171日目 夜中の訪問者 下
アッシェ:調薬担当の三つ目族の少女。話し方が特徴的。
コンカッセ:魔法具担当の丸耳族。いつも眠そうで、発言はぶつ切りした感じ。
アスラーダ:私にとってとても大事な人。
結局それから、私がアスラーダさんをどう思っているのか・どうしたいのかを根掘り葉掘り聞かれる羽目になった。
彼女達が、『冗談じゃない!』と講義する事に決めた事に対する私の反応の薄さから、色々と隠し事をしている事にアッシェが感づいてしまったのが原因だ。
妙に鋭い事のあるアッシェだから、その内気付かれるかなぁとは思ってたんだけど…。
今まではおかしいと思いながらもお目こぼししてくれていたらしい。
「どう…というと…?」
「アスラーダさんの事が好きなんだろうなーというのは、前々から行動を見ていれば分かって居たですけど、結婚まで見据えて一緒に居たいと思ってるかどうか、ですー。」
「アレが貴族だとなると、結婚はハードルが高い。いっそ愛人とか。」
「え…。そんなに分かり易かったかな?」
「目が見えなくても分かるレベルですー」
「私も分かった。相当なレベルだと思われる」
いきなり、結婚とか愛人とか言われても困ると話題をすり替えようと思ったモノの、すり替える話題が思いつかない。そのかわりに、自分の行動がそんなに分かり易かったのかと訊ねてみると、随分分かり易かったらしい例えが口に出された。
目が見えない人にも分かるレベルでって、どんな??
「そもそも、好意を持ってない相手と毎日恋人繋ぎで出歩かないですー」
「二人きりで箱庭に一日こもるのも無理」
あ、はい。
言い訳できません…。確かに分かり易いですね…。
すっぱり言い切られて、肩を落とす。
「アスラーダさんも、それを分かっているから最近は行動がエスカレートしてきてるですよ。」
「ポッシェが変な学習すると困るから、白黒つけてほしい」
ん?今何か変な要望が出て来なかった?
思わず、アッシェと二人でコンカッセを凝視すると、自分の発言に気が付いた彼女がハッとした顔をして口を押さえた。
「コンちゃんの事は置いとくとして、です。りえらちゃんが、本気でアスラーダさんと結婚したいんだとしたらアッシェ達にも手伝わせてほしいのですー。」
アッシェの言葉に、コンカッセもコクコクと口を押さえたまま頷いた。
「もう、りえらちゃんも15歳ですからいつ結婚してもおかしくない年齢なのです。結婚まで行かなくても婚約は17歳までの間にした上で、20歳になる前に結婚するモノですし…。」
グラムナードみたいに、住人の平均寿命が飛び抜けて高い場所はそうでもない話ではあるモノの、イニティ王国の一般的な認識としてはアッシェの言葉の通りだ。
グラムナードだと、婚約が18~50歳位の間に行われて、その後100歳位になるまでにのんびりと結婚式や新居の用意を行う。それが全て終わってからやっと結婚生活が始まるのだそうだ。
「…アスラーダさんが、グラムナードの基準で考えてるか、イニティ王国の基準で考えてるのか分からないのでなんとも…。」
「りえらちゃんがどうしたいのか。なので、アスラーダさんはどうでもいいです。」
「うえぇぇぇ…」
上手くごまかせないかなと言う希望は、はかなく砕け散った。
「りえらちゃんの希望に沿う形で協力させてほしいのですよ?」
「うぅ」
正直、構わないで貰うのが一番の協力なんだけど、どう言えばいいものか…。
「…リエラの希望を叶える為に必要なモノは?」
「え?最低限『名誉貴族』になる必要はあるみたい…」
「『名誉貴族』…。」
「りえらちゃんらしくない発想ですが、誰の入れ知恵です?」
「ラエルさん…。」
「ああ、おじいちゃんですかぁ」
「その称号貰うのは、結構難しいはず」
「ですですー」
どう言って2人に協力を諦めて貰うか考えていたせいで、不意にコンカッセがしてきた方向を変えた質問にうっかり答えてしまった。
ああ、やってしまった。
そう思いながら私をそっちのけで、検討を始める2人をぼんやりと眺める。
難しい事だって言うのは分かってる。
でもこれは、何もしないで諦める事が出来なくって決めた事だ。
ラエルさんに泣きついてしまった時の事が今でも、昨日の事の様に思い返せる。
彼とアスタールさんが、最終的に辿り着いたのがこの方法。
『王国中にリエラの名声を轟かせ、名誉貴族に叙任される』って言うモノだ。
何年かに一度、王国内で著しく功績を上げた人物に与えられる爵位で、領地の無い一代限りの爵位だ。
この爵位を貰うと、王国から年給が貰えるらしいんだけどそれはどうでもいい。
ポイントは、私でも貰える可能性がある上に、この爵位を持つ人は大貴族よりも認知率が高い。
この認知率が一番重要なのかな、と思ってる。
一般庶民でしかないリエラが名誉貴族とは言え名声を得て貴族の仲間入りを果たせば、大貴族との婚姻も不自然ではない、というのがラエルさんの見立てだった。
『名前も知らない大貴族同士の婚姻よりも、庶民受けもいいんじゃないの?』と言った彼は皮肉げな笑みを浮かべてはいたんだけれど。
庶民受けはどうでもいいけど、それが後押しになってくれるんだったら、それにも縋りたいそう思った私は、アスタールさんの要望を叶えるのと交換にその協力を取り付けた。
私が、思い返している間に2人の話し合いはいつの間にか終っていて、姿勢を正してこちらを見てる。
私と視線が合うと、アッシェが口を開く。
「今回の出店にしろ、新薬の事にしろ。色々と不思議だったですけど、やっと腑に落ちたです。」
「ここが上手くいったら、他にも出店して新薬と調薬の仕方をリエラの手で広める。」
「あちこちの町で、新薬が普及すれば目的が達成される可能性が高くなるです」
「ただ、結構な長期計画になる」
「ですー。なるだけ早く、計画を為す為に!!!」
「次の迷宮を早く作る。」
「そうして、アッシェとコンカッセで新薬をたーーーーーくさん売るです!」
「リエラの野望を叶える為に!」
「リエラちゃんが早く結婚出来る様に!」
「まずは、王都近辺を征服するのが目標。」
うん。それが、2人に今まさにやって貰いつつあることです。
話すとややこしい事になりそうで、それでいてやって貰える事が今と変わらないからと、彼女達には表向きの計画しか話していなかったんだけど…。
それに、アスラーダさんとの事は私の本当に個人的な願望で…。
グラムナードの外に迷宮を作ったり、工房の支店を作ったりと言うのは、私のモノとはまた別の目的もあってやっている事だ。
ただ、それをまだ話す訳にはいかないから、アスラーダさんとの事が最終目標だと思って貰えたのは、結果的には良かったのかもしれない。
アッシェとコンカッセが気炎を上げるのを見ながら、ホッと息を吐いた。




