111日目 採集ツアー 上
アッシェ:調薬担当。三つ目の多眼族。ぶりっ子気味かなぁ…。
コンカッセ:マイペースな魔法具・雑貨担当。私よりは大きいけど、小さめな子。
アスラーダ:次期グラムナード領主。工房のお目付け役。
2017/6/11 加筆・修正を行いました。
翌日の朝は早めに起きて、ツアーの引率準備をした上で工房に向かった。
ツアーは11時だから、朝のお客様の波が収まるまで工房組はお店で接客だ。
探索者組は護衛として付いて来て貰う為に、ルナちゃん達の家で暫く待機して貰う事になる。
お客さんが増え始めた頃からアルバイトで来て貰っている、ディーナ・エイダ・フィフィの3人にも事情を説明した。
彼女達は午後から、護衛兼相談役として残ってくれるルナちゃんと一緒に私達が帰ってくるまでの留守を任せる事になる。
「リエラも大変ねぇ……。」
「ルナちゃんも連れて行っても大丈夫よ。最近のイチャモン付けてくる人達のお仲間ならなんとでもなるから。」
「店長もお人好しすぎだわね。」
事情を聞いた彼女等は、口から出た言葉こそそれぞれ違ったけれど、「居ない間のお店の事は任せておいて!」と、胸を張ってくれた。
迷宮の事が表沙汰になる直前に引っ越してきた彼女等は、私より最大10歳年上ではあるものの同じ孤児院で育った、いわば『お姉さん』だ。
一番年上のディーナを私は覚えていなかったんだけど、彼女の方は覚えてて「むずかりやのリエラがこんなに立派に……。」なんて言いながら涙ぐまれてしまった。
この時、初めて記憶にない人に過去の自分を語られる恥ずかしさを知った。
その感覚ときたら、こう……どういい表わせばいいのか分からない位に恥ずかしかったんだけど、不思議と不快ではなかったんだよね。
あ、話が逸れてたけど、彼女達が居てくれるからツアーが決行される事になっても何の問題もないって事を言いたかったんだった。
いつも通りの忙しい朝の営業時間がひと段落した頃、ツアーのお客様が到着し出した。
「えー、左手に見えて参りましたのが、アトモス村名物の迷宮『騎獣の平原』になりますですー」
と言いつつ、手旗を手に先頭を歩くのは、いつもよりもちょっと大人っぽい詰襟の上着と太ももの付け根近くまでのスリットの入ったタイトなスカートを見に着けたアッシェだ。
この間の、『教師風』と言い、今回と言い……一体いつこんな服を用意したのかと小一時間ほど問いただしたい。
いや、問題はいつ用意したのかじゃなくて、『どういうつもり』で用意したかについて。
「本当に、護衛がこんなひょろひょろしたガキみたいなのばっかりで大丈夫なのか?」
そう、喧嘩腰な口調で言ったのは団体で王都から来た人達の代表っぽい人だ。
ツアーの参加者14人に対して、護衛に見えるのはアスラーダさん・スルト・ポッシェの3人だから無理もないかもしれないと思って返事をしようとしたところで、アッシェが先に応えを返した。
「お客さんが、勝手にフラフラしなければ何の問題もないです~♪」
「客が何をやっても何とかするのが金を取った責任だろうが?!」
「え、お客様は神様じゃないですよ?」
「安全のための指示にきちんと従える人が神様。」
おおう………。
喧嘩腰の人に喧嘩売ってどうするの…。
アッシェとコンカッセの言動に、思わず頭を抱える。
心配したアスラーダさんの手が伸びて来るのを見て、『いやいや、頭を抱えてる場合じゃない』と気持ちを切り替えた。
彼の手を一瞬だけ握って、安心させると二人と喧嘩し始めたおじさんの間に入る。
「3人とも落ち付いて下さい。」
「なんだと!?こんな馬鹿にした態度、落ち付いてられるか!!!」
「馬鹿にしてるのはそっちも同じ。」
「コンカッセ。赤字ツアーであろうと、お金を頂いてる以上、私達には説明義務あるんだから黙りなさい。」
少しキツメに言うと、コンカッセは黙り込んだモノの納得した訳じゃないとその目が語っていた。
最初から、相手はこちらに悪印象があるんだから難癖を見付けて来るだろうと先に注意していたのにこれだと先が思いやられる。
アッシェが手に持っていた手旗に手を伸ばすと、残念そうに彼女はそれを手放した。
「不肖の弟子達が失礼いたしました。」
そう言って深く頭を下げると、悪態を吐いていたおじさんも言いかけた言葉を呑み込む。
このツアーの代金は1万ミルだ。
ここまでの旅費に加えて、1泊延長する事になるこのツアーに参加する事に決めた時点で、どんなに難癖をつけてきたとしても、何らかの実入りがないウチはツアーそのものをぶち壊しにするつもりはないだろうとアタリをつけてたんだけど、幸い予想は当たったらしい。
割とあっさりとこちらの謝罪は受け入れられた。
「それでは、迷宮に入る前に護衛6名の紹介をさせて頂きます。」
「は?」
「6人って、お嬢ちゃん達も込みでか?」
私の言葉に動揺が走るものの、想定済みなのでそのまま声が少し静まったところで言葉を続ける。
「まずは私、当工房師範のリエラと申します。攻撃こそは不得手ではありますが、防御魔法は得意としておりますので、皆様を害獣による被害からお守りする事と道中のご質問に答えさせて頂きます。
防御魔法については、迷宮に入りましたらデモンストレーションをご覧にいれますね。」
驚きの声が上がって、普通に喋れる様になるまで待つのには時間が掛かりそうだったので、手っ取り早く静かにして貰う為に皆さんの首筋に冷たい水を1滴プレゼントさせて貰うと、静かになった瞬間を見計らってさっさと紹介を進めた。
紹介が終ると、集団で来たおじさん達はアスラーダさんの側で団子になった。
同じ学校出身だというのに、親近感を感じたのか、一番腕が立ちそうに見えたのか?
バラバラに訪れた4人は、さりげなくポッシェ以外の側にばらけた。
ポッシェの、のほほんとした喋り方に護衛としては不安を感じたのかも。
それはそうと一人だけ若めな人が、水滴が落ちた時に私の方を鋭く見たから、その人は『魔力視』が出来るらしい。
確か、彼は王都近郊の町の錬金術師だと言ってたかな?
来た人達の中で、一番熱心に情報を引き出そうと頑張った人だ。
魔力視が出来るって事は、店内の商品を見て行動方針を変えたのかもしれない。
それにしても、14人も居てまさか一人しか『魔力視』が出来ないとは思わなかった…。
見通しの甘さをひしひしと感じながら全員を『騎獣の平原』の入口へと導く。
中に入って、護衛能力に問題がないのを納得させたら、全員に『魔力視』のコツをサラッとでもいいから解説しよう。一応、魔法学院は卒業してる人達なはずだから素養はあるはずだし、習得はしやすいんじゃないか……と思う。
そうでないと、お土産が無駄になってしまう……。




