111日目 調合見学 上
アッシェ:調薬担当。特徴のあるしゃべり方をする三つ目族の少女。煽り癖あり?
コンカッセ:魔法具担当。いつもねむそう。
アスラーダ:工房の監督役兼護衛のお兄さん。かわいいです。
2017/1/4 誤字の修正を行いました。
工房は、お姉さま方が戻って来てからの調合見学の為に整えてくれていたので、アレコレ機材を引っ張り出してくる必要はなかった。
いつもは広く感じる工房なんだけど、20人も人が入ると流石になんだか狭く感じる。
何かあった時の為の護衛役としてアスラーダさんだけを残して、スルトとポッシェには2階でくつろいでもらう事にした。コンカッセは調合はできないモノの、次にこう言った事があった時の為のお勉強でここに残って貰う。
2人減っても、混雑具合の解消は微妙だけど少しはましだろう。
今回、調合見学の為に調合するのは、『高速治療薬』と『家庭用デラックス』の二つ。
『家庭用デラックス』の方は3通り作り方があるので、調薬を行って見せるのは4回になる。
少量の調合だとすぐに終ってしまって、魔力を含ませる工程をきちんと追う事が出来ない可能性があるから作る量は一樽分の10Lだ。
すでに10L分の材料は量り終わっているモノが陶器の容器に入れてあるのでそれを使う事になっている。これは、毎日翌日の作業を効率化する為に用意してあるもので、情報を秘密にする為だけに行ってる訳じゃない。
まぁ、調合の詳細を秘密にしないといけないという部分もあるんだけどね。
「では、『家庭用デラックス』を作りはじめるですー」
アッシェがすり鉢にそれを入れ始めたところで、王都から来た人達の代表―…面倒だから『王都代表』にしよう…―が騒ぎ出した。
「そんな状態じゃ、何がどれ位入っているのか分からないだろうが!?」
「材料が分らなけりゃ、俺達が作る事が出来ないだろう…!」
「やはり、自分達だけで儲けようという腹か。」
アッシェはキョトンとした顔をしてから、何事も起きていないという顔をして説明を始めた。
ここでレシピごと作り方を盗んで行く心算だった、とここまで堂々と胸を張って言われてしまうと、いっそすがすがしい様な気がしてくる。
でも、やろうと思っている事は殆ど犯罪なんだけど…。
レシピは自分で書き留めてしまえば、誰が考えたかなんて分からなくなるモノだからか、結構そういう考え方が主流なんだよね。
「今から造るのは『家庭用デラックス』ですー。」
「それはもう聞いた!」
「しはんの発案によってグラムナードで開発したもので、同じ配合の物でも魔力の含ませ方・量によって『家庭用デラックス』と『治療薬』の2種類を作る事が出来るです。」
「その配合を何故見せない!?」
「まずはー、材料を砕いて行くですよ。この辺りは他の調合と変わらないと思うです。」
「おい!聞いてるのか!!!」
王都代表はとうとう手を出した。
アッシェにではなく、すり鉢を台の上から払い落とす方法で。
ああ、今回アッシェがやったのは、『無視して煽る』ってヤツだったのか。
と、王都代表がすり鉢をひっくり返すのを見ながらひどく冷静に分析していた。
実際には単に、突発的な行動に驚きすぎていて思考が止まってただけだったんだけどね。
そのせいか、ひっくり返っていくすり鉢と飛び出して行く薬草が、ひどくゆっくり動いているように見えた。騒ぐ王都組を無視して、熱心にアッシェの手元を見ていた人達の驚きを浮かべた顔が、次の瞬間驚愕の表情にとってかわった。
「随分と自分達に都合の良い様に勘違したようだが、『調合』を見せるだけで『調合内容』を公開するとはどこにも書いてはいないな。」
その言葉と共に、ひっくり返ろうとしていたすり鉢とその中身が、ふんわりと浮かび上がって元の位置に戻って行く。
どうやら彼が、『風』の魔法で中身とすり鉢をそれぞれ持ちあげたらしい。
アスラーダさんらしい細やかなお仕事だ。
「だ、だが『入手手段を教える』と…!」
「大人しく見学していればじきに説明される。だが、見学も黙ってできないヤツに知る資格は無い。」
王都代表達は言葉を失った。




