髪も湿気で上手くまとまらない。この時期の雨は冷たくて、寒がりの私はブルブルと震えたりする。
それでも雨が好きなのは、貴方が傘に入れてくれるから。
ビールと宇宙が好きな君
地球外知的生命体探査ロケットの名前は偶然にも、君が好きだったビールの名前とよく似ていた。
破天荒な君は、宇宙人と仲良くなりに行くんだと笑っていたけど、どうやら地球に帰れるかどうかすら分からないらしい。
君がいない部屋で、ロケットによく似たビールに君の帰りを願い続ける。
雪降る故郷
僕が住んでいた所は雪が沢山振る場所だった。
いつもこの季節になると、目に見える世界は全て白く染まる。
単色の世界は不便な事も多く、結局こっちに移住してきたのだが……
時々、窓から景色を眺め、あぁ。もうあの純白の世界は見れないのかと寂しく思うのだ。
もっと触れて
彼は毎晩私に触れる。すらりと長い、優しい手で。
あぁ、触れられていなくても、想像するだけで恍惚してしまうわ。
……あら、彼が帰ってきたわ。さぁ早く、おねがい、焦らさないで。「おーハナコ、ただいま!」
わしゃわしゃわしゃ……。
私は嬉しくてウォンと鳴いたのだった。
全てが嫌になった時
もう何も聞きたくもないし何も見たくも無い。
何も信じたくもないし何も感じたくないんだ。そしてなにより、もう生きたくないのだ。そして私は全てに目をつむり耳をふさいだ。そしてついに本当に何も聞こえなくなった。次の瞬間、何でもいいから声を聞きたくなり、生きたくなった。
幸福を戒める
奴は幸せ過ぎたんだ。仕事が成功して、妻が出来て、子供も出来る。
そこまでは良かったが、奴はさらに成功を求めた。
身に余る幸せは、不幸に変わる。
物事が上手く行きすぎた奴は、とうとう運に殺されちまった。
だから、本当に賢い方法は、幸せな自分を俯瞰して戒めることなのさ。