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リエラと創ろう迷宮都市!  作者: 霧聖羅
アスラーダ
172/200

堕ちた

アスラーダ:リエラの旦那様。只今彼の記憶閲覧中。

アスタール:アスラーダさんの双子の弟。リエラの師匠

セリス:リエラの敬愛するお姉さま。いつもお美しい。

レイ:セリスさんの2歳下の弟。女関係が派手……らしい。

スルト:リエラと同じ孤児院出身の、ネコ耳族。

ルナ:リエラの親友でセリスさんとレイさんの妹。

アストール:アスラーダさん達の妹。この時点で1歳かな?

 自分の気持ち(リエラへの恋心)は封印すると決めたのに、それはどうしても上手く行かない。

俺の目は、いつの間にか彼女の姿を無意識の内に探すようになっていて、視線の先で彼女の仕草や表情を追い続けてしまう。

兄弟の様な相手(スルト)工房の人間(弟やレイ)と一緒に笑い合う姿を見る度に胸が痛む。

恋ってヤツはこんなに、自分の思い通りにならないものなのか……。

網とバケツを片手に、仲良く弟と一緒に川へ向かう彼女の背中を目で追っているのに気が付いて、前髪を掻き上げるフリをして額を抑える。

こんな儘ならないものに、10年も前から囚われてしまっている弟には同情するしかない。

文通相手の女がこの国のどこかに居ると言うのなら、攫って来てやるのに。

弟の為なら、犯罪者になったって構わない。

 大体、異世界ってどこにあるんだ?

賢者の石を使って連絡を取っていると弟は言っていたが、本当にそんなものがあるんだろうか?

文化が異なり過ぎている地域……ラブカとかを勘違いしているとかそういう事は無いのか?

 だが、俺は知ってる。

弟が作り話の類が一切できない事も、聞かれた事には『馬鹿』が付く位正直にしか話せない事も。

アイツが嘘を吐く時は大体、弱みを見せたくない時だ。

話したくない場合は、黙り込む事が多い。




―アスラーダさんがこんなに私の事を目で追ってたなんて、本当に全然気が付かなかったな……。

どんだけ鈍いんだろう、私?

―いや、犯罪者になるのはちゃんと躊躇って下さい。

アスタールさんが絡むと、アスラーダさんは結構過激だな。

私がらみの方がまだ冷静な気がするよ?

―アスラーダさんはちょっぴり、アスタールさんの事を勘違いしているっぽい。

結構、しょっちゅう嘘ついてるんだけどなぁ……。

同情を惹きたい時とか?




 やっぱりリエラの事を諦められないと白旗を揚げる事になったのは、彼女が初めて作った箱庭に招待して貰った時の事だった。

やっと、人を呼べる程度まで育てる事が出来たらしい箱庭に、親しい人間を呼びたかったらしい彼女が声を掛けようとしたセリスは寝不足でフラフラ。

次の候補だったらしいルナは用事があると断っていて、リエラは肩を落としていた。

ルナの用事はスルトとの迷宮デートだったなと思いながら、彼女に声を掛けると、セリスが作ったばかりだと言うネコミミのフードの付いたケープを羽織ってクルリと回って見せてくれる。

その姿に、ここに来たばかりの時の骨と皮ばかりだった彼女の姿を思い出し、目を細めた。

あの時と比べると、随分と肉が付いて身体つきが年相応の丸みを帯びてきている。

綺麗に、可愛くなったなと心の中で呟く。

口からは「ところで、どこか行きたいところがあるなら付き合うか?」と、彼女がどこに行きたいのか分かっている癖にシレっとした顔で訊ねる言葉が紡がれた。

 彼女の作った箱庭は、少しだけ水と森の迷宮の一層と雰囲気が似ている。

小高い丘の奥に森があり、その森の中から小川が流れていて小動物が沢山いる穏やかな空間だ。

少し、その在り様が彼女に似ている様に思えた。

彼女が『権限の共有』と『攻撃対象除外』をしてくれてたお陰で、中の魔物に襲われる事も無いと言うのも大きい。

足元をノソノソと移動するウサギを1羽捕まえると、腕の中に抱え込んでその柔らかな毛の感触を堪能する。

野生のウサギでこんな事をする機会は無いから、中々稀有な体験だ。

箱庭の中を散策しながら、箱庭についての色気のない会話を交わす。

あまりにも、俺が箱庭の事を知っているからと彼女が「アスラーダさんも『箱庭』持ってるんですか?」と訊ねてきたのは、仕方のない事だったと思う。

「いや。俺には作れない。」

 口にするのと同時に、自嘲の笑みが浮かんでしまったのを見て、彼女の瞳に様々な感情が浮かぶのが分かった。

同情の言葉を口にされるのが怖くて、無理に明るい口調を装って話を続ける。

リエラは、何も言わなかった。

その代わりに、俺にピッタリとくっつく様に座り直す。

驚いて彼女を見下ろすと、目があった瞬間に柔らかく微笑む。

ああ。

もう駄目だな。

完全に俺の負けだ。

取り繕いようもない位、完全に堕ちた。

 その夜、俺はアスタールに土下座して謝る事にした。

「君はアホだ。」

「否定できない……。」

「大体、君のはまだ一方通行ではないか。」

「な……! お前のは、まさか両想いだとはいわないだろう?!」

 弟は胸を張って微かに優越感を感じさせる笑みを口の端に浮かべる。

「まさか……。」

「疑似的な遊技場でのみだが、何度も結婚式も挙げているし、彼女からの愛の言葉も貰っている。」

「な……?!」

 弟のまさかの言葉に、視界が揺れる。

「まさか、そこまで……。」

負けた。

完敗だ。

どうやっても巻き返す事が出来ないじゃないか。

なにせ、俺は年の差的に告白するのさえも憚られる。

せめて彼女が15歳になるまでは、直接的なアプローチは止めておこうと思う。

それまでの間は出来るだけ彼女に余分な虫が付かない様に、虫除けに努める事にする。




―まさかの最後の一押しが、最初に箱庭に行った時だったとは思わなかった。

でも……そうか。

あの時は、黙って寄り添うのが正解だったのか。

良かった、あの時変な事を言わなくて。

―それにしても、アスラーダさんといる時のアスタールさんはなんだか活き活きとしてる。

やっぱり、物心が付く前からの5年間の間の絆は強いって事かな。

アストールちゃんのキスを巡っての戦いは、アスタールさんの全勝で、負ける度に床を叩いて悔しがる彼の姿が可笑し過ぎ。

妹もやっぱり大好きなんだなぁ……。

―ところで、リエラにモテ期的なものが一切こなかったのって、アスラーダさんの『虫除け』とやらの効果なんだろうか?

一体何をやったのやら??

思い返してみると、直接的なアプローチが増えてきたのって、確かに15歳になってアトモス村に行った頃からだったかもしれない。

12歳の時からでも、15歳になってからでもあんまり変わらない様な気がするんだけど……。

なんかこだわりがあったのかもしれない。

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