240-245日目 マーティン魔法具工房
アッシェ:魔法薬担当の三つ目族の女の子。最近、少し挙動不審。
コンカッセ:魔法具担当の丸耳族の女の子。いっつも眠そう。
セリス:グラムナードに居る調薬師のお姉さん。リエラの女神さま。
翌月の半ば過ぎに、魔法具工房がお引っ越しをしてきた。
わざわざ挨拶に来てくれた彼…マーティンさんは鼠耳族の小柄な男性で、魔法具師としては若手で26歳なんだとか。
アトモス村には、妻子と共に移住してきたんだそうだ。
魔法学院を卒業した後、王都にある工房の一つで修業していたそうで今回は独立する良い機会だったんだと嬉しげに話していた。
コンカッセが魔法具を担当してる事を話すと、物凄く驚いた。
「この工房の方が皆さんお若そうだとは思ったんですが…。実年齢が14歳とは…!」
大仰な身振りを交えて驚く彼に、曖昧な笑みを浮かべて首を傾げる。
「修行を始めて2年なので、まだまだ学ばせなくてはいけない事は沢山あるんですよ。」
「既に、これだけの物を作り出せているのにですか…!」
彼にはこうは言いはしたものの、アッシェにしろコンカッセにしろ今は既に基礎は完全に抑えている。
アトモス村に来たばかりの時は少し怪しげだった部分も、工房での仕事を自分達がメインとして行う様になった事によって克服する事が出来ている。
2人とも、自由時間には結構お勉強もしているらしいのでそれも大きいかな。
彼とはその後も、当たり障りのない会話を続けた。
来週半ばから営業を始める予定だったらしいんだけど、お休みはウチに合わせる事にしたらしく、一日早くして紅月からの営業にする事にするんだそうだ。
そうすると、他に出店する人達にもお休みを併せる事を提案した方がいいのかな?と思いながら、帰っていく彼をお見送りした。
「優しそうな人だったですー」
「そうだねぇ。」
「開店したら、見にいかねば。」
「高価なヤツはお店には出てないと思うよ?」
「それでも、見に行く。」
コンカッセは、殆どを手作業で作るという魔法具に興味津々だ。
まぁ、私もそうなんだけど。
グラムナード方式だと、魔法でグニグニ成形して、魔力で魔法文字の焼き付けするのがメインだからね。
手であの細かい文字をどうやって刻むのか、とっても興味がある。
ただ、そう言う魔法具はどうしても高価なので興味本位で買うのはなぁ…って感じなんだよね…。
かといって受注生産が主体の商品だから、手に取ってみる事も出来ないしね。
これから、色々と情報交換とかをしていけたらいいなぁ…。
ちなみに、コンカッセはこの前王都に遊びに行った時に魔法具屋さんに入ろうとしたんだけど、小さい子が買える様な物は置いていないと摘まみだされてしまったらしい。
良く考えてみれば、彼女達はまだ成人前なんだよね…。
まぁ高価な魔法具を扱っているお店に入りたかったみたいだから、成人していても門前払いする様なお店だったのかもしれないけど。
翌週の紅月にマーティンさんのお店が開店する日だ。
私達はお店が始まる前に、マーティン魔法具工房にお祝いのお花を持って訪ねていく事にした。
「まぁ、わざわざご丁寧にありがとうございます。」
「おはなー!」
「きれいだねー、ママ」
開店準備で忙しいらしいマーティンさんの代わりに、奥さんが出て来て受け取ってくれる。
一緒に出てきた子供たちが、花を見てはしゃいだ声を上げるのがなんとも可愛らしい。
奥さんもマーティンさんと同じ鼠耳族だからか、その子供たちは丸耳族の子供と比べると2回りくらい小さいんだけど、それがまた、何と言うか…セリスさんの気持ちが分かる!と叫びたくなる位可愛らしい。
細長い尻尾を揺らしながらチョロチョロと走りまわるのは、きっとスルトには目の毒だ。
絶対に追いかけたくなっちゃうと思うんだよね。
なにせ、丸耳族の私ですらそうだし!
その日、マーティン魔法具工房は開店記念で2割引きセールをしたらしくて結構な賑わいだったと、お昼を食べた後にお店を覗きに行ったコンカッセが教えてくれた。
コンカッセは、マーティンさんと今度魔法具を造るところを見せ合う事になったと嬉々として報告してくれた。
そう言う話には私も混ぜてほしかったなぁと思っていたら、私も参加オッケーらしい。
コンカッセ、グッジョブ!!!




