171日目 夜中の訪問者 中
アッシェ:調薬担当の三つ目族の少女。話し方が特徴的。
コンカッセ:魔法具担当の丸耳族。いつも眠そうで、発言はぶつ切りした感じ。
ポッシェ:探索者組のクマ耳族。食いしん坊で女の子が好き。
アスラーダ:私にとってとても大事な人。
2017/1/14 誤字の修正を行いました。
2017/6/11 加筆・修正を行いました。
アスラーダさんを陥れる悪だくみを始めようとするアッシェをどうにかこうにか宥めるたところで、ふと、いつも一緒に行動しているコンカッセが居ない事が気になった。
「ね……、アッシェ? コンカッセは?」
「コンちゃんは、アスラーダさんとこですー」
「!!!!!!!!!!!」
アッシェの言葉を聞くと同時に、椅子から飛び上がった。
コンカッセも同じ事を聞いてるとなると、彼のところに何をしに行ったのか……。
十中八九、アッシェが私に言ってきたのとほぼ同じ内容を突きつけて、白黒つけろと迫る。
その姿が容易に想像できて、思わず意識が遠のきかける。
「りえらちゃん、大丈夫です??」
いやいやいやいや!
今、倒れてる場合じゃない。
アッシェの声に我に返ると、コンカッセが向かったに違いないアスラーダさんの部屋へと向かった。
アッシェの声が後ろから追いかけてきたけど、コンカッセを捕まえる方が重要だと後回しにする。
女子棟の階段を殆ど飛び降りて、男子棟にあるアスラーダさんの部屋に向かう途中で、お風呂上がりでホコホコになったご本人とすれ違う。
良かった、部屋に居なかった…!
慌てて走り去る私を、キョトンとした様子で見送る彼の姿にホッとしながら、男子棟の階段を駆け上って彼の部屋に向かった。
コンカッセがアスラーダさんと顔を合わせる前に止めなくちゃ!!
ところが部屋の前にはコンカッセの姿が見えず、その代わりに、ポッシェの部屋の中からドタバタと暴れる音が聞こえる。
ああ、ポッシェも同じ話を聞いてたんだ…。
どうやらそれで、コンカッセが何をしに来たのか察して止めてくれているらしい。
他に、ポッシェがコンカッセを部屋に連れ込んだ理由が思いつかなかった。
思いの外、気が回るらしいポッシェに感謝しつつ息を整え、その部屋の戸をノックした。
「今手が離せないよー! 誰ー?」
「離せ、けもみみ!!」
「そりゃ、産まれた時から獣耳だよ。クマ耳族だもん。」
ポッシェの半泣きの返事に被せるように、コンカッセの暴言が聞こえてきた。
ただ、内容が2人がいつも小競り合いをする時にお決まりの遣り取りで、余りの通常運転っぷりに思わず苦笑が浮かんだ。
「リエラだよ。入るね。」
「助かった~!」
「む。アッシェは?」
中に入ると、ポッシェに後ろから羽交い締めにされて暴れていたらしいコンカッセの姿があった。
いつも綺麗に結んでいる髪は、暴れたせいでボサボサだ。
「アッシェは私の部屋だよ。ポッシェ、コンカッセと一緒に来てくれるかな?」
「運搬役だね。いいよー。」
ポッシェは返事と同時に、コンカッセを肩に担ぎあげた。
文句を言いながら手足をばたばたさせる彼女を気にする風もなく、何も聞かずに付いてきてくれる事に感謝を口にする。ここで事情説明すると、アスラーダさんに聞かれる可能性があるから避けておきたい。
後ろにポッシェを引き連れて男子棟の階段を降りると、アスラーダさんとまた鉢合わせる。
「何の騒ぎだ?」
「王都が楽しすぎて、まだ興奮状態みたい。」
私の返事に、彼は「は?」と言いたげな視線を返してきた。
うん。私も苦しい言い訳だと思う。
「今から、寝かしつけてくるー。」
「寝ない。わたしはまだやる事が……」
「……遅くならないようにな?」
変だとは思っているみたいだけど、深追いしないでくれる事にしたらしい。
ホッとしながら、「おやすみなさい」と告げると彼からも同じ言葉が返ってきた。
コンカッセを担いだポッシェを連れて部屋に戻ると、アッシェは暇そうに足をぶらぶらさせながら待っていた。
