830日目 殴る理由
アスラーダ:今日からやっと、正式にリエラの旦那様!
アスタール:リエラの義弟になったお師匠様。『輝影の支配者』っていう神様らしい。
リリン:異世界在住のアスタールさんの恋人さん。
罪状が決まった後、往生際悪く逃げ出そうとするアスタールさんを捕まえて、キッチリと殴らせて貰った後、隠していた事柄についてきちんと説明をして貰う事にした。
「で、きちんと説明して貰おうか?」
「……。」
私に殴られたお腹を抱えたまま蹲ったアスタールさんからの返事は、ちょっぴり恨みがましい涙目上目遣いの涙目だ。
……そんなに痛かったかな?
私のパンチなんて、タカが知れてると思うけど……。
「夫婦で初めての共同作業が、義弟に折檻と言うのはあんまりなのではないかね?」
「初めての共同作業……?」
「ナンデスカソレ?」
初めて聞くんだけど、アスラーダさんは何かを想像して赤くなる。
何故に頬を赤らめるんですか。
その上で、何気なく膝の上に私を確保するのは止めて下さい。
もう一発殴りたくなった時に動けないじゃないですか。
「そんなのはどうでもいいですから、きちんと説明して下さい。」
「何の話だったか……。」
そう言いながら、床の上に片膝立てて頬杖をつきながら不貞腐れた様子で視線を逸らす。
「『代行者』って、何ですか。」
「……代行者と言うのは、私に何かあった時に代わりに役目を担う者の事で、その為に常人にはない魔力と、代行する神の属性を与えられた人間の事だ。」
「代行する神の属性……」
「輝影の支配者の場合は、『光と闇』が代表的なものだがその他に『知識』や『視覚情報』なども関係してくる。細かい事は面倒だから端折らせて欲しい。」
「……後で知識の図書館に入れといて下さい。」
面倒だからという理由はちょっとアレだけど、今すぐに知らなきゃいけない項目でもないから、後で調べられる様にして貰う事にして、この場では受け入れる事にしておく。
余分な話で時間を取ってる場合でもあんまりないし。
「『宗教』と『猫庭』を解放しておくから勝手に見てくれて構わない。」
「分かりました。で、何でそんなものに私がなってるんですか?」
「それは……つい?」
「『つい』って何だ。」
その言葉に、思考をどこかに飛ばしてたアスラーダさんが戻って来た。
「現場には兄上も居たのだが……。リエラの属性を判定する時に『つい』。」
『つい』って言う言葉と、『神の属性を与えられた人間』と言うのを併せて考えるなら、答えは一つか。
「私に、『光と闇』の属性が足りなかったんですね……。アスタールさんの、錬金術師のスペアが欲しいって言う希望にあたっての必須条件に。」
「うむ。『ああ、惜しい』と思ったら、まぁ、そう言う事になっていた。」
『まぁ、そう言う事に』って言われて、『はいそうですか』と頷く気になれないのは、アスタールさんが未だ視線を合わせようとしないからだ。
「で、代行は『どこいらへん』までで、『期間』や『終了条件』はどんなものですか?」
「代行は『全て』で、代行条件は『執行不可能になった時点から』もしくは『創造主の任意』。
『期間』と『終了条件』は500年程度の寿命を全うするまでか、『代行者』を解除されるまで。
『代行者』を解除した場合、君の場合は『光と闇』の属性を失い、賢者の石の操作能力を失う。」
『全て』って、そもそも輝影の支配者って何する人?って感じなんだけど、さっき説明を端折るのを了承しちゃったから、後で知識の図書館で調べるしかないのか。
『執行不可能になった時点』って言うのは、どんな状態を指すんだろう?
意識不明状態になったり、死んだり?
『創造主の任意』ってのが、ちょっと怖いな。
創造主様の気分次第で押しつけられる可能性があるってことじゃないか。
『期間』と『終了条件』はほぼ一緒って事かな?
