111日目 調合体験 上
アッシェ:調薬担当。三つ目族の少女。綺麗可愛い系なんだけど…言動のせいであまりそう見えない。
コンカッセ:魔法具担当。銀髪の丸耳族の少女。可愛い系だけどちょっと残念感がある。
王都代表:王都の錬金術工房から9人の仲間を引き連れて賠償を求めてやってきた。ほぼお爺ちゃん。
ジョエル:王都近郊の町の錬金術師。アスラーダさんよりちょっと年上?優しげな雰囲気。
2017/1/6 誤字の修正を行いました。
2017/6/11 加筆・修正を行いました。
アッシェの『高速治療薬』作りを見学したおじさん達は、一目でわかるほどの衝撃を受けていた。
ぶつぶつと呟く声を聞いた感じだと、彼等が一番衝撃を受けたのは彼女の『総魔力量』の多さらしい。
アッシェが実演して見せたのは『家庭用デラックス』30Lと『高速治療薬』を10L。
これを連続して作った事により消費した魔力は1600位のはずだ。
実はこの事に関してはうっかりしていたというか、認識が狂っていたというか……。
魔法具以外の物に触れた事のない一般の人は30位が普通で、多少魔法を使える人でも100~500位が多いらしい。
1000もあれば、何らかの魔法を売って暮らす事が出来る……っぽい。
1万もあると、王宮魔術師だっていう話を昔聞いた様な気もするね。
この基準から言うなら、アッシェとコンカッセの総魔力量は私の20分の1にも満たないものの、宮廷魔術師ランクと言う事になる。
ただこの魔力量って、グラムナードに残っている弟子仲間には同じ位の子が何人もいると言うのも、認識が狂っていた原因の一つではあるんだけど……。
この件に関しては、自分を基準に考えちゃいけなかったのをすっかり忘れてた自分に腹が立つ。
とはいえ、いつまでもおじさん達を落ち込ませていても仕方ないし、やっちゃった事はどうしようもないという事にして無理矢理気持ちを切り替えると、地の底まで沈んで行きそうなおじさん達に向かって声を張り上げた。
「では、これから調合体験を始めたいと思います。希望なさる方は機材を用意してありますのでそちらへどうぞ!」
その言葉に、魂が抜けかけたような表情をしていたおじさん達はハッとして顔を上げると、我先にと機材に群がった。
機材を前にした途端に、活き活きとし出した姿にほっとしつつ言葉を継ぐ。
「先程の『家庭用デラックス』3種の製作体験を行った後に、よろしければ『高速治療薬』の制作も行って頂こうと思います。ご質問がありましたら、アッシェか私にお聞きください。」
その言葉と同時に、全員が作業に取りかか……らない人が約5名。
王都代表と、一緒に来たウチの4人は配られた素材から詳しい配合とかを調べ始めようとしている。
「そのレシピ、国に献上してあるからここで配合を覚えても、店で作ったら捕まる可能性が高い。」
いつの間にか背後からその4人に近付いたコンカッセが小さな声で囁くと、一瞬固まった後に肩を落としながら作業を開始した。
最初に作って貰ったのは、魔力水を使う代わりに自分の魔力を使わないモノだったので流石にこれを失敗する人はいなかった。これを失敗されたら、魔法薬を作る以前の問題になってきてしまうので少しほっとする。
次に作って貰うのは、魔力水を使わずに薬草を粉砕する際に魔力を纏わせて貰う方法だ。
サンプルとして、魔力を含ませてあるモノを少量づつ見やすい場所に置いておく。
いつでも質問を受けられる様に参加者の間を回りつつ、この作業を見ていて気付いた事は、魔力の扱いの拙さ。
年を重ねている程、魔力の扱いが苦手な傾向にあるみたい。
逆に、年が若くなって行くと扱いが悪くなくなって行くのは…魔法学園での教え方の問題……かな。
教師自体も、試行錯誤しているという話を考えてみればそれも当然かもしれない。
現時点で、一番上手に魔力を扱ってるのはジョエルさんだ。
「『魔力視』を使って、自分の魔力の流れを見ながらやってみて下さい。」
助言代わりにそう言ってみると、彼等の魔力の扱いがぐんと良くなった。
やっぱり、『魔力視』が使えるかどうかは大きいみたいだと、先に教えておいた自分をほめてやりたい気持ちになる。しないけど。
とは言え、『魔力視』をしながら作業をした事によって悲しい思いをする人もいる。
「……何故、私の魔力は薬草に染み込まないのでしょうか……。」
悲しげに眉を寄せて呟いたのは一人ではなかった。
「失礼ですが、属性の判定をなさった事は……?」
「……水です。」
「俺もだ。」
「私も。」
「……!」
「だが、あの子は一人で全部作って見せただろう?」
「彼女は、『水』と『地』の2属性ですから。」
「そんな……2属性持ちなんてありえないだろう!?」
アッシェが、全ての作り方を一人で実演して見せた事から何かの間違えなんじゃないかと訴えた人もいたモノの、7人の人が『水』の属性だった事によって、『地』属性の薬草に魔力を含ませる事が出来ない事が判明した。
一応その場合に備えて、作り方を3通り考えておいたんだけど、彼等の落ち込みっぷりを見てそれだけでは足りないのかもしれないと思い直す。
何か良い対策を考えないと……。
「それでしたら、最後の方法で作る事はできますね。」
「……だが、薬草に魔力を込められなくては『高速治療薬』は作れないんだろう……?」
「それは……そうですね……。」
気持ちを浮上させようと口にした言葉には、すぐに否定の言葉が返って来てしまう。
返す言葉が思いつかずに唇を噛んでいると、アッシェが不思議そうに首を傾げた。
「『2属性がありえない』なんて発言が出るって事は、残りの人達は『地』属性だけなのではないのです??」
『水』属性でなかったメンバーのウチの6人が、ギョッとした顔でアッシェを一斉に見た。
「その人達も、『高速治療薬』を作れないって事に変わりは無いのです。」
「だったら、2人1組になって一緒に作ればいい。」
当然の事を何故思いつかないのかと言いたげなアッシェの言葉を、何故か偉そうに胸を張ったコンカッセが引き取った。




