13日目 箱庭訪問 2
アッシェ:調薬担当。ちょっと変わった多眼族の女の子。
コンカッセ:魔法具担当。いつも眠そうなマイペースさんの女の子。
ラヴィーナ:王太后。アスラーダさんの叔母さん。ソウルフードはきゅうり。
2017/6/11 誤字の修正を行いました。
コンカッセとラヴィーナさんの二人を探しつつ、奥に向かって進んで行く。
さっきまでいた水牛エリアはヒョウタンの小さい方の膨らみになるから、今向かっているのは大きいエリアになる。
両脇にそびえる岩山が少しづつ遠くなって、視界が開けて行く。
ちょこちょこと、アッシェと水牛にちょっかいを出してくる大イタチは、彼女の『土槍』で貫かれてすぐに動かなくなっていく。思いの外襲撃が多いので、私はアッシェに目隠しをされてしまった。
「アッシェ、これじゃ前が見えない……。」
「せんぱいが、貧血起こすよりは良いと思うです。」
そう言いながらも彼女は後で有効活用する為に、返り討ちにしたイタチを回収しておくのも忘れない。
貧血は……まぁ、起こすかもしれない…。
自分で攻撃しなければ概ね平気なんだけど、絶対にと言えないからアッシェの判断に任せる事にしよう。
それにしても、先行したラヴィーナさんがある程度狩りながら進んだ風なのに、それでも数が多い様に感じる。
減り過ぎたら即座に最低数補充される様にしたからそう感じるのかな?
「アッシェ、難度的にはどう思う?」
「んー。イタチさんは大きいから、狙いやすいですし、アッシェやコンカッセはらくしょーです。」
「……一般的にはどうだろう?」
「剣とかの場合なら、魔物よりは弱いけど普通の動物さんよりは強いと思うです。」
アッシェとコンカッセは、魔力が一般的に考えるなら随分と多いし、魔法の扱いも上手いから彼女等の『楽勝』はあんまりアテにならない。
だからその基準で考えてもダメだからと、聞き直してみたんだけど……。
そんなに悪くない手応えってことでいいのかな?
「ああ、イタチさんは単体だから良いですけど、オオカミさんは怪しいかもです。」
「怪しいって?」
「んー……。ウチの探索者組3人で、少し手こずるかと。」
「それは、結構手ごわいって事だよね……。」
初めて出てきたオオカミを倒しながら分析を続けるアッシェ。
え?
目隠ししてるのにオオカミだって何で判るのかって?
悲鳴がイタチと違うから、それ位なら目隠ししてても判るんだよ。
「今、5頭で群れを作る様にしてるから、3頭に減らしてみようか?」
「それ位なら事故は減るかもです。」
修正項目を頭の中で整理しながら進むうちに、なんだか血の匂いがやたらと鼻につくようになってきた。「うわぁ……。」と、後ろに座ったアッシェが何とも言い難い声を出すものだから気になって、目隠しを取ろうとしたらその手ごと目の辺りを押さえられる。
「アッシェ??」
「ちょっとこれは、刺激が強すぎですー。せんぱいは、目隠し取っちゃダメですよー。」
「一体どんな状況!?」
「ないぞーどぱどぱ。血の大海ってかんじですー。」
アッシェの言う光景を想像して血の気が引いたところで、オオカミの悲しげな悲鳴が聞こえた。
「……目隠し取りません……。」
「じゃあ、アッシェは二人をお迎えにいってくるですよ。」
「はい。大人しくしてます……。」
どっちが年上か分かったもんじゃないなと、情けなく思いながら、リエラは水牛さんの上でアッシェが二人を連れて戻ってくるのを大人しく待つ事にした。
箱庭からお店に戻ると、早速改善点についての会議を始める。
「では、修正ポイントの提案お願いしまーす!」
「色の幅を減らしてほしい。」
コンカッセから、即座に要望が挙げられた。
「理由も聞いていいかな?」
「色数あり過ぎて、同じの入手難しい。」
「何か作る時に困っちゃうですねー」
「ああー…あり過ぎるのも問題かぁ……。」
あれやこれやと変更点を話しあった結果、最初に作ったものからあちこちに修正を入れる事になった。
結局、どうやっても箱庭内で維持する事ができそうになかったから、いつもの様にイケニエ用の俊足ウサギを導入させてもらった。
最近知った事なんだけど、ある程度成長した箱庭の中で生き物を繁殖させる場合、その動物が普通に産む数を大幅に超える事が出来る様になるらしい。
維持管理するのには便利だし、使える機能は遠慮なく使う事にするけど…。
でも、15組のツガイから40羽づつ産まれるのってまるで魚みたいだよねぇ…。
魚なら、もっと多いか。
後は設置場所を決めて、いつ解放するかって事だけど…。
その辺りはアスラーダさん達が戻って来てから決める事にした。
「お話合いが終ったという事で、お楽しみのお夕飯の支度です~♪」
「きゅうり?」
「きゅうりはあとですー♪」
話し合いが終ると同時に、アッシェが喜色を満面に浮かべて立ち上がるとラヴィーナさんも笑顔を浮かべて、この数日でお馴染になってきたセリフを口にした。
