847日目 大量注文
リリン:異世界出身のこの世界の管理者の1人。
ラヴィーナ:王太后。アスラーダさんの母親代わりな女性。
セリス:リエラの敬愛する女性。
アッシェ/コンカッセ:リエラと一緒に支店を作る為に旅に出てくれた女の子達。
アスタール:リエラの師匠でリリンさんの恋人。輝影の支配者と言う、この世界の管理人の1人だった。
リリンさんの死亡事故があってから、2週間が経った今日、とうとう旅立っていった。
とりあえず、こちらとしても最大限協力したつもりなので、なんとか半年以内にきちんと転生先に返って貰える事を祈りたい。
実は彼女が管理者として手に入れた神力というののお陰で、こちらはこちらで慌ただしい。
リリンさんは、ラヴィーナさんがずっと警戒していた、ディナト大森林に関しての予言を残して出発して行ったのだ。
丁度、2週間後に魔物の氾濫がディナト大森林の南北両方で、再び起こるらしい。
「リエラちゃん?」
「ああ……。済みません、セリスさん。」
何度か呼んでいたらしいセリスさんに謝りつつ、彼女に注意を向けると、少し困った様な頬笑みが返ってきた。
「本当に、納品予定日の8日前まででいいの?」
「はい。フレトゥムールへの荷は、私がエルドランまで運びますから大丈夫です。」
その予言というか、『未来視』と言うのの結果を受けてラヴィーナさんにお話ししたところ、今回、ウチの工房で高速治療薬等の魔法薬の大量生産の注文が入ってしまっているのだ。
ディナト大森林の北には、アッシェやコンカッセの故郷のフレトゥムールがある。
私の故郷のエルドランも、少しその領域に掛かっているから気を抜く訳にはいかないけれど、それでも範囲がタカが知れてるのでなんとかなりそうだ。
あと、フレトゥムールではちょこちょこ流れ出てくる魔物の対策で、大森林の近くに砦があるからそちらで対処する事になるらしい。
本来ならば、地元である程度は確保できるモノらしいのだけれども、これは、今までの作り方で作れなくなった弊害らしい……。
とはいえ、いくら量があったとしても、効き目の怪しい薬を使う事を考えると、きちんとした効果があるものを使えると言うのが安心感に繋がるんじゃないだろうか……と思いたかったりする。
実際のところ、フーガさんが高速治療薬の製法を公開した件に関しては『自分の町で儲ける為に今更になって公開したんじゃないか?』と言っている人もいるらしい。
フーガさんは、そう言う理由で公開した訳じゃないんじゃないかと思うんだけど……。
その件に関しての彼の真意は、イマイチ把握できてないんだよね。
まぁ、なにはともあれそんな訳で今、グラムナードの工房も、アトモスの工房も大忙しな状態だ。
そんな中、アッシェがアスタールさん達について行く事になったのは少し痛いんだけど……。
それでもまだ、今は弟妹弟子の数も増えているので何とか対応が出来そうで、ホッと胸を撫で下ろしているところだったりする。
弟妹弟子を採ったのって、実は私が寂しくない様にってだけの理由だったらしいんだけど、動機はともかくとして結果的には助かっている当たりが素晴らしい。
珍しく、アスタールさんがいい仕事をしたと、胸を張れる事だと思う。
こう言うとナンだけど、あの人、本当に仕事しないからなぁ……。
流石に、長期留守にする事になっている今回は、色々とアレコレ作って行ってはくれたけど。
「それにしても、アスタール様のお世話が無くなると少し寂しいわねぇ……。」
そう言って、おっとりと微笑むセリスさんは確かに少し寂しげだ。
そんな微笑みすらも、美しいんだけど!
「じゃあ、代わりに私のお世話で……」
「あら、何かのご褒美かしら?」
そんな憂い顔も、私のお馬鹿な一言であっという間に霧散した。
「むしろ、お世話して貰えるなら私にとってのご褒美過ぎますけれど!」
「リエラちゃんも、上手ね~!」
ふふふと笑いながら、彼女は満更でもなさそうな笑みを浮かべる。
あああ、もう!
セリスさんは相変わらず女神すぎます!!
私は私で、久方ぶりのセリスさんに中てられっぱなしだ。
なんで、こんなに彼女は私の弱いところをついてくるのか?!
アスラーダさんのライバルは、間違いなくセリスさんだと思います……。
ちなみに、こんな会話をのんびりしながら作業を行えているのは、リリンさんが先週の時点でこの話をしていてくれたからだったりする。
出発直前だったりしたら、絶対間に合わなかったと思う……。
彼女曰く、『私達の介在なく問題ない範囲で乗り越えられる筈だから、これ以上の助言や手助けは出来ないんだけど……。』との事。
それでいて、割と重要な事柄も教えてくれたので、彼女の株が随分と上がった。
なにやら、管理者というのはよっぽどの異常事態でなければこういった事態に立ち入ってはいけないんだそうで、そう言う意味では、私にその話をするかどうかは悩んだんだそうだ。
今回の予言で使った神力は『未来視』。
これは、その時点で『ほぼ確実に』起こる事を見せる神力なんだそうで、私がアッシェに引き合わせる為にアトモスに連れていった事によって見えてきたものだったらしい。
ソレを聞いた感じだと、『未来視』は随分と限定された能力みたいだ。
多分なんだけれども、その『場所』に行った事があって、更に見れる時間の範囲も『本人』が意識してるか、無意識下かはともかく、ある程度区切らないと見えないものなんじゃないかと思える。
ソレを考えると、世の中の占い師と呼ばれる人は、本当に一種の天才なのか、完全な詐欺師の類なのかのどちらかなんだろう。
リリンさんの場合は、『運命の紡ぎ手』だという事を考えると、前者に分類するべきだろうと思うけど。
なにせ、そう言った能力を統べる立場にある訳だから。
何はともあれ、アスタールさんの事を考えれば、リリンさんがそう言った事態に嘘を言うとは考え難い。
信憑性の高いそれに基づいて考えるのはおかしい事じゃないと思う訳だ。
実際にラヴィーナさんも、リリンさんの言葉に基いて行動を起こし始めている。
今、私の周りで、色々な事が急激な変化を見せようとし始めていた……。




