4日目 アエトゥス村 4
アッシェ:新工房の調薬担当(予定)。ちょっと変わった多眼族の女の子。
コンカッセ:新工房の魔法具担当(予定)。いつも眠そうなマイペースさんの丸耳族の女の子。
アスラーダ:王都以外に拠点を構える事になってなんだか嬉しそう。
市場での買い物と情報収集を終らせてから料理屋さんに行ってみると、丁度人数分の席が空いたところだった。
席に着くと早速、世間話をしつつ集めた情報をアッシェ達に話した。
要点は、移住についてと居住環境なんかについて。
移住に関しては、犯罪者以外ならどんな業種の人でも大募集らしい。
今の代の村長…この村を治めている貴族はここを町規模にまで育てようと言う野望に満ちてるらしい。
「町にするといいことある?」
「貴族にもピンからキリまであるからな…。
村を治めているのは下流貴族なんだが、規模を上手く大きく広げて町として認定されると中流貴族に出世できる。」
「ふんふん。」
「出世するといいことあるです?」
「まぁ、箔が付くな。」
そう言って彼は肩をすくめた。
他にも何かあるだろうけど、追加の質問に答えようとしないところを見ると話す心算がないみたいだ。
話を戻す必要もあるから、さっさと話題を変える事にした。
「とりあえず、町規模にまで育てたい村長の意向で、移住は簡単にできるみたいだよ。
その代わりに、出て行く時は色々手続きが面倒になってるんだって。」
「なるほどです。」
「出られたくないからってセコイ。」
「コンカッセはもう少し歯に衣着せよう。」
「反省。」
全然反省する様子のない彼女に苦笑いしながら、続きを話す。
「居住環境は悪くないみたいなんだけど、景観を整える為っていう名目で住居の建設は村役場で全部頼まないといけないんだって。あと、賃貸はないみたい。」
「ますます…セ…ごほごほごほ」
「はんせーしなさいです☆」
コンカッセはまた、セコイと言おうとして咳をして誤魔化そうとしたところをアッシェにからかわれてぷーっと膨れる。
その膨れたほっぺは、そうなるのを待っていたアッシェによって突かれてプスーッと間の抜けた音を立てて潰れた。
「取り敢えず、ご飯食べたら村役場に話を聞きに行ってみよう。」
「りょーかいでーす。」
「分かった。」
私がそう言って話を締めくくると、タイミングを見計らったかのように料理が運ばれてきた。
メニューは軽く暖められた全粒粉のパンともうもうと湯気の上がっている熱ーい海鮮スープ。追加で頼んだ魚の串焼きだ。
「わ。美味しそう!」
「悪くない。」
「熱そうですぅ…。」
「じゃあ、冷めないうちに…。」
「「「「いただきます」」」」
私は真っ先に熱い海鮮スープを木匙ですくう。
鼻をくすぐる磯の香りに期待感を膨らませながら口にしたスープは、濃厚な海の幸の旨みがこれでもかと言う程含まれていて、思わず幸せなため息が漏れた。
コンカッセも私と同じ様に、スープを口にして幸せそうに頬を抑えてる。
猫舌のアッシェは、それを羨ましそうに見ながら串に刺して焼いた魚に息を吹きかけながらチマチマと齧りついていた。
食事が終ると、今度は道沿いに建てられた家々を眺めながら緩やかなスロープになっている道を歩いて村役場に向かう。
白く塗られている石造りの家は、間近でよく見ると全く同じではなく細々とした部分が違っていた。
扉の場所や窓の位置もだけど、大きさも違っているところを見ると村役場で建てて貰う時にもそう言う細かい部分の注文が出来るのかもしれない。
庭もあったりなかったり。この辺も住んでる人の趣味なのかな。
庭のある家は綺麗な花が咲き誇ってる家が多くて、目にも楽しい。
建物は大体が3階建てなのは何か理由があるのかな?
そう思いながら歩いている内に村役場に辿り着いた。
村役場は、坂を登り切った場所にあった。
将来を見据えてなのか、村の規模に似合わず随分と大きい。
アスラーダさんが開けてくれた大きな扉は、海風でバタンバタンいうのを嫌ってか引き戸だった。
危ない。引っ張っちゃうところだったよ。
入った場所の左右に改めてある扉は、普通に引いて開けるタイプだった。
中はいくつもの魔法具に照らされて明るい雰囲気になっていて、随分とお金が掛かっている印象だ。
広くとられた受け付け用のカウンターは、半分も使っていない。
後ろでこそっとコンカッセが「セコくて見栄っ張り…」と呟くのが聞こえた。
聞こえちゃうと困るから、後でにしてほしいと思ってたら、アッシェが両頬を摘まんで引っ張った。
「余分な事言う口はこの口ですかー?」
「いひゃいいひゃい!」
「二人とも静かにしようね。」
二人にチョップを入れて黙らせると、さっさと『移住者』用の窓口に向かった。




