295日目 寄り道
アスラーダ:『うっかり告白』事件からやっと、普通に過ごせるようになりました…。
ルナ:リエラの親友でスルトの奥さん。想い人と結ばれるなんて羨まし・・・げふげふ
スルト:ルナちゃんの夫で、私の幼馴染。お兄ちゃんポジションのネコ耳族。
2017/1/27
新薬の流通具合を確認しながらの旅は、天候に恵まれた上に騎乗ウサギの素晴らしい足の早さのお陰もあって、思ってた以上の速度で進んだ。
駅馬車を使ったら、まだ半分の距離にいたんじゃないかな?
3日目には既に、グラムナードから一番近い山道の入り口の町に着いていた。
山道に入ると、お昼過ぎにはグラムナード。
西に向かえば1日位でエルドラン。
東に向かうとラブカという湿地の近くにある都市もある。
時間に余裕があるから、もう1か所位大きい町も覗きたいんだけど…。
行った事のない町であるラブカにもちょっと惹かれるものの、やっぱりここは、久しぶりに里帰りも兼ねてエルドランに行きたいな。
流石にそういう寄り道を私の勝手で決める訳にもいかないので、夕飯の時に皆に相談してみる事にした。
「いいんじゃないか?」
「問題ないと思うよー。最悪、年越しの祭りに間に合えば。」
「確かに、久しぶりにばぁちゃんと会うのも悪くないな。」
「ありがとう~!」
「仕事をかねてって辺りが、リエラんらしいよねー!」
「ばぁちゃんやシスターに会いたいって言うだけでもいいのにな。」
皆の答えはこんな感じで、特に反対も無く希望を叶えて貰える事になった。
しかし、ルナちゃんには仕事中毒みたいに思われてたのか…。
そんな事は無いんだけどなぁ…。
念の為、口にも出してそう言ったんだけど、返ってきたのは皆の生温かい微笑だった。
いやいやいやいや。
本当に、本当に仕事中毒とかじゃないからね?!
釈然としない気持ちでスプーンをかじっていたら、アスラーダさんに頭をポンポンされた。
いいです……。
慰めてくれなくっても……。
そういえば、『うっかり告白事件』からこっち、アスラーダさんの顔をまともに顔も見れなくなっていたんだけど、今回の旅でなんとか常に赤面しているような状態からは脱出する事ができた。
どうも気まずさやらなんやらから、半分接触を避けるようになってしまっていたのも原因の一端だったらしい。旅の最中には半強制的に一緒に居る事になったから、平たく言うなら『居るのが普通』の状態に戻ったみたい。
でも……、やっぱり町中で手を繋いでいる事に気が付いた時には赤面しちゃうんだけどね……。
一体いつ繋いでいるのか、いつも記憶にありません。
ちなみにこの間、意を決して腕にしがみついてみたんだけど、ビックリした顔をした後に満面の笑みを浮かべてたから、彼的には問題ない範囲の行動だったらしいと学習したので、今度からそうしてみようかなぁと画策中。うっかりとは言え、告白しちゃったような状態になってる現状、自分の気持ちを隠しても仕方ないもんね?
誰か、やってもいいよ!って言って下さい……。
それは兎に角、やってきましたエルドラン!
道中は溶けかけの雪を眺めながらウサギの上で揺られつつ、しっかりと新薬の流通具合も確認した。
結果としては、殆どがグラムナード産でした。
ただ、こっちの方では家庭用デラックスの流通も思ったより進んでいないみたいだった。
治療薬の方は殆ど見ない。
町の中で見た家庭用デラックスも、グラムナード産の物しかなかったから、まだこっちの方には新薬の作り方は流通していないと考える方が自然かもしれない。
思ったよりも流通が伸びていない事はちょっと悔しいけど、地理的なものを考えると仕方ないのかもしれないなと思い直した。
グラムナードでも新薬を扱い始めたものの、元々扱っていた『高速治療薬』をいきなり王都の値段まで引き上げる事はできないからと、まずは倍の金額にするところから始めている筈だ。
そもそもがこの辺りだと、王都ほどは転売価格が高くないから、『治療薬』の有用性に光があたって居ないんだと思われる。それに、王都にレシピを入手しに行ったり、作成方法の教えを請けに行ったりするのにはちょっと遠すぎるかも。
この辺は改めて、良い方法を考えた方がいいかもしれない。
私達は、ある程度の市場調査を終えると、騎乗ウサギを貸し馬協会に預けて孤児院へと向かった。
貸し馬協会って馬の貸し出しだけじゃなくて、馬の預かりもしてくれるんだと今回の旅で初めて知った。まぁ、馬を持っていない人には縁のないサービスではあるから、今まで知らなかくてもおかしくはないかもしれないよね。
孤児院には、前と違って小さい子供はあんまりいない。
原因は、定期的にグラムナードからやってくる『人買』なんだそうだ。
まぁ、実際には『人買』じゃなくて、幼子を育てる事に飢えた子供好きな人達なんだけどね。
養子縁組できる年齢の子供は、根こそぎ連れて言っちゃうから冗談交じりにそう呼ばれているらしい。
……あんまり、性質の良い冗談ではないと思うけど。
そんな訳で、今居るのは学校に通える年齢になってから両親を失った子供が主体になっているんだけど……。去年はいなかった子が随分と増えていて、その事に私達は首を傾げる事になった。
「シスター・アリス?」
「はいはい?」
「なんか、去年より増えてませんか……?」
「そうなのよねぇ……。」
彼女は困ったように眉尻を下げた。
「実は今年に入って、ディナド大森林から出てきた魔物のせいで、南西の村が一つ無くなったのよ。あの子達は、その村から何とか逃げて来られた子たちなの。」
ディナド大森林は、エルドランからはそんなに近いとは言えない場所にある。
だからこそ、シスター・アリスの言葉は思いがけないものだった。




