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11日目 おつかれさまです

アスラーダ:頼れるお兄さん。意外と人が良い。

炎麗:アスラーダさんの連れてる子竜。

ラヴィーナ:王太后サマ。アスラーダさんの叔母さん。


2016/12/15 文章を2行追加しました。

「済まない。」


 私の顔を見るなり、アスラーダさんはいきなり頭を下げた。

場所はアスラーダさんの部屋の入り口で、時間は夜10時。

外はもう真っ暗。

こんな時間だから、私はともかく彼は寝間着姿になってる。

いくらアスラーダさん相手でも、流石に寝間着姿で部屋を訪ねる訳には行かないから、私はきちんとした服を着て来てる。

こんな時間に彼のところを訪ねる事になったのは、早めに聞いておきたい事があるせいだ。

普段だったら、明日に回すんだけど今回ばっかりは仕方がない…というのは建前。

やたらと疲れ切ってる、彼の様子が気になって仕方なかったと言うのが本音。

本当は、早い時間からゆっくり寝かせてあげる方がいいんだろうけど、なんとなく起きてる気がしてた。


「えっと、取り敢えず事情的なものを教えてほしいんですが…。」

「分かった。…下に行くか?」

「廊下じゃなんですし、中に入らせてもらってもいいですか?」

「…ああ。」


 一瞬躊躇ったものの、すぐに中に入れてくれた。


「叔母上の事…だな。」

「後は、なんでそんなに疲弊してるのかって事ですね。」


 部屋にはまだ、家具らしいものはあまり置いていないから、彼と並んでベッドに腰掛ける。

彼は、深々とため息を吐く。その目はなんだかちょっと虚ろだ。

リエラは不安で胸がギュッとなった気がした。

互いの呼吸音しか聞こえない程の静寂がしばらく続いたところで、やっと彼が重い口を開いた。


「きゅうり…」

「?」

「きゅうりが無くなったから、取りに来てたんだ。」


 アスラーダさんはそう言うと、頭を抱えて俯いた。

きゅうりというと、アレだ。

この間お会いした時に、30本位強奪していったヤツ。

思わぬ代物の名前に、脱力していくのを感じた。


「もう、全部食べちゃったんですか?」

「翌々日には食べつくして、そこから毎日取りに訪ねて来ていたらしい。」

「どんだけ…」


 ラヴィーナさん、どんだけキュウリ好きなんですか…。

自分の声がなんだか遠くに聞こえた。

そして、疲れ切って肩を落とす彼の様子に思わず同情して、背中をポンポンしてしまった。

彼女に振り回されてるのか…。


「で、ここまではるばる、きゅうりを求めて遠征して来たんですか…。」

「ああ…。多分…。」


 その、無駄な行動力に呆れつつも感心してしまった。

その情熱、是非どこか別の場所に向けて下さい。

 正直なところまだ、やり始めようとしてるところだからばれないとは思うものの、ちょっと彼女の依頼とは違う事をやろうとしてるから、出来れば見つかりたくなかったんだけど…。

既に来ちゃったものは仕方がない。

開き直って、予定通りに進める事にしよう。

うん。予定通りで。


「来ちゃったものは仕方ないですね。」

「そう言って貰えると助かる…。」


 力なく答える彼に違和感を感じる。

目を微かに逸らして右耳を揺らすのは、どうしても言いたくない程ではない事をまだ隠してる証拠だ。


あれ…。ラヴィーナさん以外にも何かあるの??


 そう思いつつも、アスタールさんと同じ癖を彼も持っていると言う事がなんだかおかしかった。

黙ってしばらく待っていると、彼が重い口を開いた。


「…いかと思った…。」

「え…?」

「もどって、来れないかと思った…。」


 意外な言葉に目を瞠る。


「どういう事ですか…?」


 背中をさすりながら先を促すと、ポツリポツリと王都に戻った後の事を話してくれた。

王都について、貸し馬を返したところまでは良かったらしい。

貸して貰っていた離れに、ルナちゃん達を迎えに行ったところでラヴィーナさんが「きゅうり~!」といいながら飛びかかってきたところで、何かがおかしくなった気がするそうだ。

翌日になったら、拠点にする場所に連れていくからと宥めすかして今日、馬車乗り場に差し掛かったところで知り合いの竜人に捕まって、強引に背中に載せられてここまで連れて来られた…。

要約するとそんな話だった。


「で、ついたのがこの村だった…と。」

「ああ…。」

「それは…、なんというか…お疲れ様でした…。」

「…疲れた……」


 がっくりと肩を落として、彼は呟いた。

気のせいか、なんだか煤けて見える。


「…その竜人さん達ってもしかして炎麗ちゃんの…?」

「両親だ。」

「…世の中って狭いですねぇ…」

「ああ…。」

「後、まだあるんだ。」

「おおう…。」


 なんというか、言葉もない。


「大森林に、少し手強いのが産まれてる。」

「え…。」

「この間の魔獣の襲撃のちょっと前だと思うんだが、炎麗に偵察させたから間違いない。」

「大変!そのままにしておくのはまずいですよね。」

「ああ。ルナ達を急いで迎えに行ったのはそれの討伐に行く為という側面もあったんだ。」

「…なんで教えておいてくれなかったんですか……。」


 急いで出かけて行った理由に納得すると、今度はそれに説明がなかった事に対して腹が立って、意に反して恨みがましい声が漏れた。


「怖がらせたくなかった。」

「怖がりませんよ。保険は掛けますけど。」

「そういや、そうだな。」


 はは、と彼は力なく笑った。

うう。疲れてるんだから、早く寝かせてあげないといけないのに…。


「取り敢えず、明日から2~3日は全員で森に行ってくる。」

「分かりました。ラヴィーナさんの方は何とかしておきます。」


 せめて、心労の一つを引き受けようと、そう申し出ると驚いた顔をされた。


「大丈夫なのか?あの人はこっちについてくる気満々だが…。」

「勢いときゅうりで誤魔化しますよ。任せておいて下さい。」


 そう言って笑うと、疲れた顔にホッとした色が広がった。


「それじゃあアスラーダさんもお疲れですし…。明日からの討伐の為にもそろそろ寝て下さい。

こんな時間に訪ねて来てしまって済みませんでした。」

「いや、構わない。」


 とはいえ、そろそろ潮時だろう。

こんな時間に訪ねておいてなんだけど、彼もひどく疲れている事だし。

そこで退室を仄めかしつつ立ち上がると、手を掴まれた。

驚いて彼をみると、本人も驚いた顔をしてる。本人も無意識に手が出たらしい。

リエラは、そんな行動をする子がいたのを思い出した。

口元がちょっと緩んだのを感じながら、彼をベッドに寝かしつける。


「…アスラーダさんが寝るまで、いない間にあった話をしててもいいですか?」

「ああ…。頼む。」


 その晩は、アスラーダさんの部屋で少しだけ夜更かしをした。

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