500年程度って、魔力が高くても300年位で寿命がくるはずだから、それよりも長いって事か。
かといって『代行者』を解除されると賢者の石を使えなくなるって言うのは、あんまり嬉しくない。
今まで出来ていた事が出来なくなるのは不便なんてもんじゃないし。
でも……アスラーダさんの倍近く長生きするとか、ちょっと、想像するだけで泣けて来る。
「……『執行不可能になった時点』って言うのは、異世界に行くのも含まれますか?」
「異世界に行った場合と、死亡した場合は、『代行者』が次の一柱になる。」
「やっぱり……。」
そんな気はしてたんだけど、やっぱりそれが理由で言わなかったという訳か。
やっぱりもう2発位殴らせて欲しい。
何も知らずに手伝いを続けていたら、『輝影の支配者』なんていう神様にされてしまうところとか、どんな罰ゲームかと聞きたい。
こっちの親切心につけこんで!
「よし。アスタール、後で俺にも殴られろ。」
「手加減なしでお願いします。」
「君達は随分と暴力的ではないかね?」
「俺が理解した範囲だと、お前がやろうとしてたのは祖父がお前にやったのとそっくりそのままおなじだったんじゃないのか?」
涙目で抗議しようとしていたアスタールさんが黙りこむ。
暫く考え込んでいたものの、突然はっとなって姿勢を正すと額を床に擦り付けた。
「後に残される君の事を考えていなかった。私が全面的に悪い。煮るなり焼くなり好きにしてくれて構わない。」
目の前の床に綺麗に土下座しているアスタールさんをため息混じりに見ると、アスラーダさんは『どうする?』と言う様に私に視線を移した。
その視線を受け、一つ大きなため息を吐いてから私は口を開く。
「今まで、リリンさんの世界に行く為に出来る限りのお手伝いをしてきましたが、さすがに私に『神』なんてモノになるつもりはありません。出来る事ならアスラーダさんときちんと添い遂げたいですもん。」
土下座したままのアスタールさんの耳が、へにょんと力なく垂れ下がって行くのを見ながら続ける。
「だから、リリンさんをこっちに引きずり込む方法を考えましょう?」
「!?」
「アスタールさんは、リリンさん以外の人を諦めて貰う事になりますけど、ご本人もそっちの方が現実的だと思っているみたいなので受け入れて貰えるかと思います。」
「リリンが……?」
ポツンと呟きながら、のろのろと頭が上がる。
「答えは……3日後にしましょうか?」
「3日後……。」
「この後は宴もあるんですよね?」
「……そういや、婚姻の儀が終ったところだったな。あんまりな話が続いてて忘れかけてた。」
「そうですよ。私とアスラーダさんは一応、新婚さんなんです。」
ちょっとアスラーダさん、『新婚』に変な反応しない!
「今のお話の整理もしたいですし、イチャイチャもしたいので3日後です。」
「イチャイチャ……そうだな。時間は必要だ。」
「アスラーダさん、ちょっと黙ってましょうか?」
なんだか妙な反応をし始めた彼を黙らせながら、アスタールさんに目を合わせる。
大丈夫そう……かな。
一番譲れなそうな部分を諦めろと言われなかったからか、少し目が暗くなっているモノの、これなら変な事をしたりはしないだろう。
アスタールさんに返事を求めると、なんとか肯定の返事が返ってきたので、宴が始まる時間まで一旦部屋に引き取らせて貰う事にした。
そうはいっても、意外と記憶の交換とやらに時間が掛かっていたのもあって30分位しか時間は無かったんだけど。
「ところで……」
「うん?」
「私にも足があるんで降ろして頂けると……」
何故か、部屋に戻るのにあたって横抱きにされたままなのを、やんわり抗議してみたのに視線を逸らして無視された。
「宴までに、身支度し直さないといけないんですよ?? 分かってますよね???」
「不本意だ。」
何が不本意なのかは、藪蛇になりそうなので聞かない事にしよう。




