隊商
アスラーダ:リエラの旦那様。只今彼の記憶閲覧中。
アスタール:アスラーダさんの双子の弟。リエラの師匠
麗臥:押しの強過ぎる竜人。
炎麗:アスラーダさんの育てている竜人の子供。
シスターアリス:リエラの育った孤児院のシスターの1人。おっとり系。
2017/5/6 脱字を修正いたしました。
エルドランで路銀が尽きた。
そりゃそうだ、そもそもが少し外町の迷宮でのんびりしようと思って出掛けただけだったんだから。
まさかその前に寄り道した探索者協会で麗臥に捕まって、そのまま拉致されるなんて思いもしなかった。
更に、ヤツの子供を押しつけられた上に、どことも知れない場所に連れて行かれそうになっていたのを何とか逃げだせた自分を褒めてやりたい。
既に、拉致されてから結構な日数が経つ。何の断りも無く出てきた形になってしまっているから、早いところグラムナードに戻りたい。この分じゃ、弟子を募集しに行くと言って出掛けて行った弟の方が先に帰って来ているかもしれない。こんなことなら、中町に籠っていれば良かった……。
のんびりするつもりなら、適当に小銭を稼いでいく事も出来るのだが、どちらかというと一刻も早く帰る方を優先したくて、探索者協会の護衛依頼を漁ってみる。確か、この町からグラムナードに行く隊商が月に1度は出ていた筈……。運がいい事に、その隊商が出発するのは翌日で、まだ護衛の募集をしていた。
一応、まだ夜は冷えるとはいえ春ではある。1晩位なら宿をとらなくてもいいだろう。
なけなしの金で炎麗に食事を用意して、首に巻きつく様にして眠る子竜の背を撫でながら人目につかない場所を探して歩く。
スラムとまでは言わないが貧民街に近い様な場所に、丁度良さそうな場所を見付けてそこの軒先を借りる事にする。中から賑やかな子供の声が聞こえてきて、思わず耳を澄ます。
子供達が楽しそうに笑いあう声を聞くと、弟と2人で居た頃の事を思い出して懐かしい気持ちになる。
どうやら、ここは孤児院だった様だ。そして、中の子供たちの『お姉ちゃん』がどこか遠くに行く様で、今日はそのお姉ちゃんを送りだす為の送別会のようなものをしているらしい。
賑やかで楽しそうな声を聞きながら、俺は目を閉じた。子供達に見つかって怯えられるのは困るから、明日は早く起きて見つからないうちに集合場所に行っておく事にしよう。
―とうとう、この時が来た。炎麗ちゃんを麗臥さんに押しつけられた下りは面倒なのですっ飛ばした。
それにしてもエルドランだって、ウチの孤児院の辺りは割と物騒な方だ。
なのに、何そんなところで野宿しちゃってるんですか?!
まぁ、変なのが来たらすぐ起きそうだけど……。
そう言えばシスターアリスが出発する日に、「私は昨日の夜、にゃんこをみたわ~」と言ってたけど……アレってもしかしてアスラーダさんの事か??
滅茶苦茶見られてたんじゃないだろうか……害意はなかったかもしれないけど、シスターに鼻の下は伸ばされてたな……。
この隊商は、どういう訳か娘連れが多い。いや、理由はこの隊商の人間がコソコソ話しているのが聞こえてきたから分かってはいるんだが……。
なんだか知らんが、あわよくばグラムナードの中町の男に嫁入りさせて、有利に商売が出来るように融通して貰えないかと言う下心があるんだそうだ。
勘弁してくれ。
そもそも、中町の連中は出てきてもすぐに迷宮に行くことが多いから、接触すら出来ない可能性が高い。
態々そんな事を教えてやるつもりはないが。
いかにも『グラムナード人』と言った風体の俺は、道中で何度も彼女達から誘いを受けていたが、いい加減にして欲しい。
お前らは『グラムナード人』だったら誰でもいいと思っているのかもしれないが、俺は連れ添うなら自分で好きになれる相手が良い。
少なくとも、彼女等ではない。
大体、父親の方もそんな事に期待をよせるより、まともに自分の町で相手を探したほうが良いだろうに……。
荷馬車で1週間も掛かる様な場所に嫁に出してしまうと、早々気楽に会う事も出来ないんじゃないだろうか?
それは、ひどく寂しい事の様に思える。
商売だって、娘の縁故に縋るより自分の才覚で何とかするべきだろう。
そんな中に、少し変わった親子が居て、ふと気が付くと俺はその2人組を目で追っていた。
『そんなにあの子が気になる?』炎麗の念話に眉を寄せる。
『あの子?』子供の方に注意を向けて見るものの、特別変わった子供と言う訳でもない。
赤毛の少し痩せ過ぎなただの女児だ。
ああ。
父親に比べて、女児の方が異様に痩せ過ぎているのに、随分と仲良さげにしている事に違和感を感じていたのか。
理由に納得していると、同じ護衛仲間の女が俺の視線の先を見て、「あの子、グラムナードでお仕事する事になったんですって。」と教えてくれた。
「へぇ。娘を遠くにやるのは心配なものじゃないのか?」と返すと苦笑が返ってくる。
「親子じゃなくて、近所の孤児院の子供らしいわよ。」それにぼんやりと返事をしながら、『昨日の孤児院のお姉ちゃんか。』と思い、納得がいく。
グラムナードと言っても外町の方に出稼ぎに行くんだろうと判断した。
最後の野営洞窟で、男女に別れて火を囲んでいる時にその娘がグラグラ揺れ始めたのを見て、寝床に運んでやる。
大都市の一つであるエルドランから働きに出られる年齢と言う事は、12歳にはなっている筈なのに、その娘はひどく痩せていて小さい。
骨と皮だけだなと言う印象に違わず、その体は酷く軽かった。
10歳だと聞いても信じてしまいそうだ。
孤児院と言うのは、食に困窮しているのだろうかと胸が痛くなる。
祖父のところに居た時でも、腹が減って困った事はなかったなと昔を振り返り、ため息を吐く。
―アスラーダさんは隊商の護衛をしながら、随分と私達の方を見ていたらしい。炎麗ちゃんが思わず突っ込みを入れるレベルで。まぁ、それは惚れたはれたとはかけ離れたもので、ガリガリだったリエラが純粋に心配だったらしい。いかにも優しい彼らしくって微笑ましい。
確かに、傍から見るとこの頃の私って本当にガリガリだな……。
今はプニプニする二の腕がちょっと悩みどころです。
中町に籠ってても、麗臥はきっとアスラーダを攫いに来たと思います。
なんというか、知り合ってしまった時点で詰んでる的な。




