331日目 アルンの属性
アッシェ:調薬担当の三つ目族。甘えた口調で毒を吐く。
コンカッセ:魔法具担当の丸耳族。アッシェの言葉尻に乗る事が多い。2人で組むと凶悪。
アルン:エルドラン領主の孫娘。アスラーダさん狙いじゃないかとアッシェ達に疑われてる。
アスラーダ:リエラの想い人。今は王宮勤めにでてる。
2017/2/7 誤字の修正を行いました。
翌日の朝からやってきたアルン姫は、思いの外勤勉な弟子だった。
一切アスラーダさんの事を思わせるような発言も無くて、私は胸を撫で下ろしていた。
だってねぇ……。
家でずーっと、『なにをやってきたらどうする』って言う悪だくみばっかりしているんだもの。
こっちは気が気じゃなかった。
だってね、相手は、大・貴・族!!!
のお姫様なんだよ?
アッシェ達が何かしようものなら、後が怖すぎる……。
「お師匠様。ご確認お願いします。」
そう言って持ってきたのは、治療薬の材料を擂り潰した物。
こう言うところにも性格って出るものなんだけど、彼女の仕事は丁寧なもので今のところなんの問題も起きていなかった。実際のところ、この擂り潰す作業というのは結構な肉体労働でもあるんだけど、それをなんの文句も言わずに黙々とこなす姿に、アッシェ達も面倒な事を言わなくなってきていた。
彼女がここに弟子として通い出してから、もう1週間か。
下ごしらえの擂り潰し作業にも、雑さなどは今のところ出て来ていない事だし、そろそろ家庭用デラックスの調薬も始めて貰う頃合いかな?
そう思いながら、ふと、彼女の魔法属性を調べていなかった事に思い当たった。
下働きばかりでは、すぐに嫌気がさしてしまって来なくなる可能性もあるから、と言う事で後回しにしていたんだけど、これをやっておかないと肝心なところで躓いてしまうかも知れない。思い立ったが吉日ともいうし、今日早速調べてしまおう。
結果次第では、彼女は家庭用デラックス以上を作れないかもしれないし、逆に普通の魔法薬を自力で作る事が出来るかもしれない。
流石に、『属性判定水晶』は『しまう君』に入れてあるから、倉庫に取りに行くように見せかけてを取り出すと、彼女に作業を一旦中断して来てくれるように声を掛けた。
他の作業をしていたアッシェとコンカッセも、私の手にしたモノを見て、何をするつもりなのか悟ったらしく一緒にやってきた。まぁ、みんな興味があるだろうしいいかな?
「お師匠様……?」
まだ、打ち解けて居ないアッシェやコンカッセまで集まってきたのもあって、彼女は戸惑った様に首を傾げた。みんなに取り敢えず座る様に伝えると、3人はアルンを中心にする形で作業台の隅に腰掛ける。
私はその丁度真ん中に『属性判定水晶』を置くと、これから行う事について話し始めた。
「アルンは、自分の魔法属性を調べた事は?」
「ありません。」
「そっか。魔法学院にでも行かない限りはあんまり機会はないもんね。」
思った通りの答えに頷いた。
ちなみに、彼女をどう呼ぶかについて、最初は悩んだ。
工房に弟子入りしてきたとは言え、仮にも貴族の姫君だからね。
流石に名前呼びはまずいかなぁと思ったんだ。
だけど、逆に本人から『工房内では名前を呼び捨てでお願いします』との申し出があったので、不敬かなとは思いながらもそう呼ばせて貰っている。
これはアッシェ達にも適用されていて、その申し出を受けた時にこっそりと私の中での彼女の評価が上がっていた。コンカッセがその申し出を聞いた時に微かに舌打ちをしていたから、彼女がそう言わなかったら何か難癖をつけるつもりだったのかも。そういう事態を避けられたのが分かった時、本当にホッとしたんだけどね……。
「もしかして、これは話に聞く『属性判定水晶』ですか?」
話の流れから目の前に置かれた物の正体を察して、彼女は目を丸くした。
まぁ、市場価格数百万ミルする魔法具だから気持ちは分からないでもない。
「アッシェとコンカッセは、アルンにやり方を見せてあげて。」
「了解ですぅ」
「ん。仕方ない。」
コンカッセの言う『仕方ない』は、多分、他人の魔法属性を覗き見るのに自分の物を秘密にするのは公平じゃないという事かな。
実際、魔法学院に通っていた人達は自分の属性を他人に知られるのを嫌う傾向にあるから、グラムナードでの魔力値について聞くのと同じで良識を疑われる行動だと思う。
