164日目 変わりゆく街並み 下
お店の閉店時間になると、皆で大急ぎで店仕舞いをして出掛ける準備をする。
私とアスラーダさんは普通に家に帰る準備と同じだけど、ルナちゃんは軽くお化粧直しをしてお着換えをしてきた。
オフショルダーのブラウスにロングスカートを穿いて、チェックのショールを羽織った姿がなんだかオシャレに見えた。
オシャレと言うのはああやってするモノなのか。
自分のいつもと変わらぬ服を思わず見降ろす。
袖でふんわりとつぼみの様な形になる生成りのブラウスにレースの飾り襟を着けて、裾がスカラップになった刺繍入りのこげ茶色の革製スカート。
…精一杯オシャレ…と言えなくもない??かな???
「おまたせー!」
「お腹すいちゃったね、いこっか!」
スルトはルナちゃんの肩をさり気なく抱き寄せて、耳元で何か囁いた。
くすぐったそうなルナちゃんの様子を見ると、褒め言葉でも囁いたんだろう。
こっそりと、コンカッセの口癖を心の中で呟いてみた。
…うん。なんだか、余計に暗いモノがお腹の辺りに溜った様な気がする。
次からは辞めておこう。
「今日は4人もいるし、シェアして食べれるモノにしようか?」
「だなー!2人だと、食べきれないからなぁ…。」
「結構、外で食べたりしてるの?」
「お休みの日は基本、外食かな。」
「そっか、作るのも結構大変だもんねぇ…。」
そう話しながら、いつも文句も言わずにご飯の用意をしてくれるアッシェの事を思い出した。
お休みの日位、彼女をお休みさせる意味も込みで外食にするのもいいかもしれない。
屋台だけじゃなく、飲食店も大分増えて来てる事だし。
ルナちゃん達が食べ歩いた範囲内での、屋台の美味しいモノの話をしながら迷宮の近くにある広場に向かう。迷宮の近くは、探索者目当ての屋台が結構でているんだそうで、安めで美味しいところが多いんだそうだ。実際、迷宮に近づくにつれて美味しそうな匂いがこっちの方にも漂ってくる。
「あ、ジャガイモ揚げてる!アレ摘まみながら周ろう?」
「いいよー」
ルナちゃんはいち早く、大好きなジャガイモ料理の屋台を見つけると満面に笑顔を浮かべて提案する。
私も揚げたジャガイモは大好きだから、否定する理由もなかった。
手の平二つ位という大きめの袋草に詰められたジャガイモは、一度茹でたモノを潰してから揚げてあって、揚げたての熱いのを頬張ると中からチーズが飛び出してきた。
ハフホフと口から熱を逃がしつつ、目が合ったアスラーダさんと互いの表情が面白いと笑いあう。
「あ、あそこのキッシュ美味しいわよ。」
「ホウレンソウのあるかな?」
「あるある。」
次は、一口サイズのキッシュをそれぞれ1個づつ買ってそのまま頬張る。
迷宮で牛乳が採れるのが広まってからこの村でも乳製品を作り始めているとは聞いていたんだけど、そのおかげでこういう料理も食べれるようになったらしい。
食肉は狩るモノと言うのが主流で畜産は殆ど行われていないから、迷宮で採れる乳製品と言うのは中々のヒットだったらしい。
牛乳に関しては、アッシェの希望をかなえただけだったんだけど、他の人達にも好評で良かった。
ちなみに彼女は、グラムナードの色山羊の乳から乳製品にハマったらしい。
水牛の話を聞いて、迷宮でだったら常に乳が採れる水牛も可能なんじゃないかと言うのが要望の発端だったそうで、牛の乳なら『牛乳』だろうと造語まで作ってくれた。
ポッシェの食べ物に掛ける情熱も大概だけど、彼女のも引けを取らないと思う。
でも、そのお陰でさっきのジャガイモのチーズ揚げ(?)やキッシュを食べれるんだから、アッシェ様サマだ。足を向けて眠れないね。
その後も屋台を縫って歩きながら、めぼしいモノを見付けては皆で摘まんで歩いた。
自慢するだけあって、スルトの鼻は中々の性能だ。
お肉の串焼き一つとっても、屋台によって随分と味が変わるモノだと初めて知った。
「この串焼き、良い仕事してるわねー!」
「これ、迷宮の水牛だって言ってたよね?」
「まさか、硬いお肉を柔らかくする為に果実酒でコトコト煮てから串焼きにしてるとはな…。」
「美味いは正義でいいじゃん」
私達が口にした思い思いの感想はスルトの言葉にぶった切られた。
「美味いは正義…。」
「…確かにね!」
その言葉が何ともスルトらしくって、ルナちゃんと肩を叩きあって大笑いした。
そうやって食べ歩いていたら、家に帰る頃には想定外に食べ過ぎてしまっていた。
木の器に盛られた焼き麺を皆で順番に一口づつ食べて感想を交わしあったり、一口サイズのパイを頬張りながらルナちゃんと「美味しいー!」と声を上げたりと楽しい一時だったのだから仕方ない。
その上、お土産にしやすいように袋草に入れてくれたりするモノだから、明日の朝用と言う事にしてついついお持ち帰りまでしてしまった。
木の器はどうするのかと思ってたら、回収場所があってそこに入れておけばいいというのもなんだか面白かった。
「流石に食べ過ぎたな。」
「そうですねぇ…。」
手をつないでいつもの道を歩きながら、二人で苦笑を交わし合う。
この1月、店と家の往復ばっかりしていたせいで見逃していたモノも今日は沢山見れた様な気がする。
「なんかアトモス村も、アトモス町になる日が近い様な気がしちゃいますね。」
春には夜の7時も過ぎれば、真っ暗になっていて眠るだけだった村だったのに、今は9時も近いというのにあちこちに明かりが見えるという事に、今さらながら今日気が付いた。
「実際、迷宮が発見されてからぐんと人口も増えているからな。」
「確かに最近は、随分とお客さんも増えてきましたね。」
店に来る探索者とそれ以外の人達を思い浮かべる。
新しく来た人達と、昔から居る人達との間で小さないざこざはあるらしいものの概ねその辺りは上手く行っているように見える。
「屋台巡り、楽しかったですねぇ…。」
「明日も行ってみるか?」
「二人でですか?」
「ああ。ナビがいないのも、リスキーで中々面白いんじゃないか?」
そう言うアスラーダさんの言葉に、思わず声を上げて笑ってしまった。
たまには、そう言う楽しみがあるのもいいかもしれない。
彼の笑顔を見ていたら、ついついそう思ってしまう。
彼が笑っていてくれるんだったら、出来るだけの事をしたいと思ってしまう私は、もしかしたら色々と末期なのかもしれない。