アッシェはそれを軽く流すと、私とコンカッセに素材様のレシピを渡してきた。
私が作るのはチーズで、コンカッセはバターだ。
アッシェは既に、材料を取りに食糧庫に降りて行ってしまったのでさっさと仕事に取り掛かる事にした。
今日絞ったばかりの牛乳を取り出すと、バケツだと思ってたものは全部大きなお鍋だった…。
取り敢えずお鍋2つ分取り出してからバターを作る為に、瓶を用意して待機しているコンカッセ用に、搾りたての生乳からクリームを分離した物を用意してやると、彼女はせっせとそれを2本の瓶に詰めると両手に持って振りだした。
この作業、多分『抽出』を使えば必要ないんだけど、時間をもてあましそうな彼女の為に害のないものを作らせておこうというアッシェの作戦なんだと思う。
コンカッセは、盛り付けは素晴らしいんだけど、料理を作らせると何故か同じ材料でも謎の物体が出来上がってしまうのだ。
なんだか楽しそうに、瓶をマラカス型に変形させて振り始めた彼女を視界の端に収めながら、チーズの用意を始める。
造るのはモッツアレラチーズ。
こっちは、さっさと魔法で発酵させながら造ってしまう。
1~2時間掛る発酵を1分で終わらせると、凝固材を入れてぐるぐる混ぜてから『分離』させる。
『分離』して出来た液体は別のチーズの材料にする為に他のお鍋に移動していきながら『加熱』で適正温度を保っておく。ここで、また追加で『発酵』を使って1~2時間の行程を1分で終わらせてしまう。
『発酵』ありがとう。貴方が使えなければ1日がかりのお仕事です。
いい感じに発酵してきたら、熱湯直前のお湯の中にどぼーんと突っ込んで、ぼーっとアッシェが下ごしらえをするのを眺めているラヴィーナさんを呼んで一緒に木ベラでグイグイと練り込んでいった。
後は、滑らかになってきたところで形を整えて塩水に漬けこめば終了!
塩水に馴染むのに少し時間が掛かるから、使う直前に塩分を『混入』してあげればいいはず。
結構な量を作ったけど、残った分は『しまう君』に入れておけばいいから、使いきる事を考えなくていいのは凄く気楽だ。
「チーズってこうやって作るのねぇ。」
「結構力仕事ですよね。お手伝いありがとうございます。」
「ご飯なんて作った事がないから、凄く面白いわ。」
ラヴィーナさんはそう言って、微笑む。
ああ、この人は物凄い箱入りのお嬢様だったんだ。
今更の様だけど、この時心底そう思った。
普通のお嬢様は魔獣狩りなんかしないと思うんだけど、あのグラムナード育ちだからその辺は『普通』じゃないのかもしれない。
そういえば、前に『迷宮に入る義務』があるとかなんとかと、アスラーダさんが言ってた気がするから、彼女の魔獣狩りはそこの延長なのかもしれない。
その日の夕飯は、乳製品をふんだんに使った温かメニューだ。
サラダはチーズとトマトとキュウリにコショウを効かせたドレッシング。
カプレーゼに無理矢理キュウリを入れこんできたイメージだ。
まぁ、キュウリが入っても美味しいんだけど、ラヴィーナさんはキュウリの追加が欲しそうだった。
どんだけ好きなのかと、ついついあんまりキュウリが好きじゃない私は呆れてしまうけど、まぁ……その辺は人それぞれだしなぁ……。
茄子のカップグラタンは、茄子を器にしたグラタンで、刳り抜いた身と一緒にウサギのミンチを炒めてトマトソースで味付けをしたモノにモッツァレラチーズを乗せて焼かれている。
たっぷりソースを封じこんだ茄子の甘みが堪らない…。
主食はシーフードスープパスタ。
アエトゥス村で買ってあったエビ・イカ・貝類をふんだんに使ったアツアツのクリームスープに女の子の大好きなパスタを投入♪
魚介の旨みの溶け込んだスープが美味しすぎて、気が付いたら最後の1滴まで飲み尽くしてた。
お鍋に残ったスープは、明日の朝のお楽しみにしましょうと言われて、アッシェ以外の3人で泣いた。
締めのデザートは、少しあっさり目(?)にリコッタチーズとバイバイナッツの水煮でお終い。
スープパスタで重くなった舌をスッキリさせてくれる穏やかな甘みに、スープの追加を叫んでいたコンカッセも静かになった。
食事も終ると迷宮に行った疲れがどっと襲ってきて、私はとっととお風呂に入ると、おしゃべりに興じる皆に手を振ってすぐに部屋に戻ってしまった。
……水牛を配置したのは、正解だった……。
寝る前に思ったのは、食べ物の事だった……。
箱庭の変更点
毛色の種類変更
465色→50色
動物配置数の変更
イタチ10匹→20匹
オオカミ10頭→20頭
動物の繁殖数の変更
ウサギ・走り鳥・水牛100頭→繁殖なし
イタチ200匹→80匹
オオカミ300頭→80頭
群れの設定
オオカミ5頭→3頭前後
水牛10頭→5頭
他 単体行動
魔物の追加
俊足ウサギ30羽 繁殖数600羽
後日追加予定
ランダムな岩壁に堆肥石を埋め込む。




