表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リエラと創ろう迷宮都市!  作者: 霧聖羅
輝影の支配者
158/200

828日目 後継者

アスラーダ:リエラの大好きな旦那さま。黒髪金目の美人さん。目の保養になります。

フーガ:アスラーダさんのお父さん。

ラヴィーナ:アスラーダさんの叔母さん。

ソル:アスラーダさんの叔父さん。セリスさん達兄妹のお父さんでもある。

イリーナ:フーガさんの奥さん。なんか、母性には欠ける人な気がする。


2017/4/23 脱字の修正を行いました。

 望んでいた情報は、フーガさんの口からもたらされる事になった。

婚姻の儀の前の3日間で、両親から子へ受け継がれていく一族の歴史に紛れるようにしてそれは語られた。


「今となっては、彼の方の直接生された子は、私とソルとラヴィーナの3人だけとなった。」

「彼の方……先代様ですか?」

「そうだ。」

「『今となっては』と言う事は、昔はもっと御兄弟がいらっしゃったんですか?」

「正確な人数は本人も知らなかったみたいだが……。妻の人数だけでも10人では足りなかったのではないらしいからその倍は居たんじゃないかと思われる。」


 思わず、黙って聞いているアスラーダさんの方に目を向けると、彼は、そっと視線を逸らした。

『グラム家の男は一途』でしたっけ?

奥方が10人以上居たって……、先代様はそっちのほうでも凄かったのか。


「彼の方は、私達とは比べ物にならない程の長い時を生きてきたからだと思われる。」

「んーとぉ、ここにお引っ越しして来た時に連れてきたのが雲孫以降の子供が殆どだったっておっしゃってたからぁ……。」

「8代以上続いた状態でこの地に来た事になるらしい。」


 と言う事は、だ。

今のグラムナードに来る前にも、既に200年以上は生きていたと考える方が自然だと言う事か。

それでも、700年。

どんなに魔力の高い人間でも300年前後が限界だと言う話なのに、その倍以上は生きていたと言うのは、ちょっと異常なんじゃないだろうか?

単純に『長い時を生きていた』って一言で済まされるのは凄い違和感を感じる。


「ところで、先程から気になってたんですけど……。」

「質問が多いな。」


 直訳するなら、『黙って聞いてろ。』か。

確かに、一族の歴史について教わるのにあたって、質問ばかりしていては話が進まない。

他にも聞きたい事が出てきそうだけど、仕方がないからこれで最後の質問と言う事にしよう。


「では、これで最後と言う事で。」

「何だ?」

「さっきから、先代様のお名前が出てきませんけど、何故ですか?」


 部屋の中に、名状しがたい沈黙が落ちる。

その沈黙を破ったのは、アスラーダさんだった。


「リエラ、それは……」

「彼の方の名は、その死と共に喪われている。」

「喪われた?」

「全ての人間の記憶の中に、彼の方の名は既に無い。他に質問は?」


 アスラーダさんの言葉を遮って、フーガさんが私の問いに答える。

切り口上で伝えられたその答えに納得できた訳ではないけれど、仕方なく私は頷いた。

つい、好奇心に負けてしまったけれど、今はそう言う話をする為の時間じゃありませんでした……。

反省しよう。




「では、『輝影の支配者』にして初代錬金術師でもあった、彼の方の話から始めよう。」


 そう前置きをして、フーガさんが語ったのはこんな話だ。



 グラムナードの初代錬金術師であったところの先代様は、他の大陸に構えていた国から今のこの地へと、自らの子孫でもある国民達を連れて仲の良かった竜人族と共に逃げてきた。

大事な事だからもう一度言おう。

『自らの子孫』だ。

国家が形成される程の子孫が500年以上前には既に居たらしい。

ただ、その国の民も全員が先代様と共に来た訳ではないらしく、特に身近だった1万人程が同行しただけだったそうだ。

そして、生きてこの地にたどりついた千人足らずの人達でこの地に、改めて建国した……と。

元の地を追われた理由は語らなかったらしいけれど、先代様が徹底して忌避した事柄から、『箱庭』と『魔法』が関係しているんじゃないかとフーガさんは語った。



 確かに、箱庭は欲の深い人には大層魅力的に映るに違いない。

運用さえ間違わなければ、欲しい資源が思いのままに生みだせるものだし。

その割に、自らの民には安売り大放出なのは……孫におねだりされたお爺ちゃんの気持ちってヤツなんだろうか……。

やっぱり、先代様のやる事は訳が分からない。

こう、一貫性に欠ける感じがするんだよね。



 最初はグラムナードの歴史だった話は、いつしかグラム家の内情に変わって行く。

どちらかと言うと、ここからが本番らしい。



 先代様は、ここでの生活がある程度順調になった頃、新しい妻を娶った。

フーガさんやラヴィーナさんの母親だ。

ただ自分の後継者になれる子供が欲しかったんだろう、そう口にしたフーガさんをイリーナさんがそっと抱きしめ、その手を軽く彼が握ったのが印象に残る。

結局その女性との間に産まれた3人の子供の誰も、彼の後継者になる資質が無く、改めて他の女性を娶るかどうかを悩み始めた頃に、アスタールさんとアスラーダさんの双子が産まれ……アスタールさんが後継者に選ばれた。

そして、その割と直近の話だと思われる部分から、大分私にとってきな臭い話になってくる。


「ただ、『錬金術師』を継がせるだけだと思っていた。」

「子供を育てるのはイリーナには無理だからって、お義父さまに丸投げしちゃったのも良くなかったのよねぇ。」

「それは、私から目が離せなかったせいだろう?」

「え。フーガちゃんの面倒ならともかく、子供の面倒をみるのはイリーナは無理ぃ。」


 なんか、3人も子供が居る人の口からトンデモ無い言葉が飛び出してきて、思わずその息子アスラーダさんの顔を見詰める。父親フーガさんの方は、一瞬、アスラーダさんに視線を走らせた後、イリーナさんに目を戻してわずかに肩を落とす。



お母さん、トンデモ無い事言ってないですか?



