5日目 リュース村
アッシェ:新工房の調薬担当(予定)。ちょっと変わった多眼族の女の子。
コンカッセ:新工房の魔法具担当(予定)。いつも眠そうなマイペースさんの丸耳族の女の子。
アスラーダ:王都以外に拠点を構える事になってなんだか嬉しそう。
翌日は朝早くに起きて食事を摂ると、さっさとアエトゥス村を出発した。
次の目的地はリュース村。
昨日渡った川を北に向かった場所にあるらしいから、一旦川辺まで戻らないといけないので昨日よりも移動に時間がかかる。
王都への道を戻って行くと現れる分岐路を北へと向かって、駅馬車だと半日ちょっとぐらいのところにあるらしい。
「そう言えば、王都の西の方にはなんで村が3つしかないんですか?」
ふと、気になってアスラーダさんに訊ねた。
何度か不思議に思ってたんだけど、聞きそこなってたんだよね。
「アッシェも知りたいですー」
その質問に答えてくれたのは、意外な事にコンカッセだった。
「それは、ディナト大森林から魔物が流れてくるせい。」
「フレトゥムールの南にあるアレです?」
「そう。フレトゥムールの南にある村にもたまに流れてくる事がある。」
「知らなかったですー。」
同じ町出身のアッシェがその答えに驚きつつも関心する。
「私の父親が、その流れの魔物討伐に行って死んだらしい。」
「そっか…。」
「成程です…。」
続くその言葉に、コンカッセだけがそれを知った理由を理解した。
コンカッセのお父さんは探索者だったって話だったっけ。
「開拓は禁止されていないから、開拓を成功させれば貴族になれるな。」
「ええ…」
「貴族、めんどくさい。」
「興味ないですー。」
アスラーダさんは自分の言葉に対する反応に、可笑しそうに笑った。
「まぁ、実際に他の町の領主の息子が挑戦して失敗した跡地が何箇所かあったはずだからな。
挑戦はお勧めできないな。」
「アエトゥス村は柵もなかったですけど、魔物が来たら大惨事になりませんか?」
「あそこは森からは結構遠いからな。魔物は流れて来にくいのかもしれない。」
「盗賊とか出ないです?」
「ああ言うのは、ある程度人間の往来が多い所にでるもんだ。」
「小さい村を襲っても実入りが少ない?」
「そう言う事だろうな。」
「それにしても、お薦めできない案件を焚き付けないでほしい。」
「そんちょーさんとか、りょーしゅさんとか面倒そうですー。」
「俺もなりたくはないんだがな…。」
アスラーダさんが苦笑交じりに呟いた声は、私にしか聞こえない位小さなものだった。
休憩を挟みつつ移動する事8時間近く。
夕方になる少し前に目的のリュース村に辿り着いた。
リュース村は、街道を挟む様にして縦長に広がった村だった。
街道の左側の民家の裏には大きな農地が広がってて、右側の民家の裏には小規模な森の向こうに川が流れているのが見える。
そこに生えていた木をメインに作られたであろう建物は、何と言うか、こう…。
「こう…言っちゃナンだけど、アエトゥス村と比べちゃうとぼろいですー。」
「同意。」
あ、言っちゃった。
「そして、小さい。」
「ああ、規模は確かに小さいね。」
町を目指しているアエトゥス村と比べちゃいけないんだろうなーと思いながら、やっぱり比べちゃうんだけど、家屋の数は半分以下なんじゃないかなって感じだ。
ポクポクと馬を歩かせながら宿を探す。
村の半ばを過ぎたあたりでやっと1軒だけ見つかったので、そこで休む事に決めた。
他にもあるかもしれないけど、ここより大きい建物が1軒しかなかったんだよね。
そっちは作りも他より立派だったから、村長さんの家なんじゃないかと思う。
昨日と同じ様に、アスラーダさんが先に入って行くと、すぐに馬を預かりに中から人が出てきた。
3頭の馬を預けてしまうと、私達も宿に入った。
1階はここも食堂を兼ねているらしい。
仕込みをしている美味しそうな匂いが入口の近くまで漂ってきて、まだご飯の時間には早いというのにお腹が小さく鳴った。
「美味しそうな匂いですー」
「夕飯が楽しみ。」
うんうんと頷く二人に苦笑いで返しつつ、案内された部屋に荷物を置いてから村の中を見に出かけた。
夕暮れ時の前ではあるものの、早い家ではもう夕飯の支度が始まっているみたいで煮炊きの匂いが道にまで漂ってきている。
たまに外に出ている人に声を掛けて聞いてみると、王都のこちら側にはたまに探索者が来る事はあっても、それ以外の人はあまり来ないものらしく、「あんたらも、ものずきだねー」と笑われた。
村の人達はとても親しげに温かく迎えてくれて、ここなら悪くないかな?と思う。
この村にある家屋の数は全部で73軒。
何箇所かは空き家になっていたんだけど、それは全部民家だったからここでお店をやるなら新しく建てるか、民家を改造する必要がありそうだ。
宿に戻る頃にはもう夕飯の支度が出来ていた。
少し早いけど、食事にさせて貰う事にして席に着く。
「お客さん達は、この辺に何かご用事でもあるの?」
夕飯を運んできてくれた宿の女性が、お皿を置きながらそう訊ねてきた。
パッと見だと、ルナちゃんくらいの年頃ではきはきした物言いの人だ。
「雑貨屋を開きたくって、良さそうな場所を探してるんですよ。」
「あらら。じゃあ、この村だと難しいでしょう。」
私がそう答えると、彼女は苦笑しながら手をパタパタと動かした。
「まだ候補地を見て歩く予定なんで、なんとも…。もしお時間とかよろしければ、この村の事色々教えて頂けませんか?」
「そうねぇ。今日は他にお客さんも居ないし…。私の知ってる事で良ければいくらでも話すわよ。」
そう言いながら隣に座ると、『さあ、何でも聞いて』と言わんばかりのおおらかな笑みを浮かべた。