アッシェは、自分の前に『属性判定水晶』を移動させると、アルンに何が起こるのかを説明しながら両手をその上にかざすと、そっと水晶に向かって魔力を送り込んだ。
『属性判定水晶』はその魔力に反応して、少し黒みがかった橙と、同じ様に黒味を帯びた青の瞬きを繰り返した。この判定結果は、橙が『地』の属性を現していて、青は『水』の属性を示すものだ。
同じ属性でも、人によって色合いが全く違う。
アッシェが魔力を送っている間瞬きを繰り返す水晶を、アルンは目を輝かせて見つめている。
「……綺麗。」
「アッシェは、『地』と『水』の属性所持者なので2色に輝くのですぅ」
「ん。調薬に一番向いてる。」
うっとりと呟くアルンに、アッシェはちょっと胸を張って自分の属性について説明した。
コンカッセはその言葉の説明の足りない分に補足を入れる。
「次は私がやる。」
コンカッセはそう言うと、アッシェと同じ様に魔力を流して見せた。
今度は、少し黒みがかったキラキラした感じの橙色に、暗めの赤。
橙はアッシェと同じく『地』なんだけど、個人的には『地』の属性には下位属性の様なものがあるんじゃないかと疑ってる。
同じ『地』の判定になるアッシェは『植物』しか扱えないというのもあるんだけど……。
グラムナードに居る兄弟弟子で『金物』を扱える子は大体、コンカッセみたいにキラキラした感じの橙色なんだよね。この、キラキラした橙色の魔力の子は、一応『植物』へも魔力を込める事も出来るものの、その精度はマチマチで、キラキラしない橙色の魔力の子に劣る。
ちなみにどの属性も一貫して、少し黒みがかっていないと物品へ魔力を込める事が出来ない。
ただ、サンプルになっている人数がどう考えても少な過ぎるから出来ればもう少し、そういった比較が出来る対象が欲しいところだ。
赤は『火』の属性で、この属性は名称からも勘違いされやすいんだけど、主に扱うのは『熱』。
発火させる事も出来るけど、実際には物を凍らせる事も出来るんだよね。
この組み合わせはグラムナード方式で魔法具を作る場合には必ず必要になってくるから、あちらの工房でも『魔法具師』の弟子は凄く少ない。
「橙色と……赤、は何の属性ですの?」
「私の橙色は『地』。赤は『火』。」
「コンちゃんは、金属の扱いが得意な色なのです。橙色も、アッシェと違ってキラキラしてるのが特徴なのです。」
「『火』は温度変化……熱を扱う属性。魔法具師には必須。」
「お2人とも属性が二つあるという事は、大体の人は複数の魔法属性を持っているということなんですの?」
ああ、この二人のだけをみるとそう思っちゃうよね。
「殆どの人は一属性なのですぅ」
「二属性で、更に理想的な組み合わせは実は稀。」
「まぁ……。」
彼女は驚きと尊敬の念を、口元に手を当てて発するその一言で見事に表現して見せた。
「やり方は分かったです?」
「手をかざすだけで良いんですの?」
「かざしたら、属性分かれー!と念じる。」
「やってみます。」
アッシェ達のざっくばらんな指導に頷くと、彼女は見様見真似で水晶に手をかざした。
魔力を扱った事が無いのもあって、水晶の反応が鈍いので触れた状態で再度挑戦して貰うと、それは橙色の光を放った。少し、暗めのその色合い私は安堵の息を吐く。
「アルンは、『地』属性だね。」
「残念……。アッシェさん達みたいに、二属性だったら素敵でしたのに……。」
「そう沢山いるものじゃないから仕方ない。」
「それより、調薬向きの属性で良かったのですよぉ?」
ちょっぴりがっかりした様子で肩を落とすアルンを、アッシェとコンカッセが励ます。
その言葉で少し気持ちを持ちなおしたのか、その顔に笑みが浮かぶ。
「これで、魔力の扱いを教えていけることになったから、これから覚える事がどんどん増えていくよ。」
「はい。師匠、頑張らせて頂きます。」
うん。
やっぱり、私は彼女の事が嫌いじゃない。
気合いを入れて頷くその姿を見ながら、アッシェとコンカッセが視線を交わす。
それは少し前までと違って、彼女の事を仲間として見始めている物の様だった。
彼女達がアルンを認めてくれ始めたのは良い傾向だなと思うと同時に、それまでのこの一週間、ずっと妙な緊張感があったんだという事に気が付いて私は1人苦笑を浮かべるしかなかった。




