292日目 騎乗ウサギ
アスラーダ:うっかり告白したような状態になってて、まだまともに顔が見れません…。
スルト:ルナちゃんと結婚した幼馴染のネコ耳族。リエラには辛辣だとおもう。
ルナ:スルトとラブラブの新妻で私の親友。いつもフォローしてくれて有難いやら申し訳ないやら。
2017/1/25 誤字の修正を行いました。
初めての騎乗ウサギに乗っての旅に不安が無かったかと言うと嘘になる。
自分で迷宮に配置して置いてナンだけど、試乗とかはした事がないんだよね。
ぽやんと、『ウサギなら早そうだよねー』って言う位の認識で乗れるようにしただけで。
実際、手懐けるのに成功した人の評判を聞くと、『馬よりちょっと早くて、勇敢。』って言う感じ。
戦闘時にもおびえる事が無いって言うのが好評みたいだった。
ウサギと似た評判なのは騎乗用走り鳥かな。
走り鳥は小回りが利いて、戦闘時には少しくちばしを使って攻撃もしてくれるっていうのが付いてくる。
騎乗オオカミは、ウサギや走り鳥と比べると、走る事に特化している訳ではないから速度はそれほどじゃないモノの、移動に使えて一緒に戦う事が出来るという事でファンが多いらしい。
『モフモフ萌えー!』って声も偶に聞く。
騎乗イタチは、背中が長いからか2人以上で移動するときに便利と認識されてるらしい。
3人位なら結構余裕を持って乗れるし、意外と力持ちなんだよね。
ちょっと、腰痛にならないのかは心配だけど。
やっぱり運用方法はオオカミと同じ。
騎乗オオカミと騎乗イタチの触り心地で喧嘩している探索者もいるんだと、そういえばこの間スルトが笑ってたなぁ……。
ちなみに、こんな事を考えているのは今の状態と無関係ではない事なんだけど……。
何と言うかね、今、リエラは、ただの騎乗ウサギにしておくべきだと思っているところなんです……!
なんでって?
騎乗『魔獣』ウサギは、は・や・す・ぎ・るぅーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
「だ・誰・誰か……! たす・助け……!!!」
あまりの速度に、必死に鞍にしがみついて身を伏せる。
こんな速度で走っているというのに、空気の抵抗を感じないところを見ると騎乗『魔獣』ウサギは風魔法を使ってそれをいなして速度を出しているらしいと、こんな状態でも冷静さを保っている頭の片隅で考える。
そしてウサギは、ピョンピョンと嬉しそうに跳ぶ・跳ぶ・跳ぶ!!!
「ひぃえええぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇえぇぇ」
うっかり、『隣の集落まで頑張ってね』なんて言ってしまった事が、どうやらこのとんでもない速度で跳ね進まれる事になってしまった原因らしい。
結局、リエラが救出されたのはそれから20分後の事だった。
私がウサギの制御に成功した訳じゃなく、単に言われていた目的地に着いたからとウサギが移動を止めたってだけなんだけどね……。
「お前なぁ……! いきなりすごい勢いで飛ばしてどういうつもりだよ?!」
「リエラん、大丈夫??」
後から追いついてきたアスラーダさんが、鞍にしがみついたまま動けなくなってしまっている私を真っ先に降ろしてくれた。
横抱きにして心配そうに顔を覗き込んでくるのにも反応できずに、ぐったりと彼にもたれかかる。
速度に酔ったのか、物凄く、気持ちが悪い……。
「顔色が悪いな……。」
「ったく、ついさっき出発したばっかりだぞ?」
「あはは。まさか隣の集落で最初の休憩って言うのは予想外だけど、まぁいいじゃない。」
心配げなアスラーダさんルナちゃんの声が、胸に沁みる。
スルトの悪態には、悲しい事に同意するしかない。
そう。村を出たばっかりなんだ……。
……出たばっかりなんだよぉ!
10分位横になっていたらなんとか気分が悪いのが落ち着いて、喋れるかなって状態になったので皆に謝ることにした。
「ごめんね。あんなに早いなんて思わなかったもんだから……。」
「お前さ。一人で乗るの禁止な。」
「ええええええええ!!!!!」
「『ええ!!!』じゃねーよ。危ないから、師匠と一緒な。」
「やっと、やっと自分で乗れるようになったのに……。」
「馬鹿。アレは、乗せられてるって言うんだよ。」
スルトの辛辣な批評に、うっかり涙が出そうだ。
助け船が出ないかと他の二人に視線を向けたものの、サッと目を逸らされてしまう。
かくして、私の一人乗り計画はほんの1時間足らずのうちに頓挫したのでした。
なにはともあれ、最初の目的地でもあった隣の集落。
ここは迷宮が発見されて暫くしてから作られ始めた物で、まだ民家と言うか民宿というか?
そんな感じの物が街道沿いに10軒位建っただけのものだ。
一応、村同士の最低限の距離を守って作られていると思うから、アトモス村からは20km位は離れている筈。スフィーダ方面から迷宮に徒歩で向かう探索者が、最後に立ち寄るかもしれない立地になってる。
スフィーダとアトモス村の間は大体200kmあるから、ここと似たような集落がちょこちょこ出来始めているらしい。
すぐ隣にある集落だから、最初から覗いてみるつもりではあったものの、まさか自分がウサギに振り回されてここでダウンするとは思ってもいなかった……。
と、集落を散策(する程の広さでもないけど)しながらつらつらと考える。
「あれ……。」
「どうした?」
「そう言えば、こういう集落の長ってやっぱり貴族の方なんですか?」
「そうだな…。多分、家督を継ぐ事が無い三男以下の者が領地から供を連れて、開拓に出されて来てるんじゃないか?」
アスラーダさんの返事がすぐそばで聞こえて初めて、何気なく手をつないで歩いていた事に気が付いた。後ろを振り返ると、スルトが私の乗ってきたウサギの手綱を持ってニヤニヤしてる。
うう。スルト、今度覚えてろぉ……。
小さいながらも雑貨屋みたいなものもあって、規模が小さいなりに立派な村と言えそうだ。
ただ、この集落はアトモス村が在ってこそ出来たものだ。
最初に大森林のすぐそばと言う危険な場所で、村としてきちんと運営できる保証もないのに、きっとこんな状態からトーラスさん達はアトモス村を初めて着いた時の状態まで育てたのか。
と、そう思うと彼等が『持てる者』でなかった事もあり驚くとともに尊敬の気持ちが湧いてきて、やっぱりあそこを拠点に選んで良かったと改めて思う。
一通り集落を覗いて満足すると、再び私達はウサギに跨りグラムナードへ向かい始めた。




