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747日目 時間をください

 目の前で泣きだしてしまった年上の女性の隣に座り直すと、そっと彼女を抱きしめる。

彼女の言葉を要約するなら多分、『アスタールさんに自分の世界に来るのを諦めさせて欲しい』と、こう言う事なんだと思う。

ただ、こうやって泣きだすところを見ると、本心でもないみたいなんだよね……。

口に出すのにも結構勇気が要ったみたいだし、どっちも本心だと見るのが妥当なところかな?

 グスグスと泣きだした彼女の背中を擦りながら、今の言葉を伝えた場合に起こる事を想像してみる。



その1

 アスタールさん、呆然自失。

翌日の朝には天井から揺られる姿を発見。(首つり自殺)


その2

 アスタールさん、自暴自棄になる。

無茶な試行錯誤を繰り返し、いつの間にか失踪。

(異世界に行く実験失敗的な?成功する可能性もある?)


その3

 アスタールさん、リリンさんに唯一会う事の出来る疑似世界から帰還しなくなる。

食事を摂れない為、じわじわと餓死。



……正直、その3が一番可能性が高いな。



 リリンさんを慰めながら、想定した事項の中で可能性が高い物はソレだと結論を下す。

その2も、可能性はあるけれど、今まで必死にやって来ている状態での成果が殆ど出ていない上に、リリンさんに止めて欲しいと頼まれてしまったら、ソレを無視してまで更に強行する程の気合いが残っている様には見えない。

多分、リリンさんに『もう止めて』と言われた時点で心が折れると思う。

アスタールさんは、私に助けを求めてきた時にはもうかなりギリギリの精神状態だったし、ソレは今もあまり変わっていない。

 問題は、私の少ない語彙でどうやってそれを彼女に伝えるか、だ。

彼女の気持ちが落ち着いてくるのを待つ間、適切な言葉を選び出すのに専念する事にしよう。




 やっと、彼女が落ち着いた頃には、なんとかかんとか適切そうな言葉をなんとか選び終わったところで、内心胸を撫で下ろす。


「リリンさん、重要。」

「重要?」

「今、話す、危険。」


 じっと、目を見詰めながらそう伝えると、彼女は身を強張らせてこちらを注視した。


「アスタール、今、聞く、死亡、確実。」

「アスタール$……死ぬ?」

「時間、必要。」

「今、止め$欲しい$話し$$駄目?」


 上手く聞き取れないところはあるけれど、大体通じている……様な気がするのでゆっくり頷く。


「今、聞く、アスタール、私、世界、戻る、ない。ぶいあーるげーむ、ろぐあうと、ない。死亡。」

「アスタール$、ログアウト$なく$$……?」


 良かった、大体は通じているっぽい。

リリンさんは顔色を蒼褪めさせると、私の手をぎゅっと握って身を乗り出してくる。


「言う、ない。」


 真剣な瞳が、私を射抜くかの様に見詰めてくる。

その瞳が彼女の気持ちを真っ直ぐに伝えてくれて、私はホッとした笑みを浮かべた。


「ありがとう。」

「私、アスタール、負担、悲しい。」


 私に釣られて表情を和らげたリリンさんが、ポツンとそう呟く。



成程。

アスタールさんの負担になっているんじゃないかと、ソレが心配だったのか。



 なんにせよ、直球勝負でアスタールさんに言う前に、私に言ってくれて良かったと胸を撫で下ろす。

いや、タイミングが悪かったら、直接本人に言ってた可能性が高いな。

なんというか、昨日今日突然思いついた話じゃなくて、時間の問題だったんじゃないかと言う雰囲気を感じる。きっと『異世界の窓』の話を聞いた事で、間接的にでも自分の姿を見ている内に気持ちが落ち着いて、自然に諦めていく様になるんじゃないかと思いでもしたんじゃないだろうか?

あの人の場合、逆に思いが募るだけだと思うけど。

それに……、リリンさん自身にとっても、その方法は何の救いにもならないだろう。


「時間、必要。私、手段、模索、最中。私、提案、進捗、ある。」


 『私の提案からの進捗もあるので、時間をください。手段は私も探している最中です。』

って、これで伝わるだろうか?


「リエラちゃん$方法$$$$、進捗$あった?」


 お、大体伝わった?

少し明るい表情になった彼女に頷いて見せると、「凄い凄い!」と言いながらギュムッと抱きしめられた。


「異世界の窓?」

「はい。」


 あや、思ったよりは頭が回るのかな?

正直なところ、彼女はあんまり頭がいい方ではないかなと思ってたんだけど……。

その後は、彼女の方の意向を確認するのに費やした。

結論としては、リリンさんはアスタールさんが自分の世界で生活するのは厳しいと思っているらしく、自分が私達の世界に行く方が話は簡単なんじゃないかと思うんだそうだ。

『クウキ』がどうのとも言っていたけど、良く分からなかった。

ただ、同じ様な植物があちらにもあるらしくて、多分、彼女がこちらに来ても、アスタールさんがあちらに行っても『クウキ』が問題で死んじゃうことは無いんじゃないかなと言う様な事を口にした。

 ちなみに、彼女が似たような植物の例で持ち出してきたのが『リエラの実』。

あっちでは『リンゴ』って言うらしい。

実際に食べてみたら、確かに普通のリエラの実の味で驚いた。

異世界じゃなくって、別の大陸だったりして?と、ちょっとだけ思ったけど……それだとあっちに魔法が無いと言う事の説明がつかないんだよね。

別の大陸だったら、話が早いのに。

秘密の異世界交流~アルとリリンの恋愛記録~

http://ncode.syosetu.com/n8358dt/

タイトル通りです。

砂糖が口から出るのが好きな人向け。

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