 当の息子アスラーダさんは、私の視線を受けつつ、額を抑えて嘆息した。



ごめんなさい。

私にそんな目で見られてもなんにもできないですね……。



 親にも、ピンからキリまであるらしいとやっと理解出来てきたような気がする。

いい例でパッと出てくるのがお養父さんトーラスさんしか居ないんだけど。


「父上、続きをお願いします。」

「……ああ、済まない。私は父が『錬金術師』の後継者が欲しいのだと思っていたんだが、彼が欲しがっていたのは『輝影の支配者』の後継者だった。」

「お義父さまが亡くなってから分かったの。だから、防ぎようが無かったのよ?」

「さっきから、何を言いたいのか分からないんだが……。『輝影の支配者』って言うのは、ただの称号なんじゃないのか?」


 要領を得ないイリーナさんの補足に、アスラーダさんは苛立たしげな声を上げた。


「称号じゃない。」


 彼の言葉を、フーガさんは否定しながら言葉を足す。


「『輝影の支配者』と言うのは、創造主が猫神の為に作った下位神の一柱だ。」

「神様なのに、世代交代が出来るなんて思わないわよねぇ?」

「その、下位神って言うのはなんなんだ?!」


 

神。

神様か。



 狼狽した彼の声を聞きながら、心の中で反芻する。

えらく面倒そうな物が出てきたなと思いながらも、やっと変な人でしかなかった先代様の謎が一部分かった様な気がした。

昔、アスタールさんに先代様の事を「まるで、神様の様だ」と評したことがある。

帰ってきた答えは、「似た様なものだった」だ。

フーガさんがアスラーダさんに話して聞かせているのを意識の半分で聞きながら、あの時のアスタールさんの言葉の真意を推測する。



 先代様について分かっている情報は多くは無い。

順番に考えて行ってみたら、あの時、アスタールさんが『神の一柱』だという先代様を『似て非なる者』と答えたのかが見えてくるかもしれない。


 『長く生きたから、10人以上の妻が居た』

一度に10人って言う訳ではなさそうだから、どちらかと言うと、『独り』が耐えられないタイプなんだろうか?

 『他の大陸から民を連れて逃げてきた』

何が原因で、何に追われたのかはともかく、好戦的なタイプではない。

民を連れて逃げたのは、民を見捨てられなかったのは『優しさ』だったのか、それとも単純に『独り』が嫌だったのか?

 『建国後、他の国と交わることがなかった』

イニティ王国の国王にラヴィーナさんが嫁ぐまでは、交流をほぼ絶っていたらしい。

ひきこもりだったのか、他の大陸で追われたトラウマだったのか。

ここから出てくるイメージは『臆病』。

 『後継者アスタールさんを囲いこみ、他の人間から孤立させた』

これは、前にチラッとアスタールさんが言っていた事だけど……。

私から見ると、随分と『陰湿』で『無慈悲』な印象だ。

後継者アスタールさんを逃がさない為に、故意に孤立させたんじゃないだろうか?

孤立させただけじゃなく、他の場所に逃げ出す事が出来ない様に、知識面でも支障がある様に仕向けているあたりがまたタチが悪いと思う。

 『グラムナード民が過不足なく暮らせるように箱庭を配った』

これは、本人達の生きる能力をやんわりと奪って行く『優しい虐待』だと思う。

それもあって、グラムナード民は他の地で暮らすとひどく辛い思いをするらしく、外の町で暮らす人はあまりいない。


 パッと思いつく限りだと、『臆病で優しいフリをしていながら、陰湿で無慈悲な面を強く感じさせる寂しがり屋』な身勝手な人間の姿が思い浮かぶ。



成程。

さしずめアスタールさんの中では、『人間離れした力を持った、人間の屑』という評価か。



 フーガさんの説明を聞き終わって、受けた衝撃が冷めやらない様子のアスラーダさんを部屋に向かって誘導しながら、ため息を吐く。

その、『人間の屑』は、まんまとアスタールさんに自分にとって要らないモノ『輝影の支配者』(下位神としての力)を押しつけることに成功して、この世を去ったと言う事らしい。


 グラムナードで、彼が自分の『代行者』だと紹介して回っていた事を思い出す。

この分だと、『代行者』と言うのも、随分と私の想定外のお仕事の様な気がして来たよ。

本人に何の説明も無くそんなものにするなんて、ちょっとひどすぎるんじゃないでしょうか?

『先代様』(クズ野郎)のやり方を踏襲するなんて、貴方らしくないでんじゃないですか?

アスタールさん?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