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617日目 初心者パパの不安感

トーラス:アトモス村の村長。リエラの養父になった熊人。

ルナ:リエラの親友。アスラーダさんの従妹だから、もうすぐ義従姉になるのかな?妊娠中。

スルト:ルナの夫。リエラと同じ孤児院育ちのネコ耳族。


2017/3/28 誤字の修正を行いました

 午前のお仕事の時間は、魔法薬に関しての通知関連の対応方法の話し合いで終ってしまったものの、帰る前には、2階で横になっているルナちゃんのお見舞いをしてから帰宅する事にしているので、迎えに来てくれたト……お養父さんには少し待って貰って2階の階段を上る。


「リエラ。俺が早く着すぎただけだから、慌てないでいいからな。」


 そう言ってくれるのに、少しだけ甘えさせて貰う事にして居間へ続く扉をノックすると、すぐに返事も無くそれが開く。外開きだからちょっと危ないんだけど、スルトが返事も無くドアを開けるのはいつもの事で、そのお陰でドアが開くのと反対に立つ癖が付いたんだよね。


「今日はもう帰るのか?」

「うん。帰る前にルナちゃんに会って行こうと思って。」

「入れよ。」


 中に入れるように、避けてくれた彼の横を通り抜けると勝手知ったる他人のお家とばかりにルナちゃんが寝ている部屋まで一直線に向かう。

部屋のドアをノックすると、仲からルナちゃんの返事が返ってきた。


「今、大丈夫?」

「平気―! はいって~!」


 中から、嬉しげにはしゃいだ声が返ってくる。

ルナちゃんは悪阻が始まってから、殆ど寝た切り状態になってしまっていて、人との交流にすっかり飢えてるのだ。

 中に入ると、彼女は背中に大きなクッションをあてがって半分体を起こしていた。

私を見て嬉しげに笑う、彼女の膝の上には縫いかけの産着がある。


「暇すぎてさぁ、とうとう縫いものにまで手を出しちゃってるのよ。もう、これで3着目!」

「赤ちゃんのはいくつあっても多すぎるって事は無いから、今から準備するのはいいかもねぇ。」

「だねぇ。トールの服も、セリ姉は結構すぐに着替えさせてたし。」


 昨日来た時はまだ縫物を始めて無かった筈だから、昨日の昼以降からで2着を縫いあげたらしい。

手縫いって、結構大変なんだけど凄いなと思いながら、ベッドの傍らにある出来上がり品を手に取ってまじまじと見つめる。



縫物は得意じゃないんだな。



 いや、そもそもが殆ど縫物した事が無いのかもしれない。

そういうのは、セリスさんが喜んでやっていただろうし。

産着の縫い目はまちまちで、真っ直ぐでも無いのを見ながらそう判断する。



ただ、ルナちゃん。

コレは赤ちゃんに着せられない……。



「……あれ。ヘンだった?」


 首を傾げて、不安げな様子を見せるルナちゃんに、私は悲しいお知らせを伝えた。


「大変悲しいお知らせなんだけど……。赤ちゃんの服は縫い代を外にしないといけません……。」

「へ? 普通、縫い代って内側だよね?」

「大人はそうなんだけど、赤ちゃんは皮膚が弱いからダメなんだよ。」

「うえええええ。じゃ、縫い直しかぁ……。」

「出来てる分は、ズルしちゃう?」


 とほほと呟くルナちゃんの肩を、励ますように叩いて手にした産着を眺める。

ズルと言うのは、私が魔法で縫い代の繊維を本体に同化させるという意味で、彼女はその意味を正確に把握した上で首を横に振った。


「それ、私じゃ出来ないんだよねぇ……。縫い直す!」

「じゃ、解くの手伝うよ。」


 一緒に産着の縫い目を解きながら、ポツリポツリと言葉を交わす。

内容はあるようで無い、いつも通りの世間話だ。

最後の1着を解き終わると、私は暇を告げて立ち上がる。


「じゃあ、リエラんまた明日。」

「うん。また明日ね。」


 互いに手を振り合うと寝室から足を踏み出し、最後にドアを閉める前にもう一度手を振る。


「もう行くのか?」

「うん。まだ無理させるわけにいかないでしょ。」

「まぁな……。早く、落ち着くと良いんだけど……。」


 そう、気遣わしげに寝室を見やるスルトの姿に、『変わったな』と改めて思う。

スルトはルナちゃんに会って、昔みたいなとんがったところが随分と丸くなったように思える。

彼にとって、大事なものが出来た事で、弱くなった部分も強くなった部分も見えてくる様になった。

前だったら、私にこんな弱った姿なんか見せたりしなかっただろう。


「……ちゃんと、産まれるかな……。」


 私には経験が無いので分からないんだけど、ルナちゃんが寝込んでいるのは悪阻のせいだけじゃないらしい。赤ちゃんが、体の中にちゃんと定着していない? とかなんとかで、安静にしていないと流れてしまうかも知れないんだそうだ。


「猫神様……創造主様にお祈りしよう。」

「うん……。」


 なんとなく、猫神様よりも創造主様の方が適切な気がして途中で言い直す。

猫神様は、気紛れで面白いものがなによりも好きだって言うから、こう言う時にはアテにならない様に思えたのだ。創造主様は、穏やかな方らしいというふんわりとした話だったはず。

猫神様に面白半分に介入されるよりは、そっちの方が良さそうだよね。

 私がホラー君に付きまとわれてる最中に妊娠が発覚してから、心配事続きのスルトは、精神的に結構一杯一杯なんだろう。

私の言葉に小さな声で答えると、耳を力無く伏せてしまった。



大分、参ってるな。



 その姿に、キュッと胸が締めつけられた。

そっと、俯いた彼の頬を両手で挟んで、泣きそうな顔を見上げる。


「お父さんになるんでしょ?」

「うん……。」

「しっかりしなきゃ。」

「うん……。」

「ルナちゃんなら、大丈夫。」

「……うん。」

「明日も来るからね?」

「うん。」


 一度、ぎゅっと目を瞑ったスルトは、大きく深呼吸すると肩から力を抜く。


「悪い。」

「ううん。泣き言なら、いつでも聞くよ。」


 スルトは私のその言葉に苦笑を浮かべると、視線をそっと逸らした。


「じゃ、また明日ね。」

「ああ、またな。」


 扉を閉めて階段に向かうと、お養父さんが階段の下から上を窺っているのが見えた。

随分待たせちゃったみたいだ。

私は大慌てで階段を降りて行き、途中でお養父さんに飛び付いた。


「おいおい。危ないぞ?」

「ちゃんと、お養父さんは落とさないでくれるって、知ってますから。」


 そう言って、彼の毛皮に頬を寄せる。

少し硬めの毛からは、獣臭さと一緒に石鹸の匂いがした。


「そりゃあ、俺はリエラのパパだからな。」


 そう言って、破顔するお養父さんだけど……。

『パパ』はちょっと、私の年齢的にハードルが高いよ?

と、ツッコミを入れずには居られなかった。

ルナちゃんは、母子ともに大丈夫です。

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