111日目 調合体験 下
アッシェ:調薬担当。三つ目族の女の子。ちゃっかりしてる。
コンカッセ:魔法具担当。丸耳族。いつもねむそう。
王都代表:王都からアトモス村まで損害賠償を勝ち取りに来た。ほぼお爺さん。
ジョエル:王都近郊の町から来た錬金術師。優しげな雰囲気のお兄さん。
1属性しか持っていない錬金術師さんに対する、『1人で作れないなら2人で作ればいい』と言うアッシェとコンカッセの提案。
確かに、その通りではあるモノのこの提案は、多分受け入れてもらうのは難しいのではないかと思う。
「いや、やってみなけりゃわからないだろう!?」
そう言ったのは、『地』属性のおじさんの1人。
残りの人達も同意するように頷いているところをみると、『煎じ』る時に魔力を含ませる事が出来る方に掛けるつもりらしい。
ジョエルさんは涼しい顔で作業を継続している。
見た感じ、彼だけは『煎じ』る時にも魔力を含ませる事に成功していた。
やっぱり彼は2属性持ちらしい。
「実際問題、ここに居る全員が店舗持ちな訳ですから2人で一緒にと言うのは中々難しいですね…。」
『水』属性の1人が困った風にそう呟いた。
「それぞれが、自分の店を生き残らせたいですしねぇ。」
「確かに。」
「しかし、悔しい事に『水』属性の場合あちらと違って代用品になるモノがありませんしね…。」
彼等は視線を交わしてため息を吐いた。
ただ、代用品には一応心当たりは…ある。
現状で『赤薬草』は用意できないんだけど、『治療薬』の素材ならばそれぞれで用意できなくもない。
一応、実験結果は良好だったものの、量産する事が難しいというのが難点なんだよね…。
「…もしかして、代替品があるんですか?」
勘の良い人が私に期待を込めて訊ねてきた。
うーん…。
教えても害はないからいいかな?
「赤薬草には使えない手なんですが…」
そう切り出すと、彼等は少しがっかりした様だったものの、続く言葉に希望を見出したようだった。
「『治療薬』の材料になら使える手があります。」
「…その方法をお伺いしても…?」
「問題ありません。」
「おお…!」
ダメだと思っていたのか、喜色を浮かべる彼等に不思議に思った事を訊ねてみる。
「でも、この方法だと『高速治療薬』を作るのには役に立たないですよ?」
「売れ行きを拝見してましたから…。」
「『高速治療薬』が必要な時には、彼等から魔力を含ませ終わったモノを融通して貰う事もできますしね。」
他の人に視線をやると、概ね同じ意見なのか頷いて先を促された。
「方法は簡単なんですが、少しだけ時間が掛かります。」
「それはどれ位ですか?」
「治療薬の為の薬草は、根から全部の草を使うんですが、その薬草を2~3日の間栽培する必要があります。」
「栽培…?」
「はい。毎朝水をあげる時に、水に魔力を含ませてやる事で間接的に薬草にも魔力を含ませる事が出来るんです。」
「もしかして、あげる水は魔力を込めたものでいいのですか?」
「大丈夫です。『魔力視』を使えば十分に魔力を含んでいるか確認する事ができますから、ぜひ試してみて下さい。」
そう言うと、『水』属性組の人達は納得したらしく互いにやり方などについて話しあい始めた。
その一方で、『地』属性組の人達は『煎じ』る段階で魔力を含ませる事が出来ず、悲しげにうな垂れている。
不意に一人がパッと顔を上げると、「魔力水を使えばいいんだ!」と叫び声をあげた。
どの人だろうかと目を凝らして見たら、王都代表だ。
結構優秀な人なのかもしれないなと思って見ていたら、彼は早速試したかったらしくて追加の材料を高圧的にアッシェに要求してあっさり断られた。
「素材もただではないのです。100ml分の材料費として200ミル頂きます。」
「くそ!金の亡者めが!!」
そのセリフ、あなたがいいますか…。
賠償金をよこせと叫んだのと同じ口でのその発言に、心の中で突っ込みを入れた。
まぁ、200ミル回収しなくっても構わないんだけど、全員に同じ事を要求されると収拾がつかない。
というか、無料だと思ったら1回の追加じゃ済まないだろうから、代金を請求したアッシェは抜け目が無いなと感心してしまった。
ハタから見てるからツッコミを入れる余裕があるものの、私だったら何も考えずに渡してたかもしれないし。
王都代表は、魔力水を使って『高速治療薬』の調薬を成功させると同じグループ内でのヒーローになっていた。
なんだかちょっと単純。
男の人って大人になっても子供っぽさがあるという噂はあるけど、王都代表は初老と言ってもいい年齢なんだけど、その子供っぽさがちょっと可愛いと思ってしまった。
丁度頃合いだろうという事で、ここまでで作ったモノはそれぞれのお土産として持たせた上で、お店で販売している魔法薬を50mlづつお土産に渡して今回のツアーを終了させて貰った。
魔力水の入手先を訊ねられたので、役所で受付をしている事を教えておく。
これで、魔力水の取引に関しては村に丸投げできる。
ツアーが終った後、なにやら悪態を吐いてた人もいたけど、概ね感謝の言葉を告げて去っていく。
「今日は実り多い一日でした。」
最後まで残っていたジョエルさんがそう言って微笑む。
「また、お会いいたしましょう。リエラ師、アッシェさん、コンカッセさん。」
彼はそう言って、私達の手の甲に口付けを落とすと爽やかに手を振って去っていく。
私は「また」の部分に、わずかに力を込めていたのを不審に思いながらその姿を見送った。
背後で動揺する気配がしたけれど、とりあえず今は黙殺しておいた。