「あや。コンちゃんはポッシェに捕まったです?」
「ん。失敗。」
「2人共、人の恋路に口を挟むべきじゃないって言ったじゃん。何で余計な事しちゃうの?」
2人が暴走してるせいか、ポッシェがひどく良識的な事を口にした。
最近、食べ物の話しか聞いていなかったからなんだか新鮮な感じ。
対する2人はそれに不満げな様子で、口を尖らせたり頬を膨らませたりしている。
「取り敢えず……。ポッシェ、王都でどんな話を聞いたのか教えて貰っていいかな?」
「師匠の事だよね。うーんと……、なんかね、子供がなかなかできない王様が養子にして王太子にするんじゃないかって噂があったみたいだよ。」
「うわ。それは知らない。」
とは言え、ラヴィーナさんのところで育ったという事を考えると、そう言う深読みをする人が居てもおかしくは無いのかと内心で納得する。
本人にその気があるかどうかは関係なく、周りがどう見るかという話になってくるから無い話ではないだろう。
それが実現できるものかどうかっていうのは別問題だけど。
「でも、王妃様が身籠った途端に王宮を追い出されたから、それを恨みに思ってるんじゃないかって話があったんだって。その上で最近、王都で姿を見たって噂があったから王子を排除しようとしてるんじゃないかって。」
「本人は興味なさそうだよね……。」
「そうだねー。」
「それで、2人が大騒ぎする事になった原因って?」
「うん。さっきの話の続きになるんだけど、今でも王子に何かあったら、その身がわりにされる可能性が高いと思われてるみたいなんだ。
それに王子に何もなかったとしても、グラムナードとの繋がりを美味しいと思う人が娘との縁談を持ち込みまくってるって噂でね……」
私はげんなりしながらポッシェの言葉を聞いていた。
王家……王家かぁ……。
グラムナードの跡取りだってだけでも、ハードルが高いと思ってたのに……。
なんとも余分な噂話までついてるものだ……。
「アスラーダさんが、その縁談の相手とキャッキャウフフとやってる訳でもないのに何で2人はそんなに怒ってたの?」
「大領主の娘と逢瀬を重ねてるって噂もあったからそれかな?」
「エルドランの領主の末娘と聞いたです―!」
「フレム家の孫娘ともだと聞いた。」
私の言葉に、憤慨した様子で自分の聞いた噂のお相手を口にした2人に、呆れつつそれが不可能だという事を示唆する事にした。
「ここ4年位、殆ど私と一緒に居るアスラーダさんがそんな逢瀬を重ねる機会がいつあると……。」
「「あ」」
私がグラムナードに行ってから、アスラーダさんと離れている時間なんて全部で1月分あるかないかだと思う。48か月中で1月だよ?
たとえ頑張ったとしても、1回2回会えるかどうかだろう。
『逢瀬を重ねる』と言える程の回数になる訳がない。
それに、離れる時はいつでも突発的に時間が空いた時だけだから、計画的にと言うのも難しい。
そもそもがアスラーダさんはそう言う器用な事をやれるタイプでもないと思うしね……。
「そっかぁ……」
「確かに会う時間がない」
2人は顔を見合わせると、安心した様にへにゃっと笑いあった。
「とは言え、『グラムナードの次期領主』ってだけでもハードル高いと思ってたのに、余分な噂まで在るのかぁ……。」
「「!!」」
「そうなのです!」
「対策練らねば」
つい、余分な事を呟いてしまったお陰で、アッシェとコンカッセの目の色が変わった。
うわ、失敗した! と思っていたらポッシェが申し訳なさそうに私の肩をつついた。
「コンカッセも落ち着いたみたいだし、僕、もう寝ても良いかな?」
「「薄情者」」
「あー……。ポッシェは気にしないで寝ていいよ。」
「んじゃ、お休みー」
仲良く非難の声をハモらせた2人は無視してポッシェを部屋から送りだす。
これ以上付き合わせるのは酷だろう……。
早速、ライバル(候補)を蹴落とす手段について相談を始めた2人を見ながら、私も今日は寝れるのかな?と不安になった。




