590日目 いつから?
アスラーダ:リエラの恋人。心配性で過保護。
ヒカル:アッシェと同じ三つ目族の綺麗な男性。彼女との関係がイマイチ分からない。
アッシェ:記憶喪失だった三つ目族の調薬担当。ヒカルさんが来て、少し落ち着いた気がする。
ポッシェ:クマ耳族の工房専属探索者。いつのまにかコンカッセと良い仲に……。
コンカッセ:魔法具担当の丸耳族。いつも眠たそう。
炎麗:アスラーダさんが育てている竜人の男の子。アッシェに料理を習ってるらしい。
お風呂であんまりにも盛り上がりすぎて、長湯をしすぎてしまったものの、楽しかったんだから仕方がないと思うんだ。
だから、アスラーダお父さん。そんなに怒らないでください。
私達は、居間にいつの間にか作られていた畳の上で、向かい合わせで正座している。
なんだか、足が痺れてきました。
「でも、久しぶりなんだから、これ位の羽目外しは大目に見て欲しいと思います。」
「のぼせて倒れでもしたら危険だと言ってるんだ。」
おでこに軽くコツンと彼の拳が当たる。
「それはその……、ご心配おかけしてごめんなさい。」
本気で心配していたらしいのが、表情からも伝わって来て、不謹慎かもしれないけどなんだか嬉しい。
緩みそうになる口元を隠す為に、神妙な顔を装って少し俯いた。
「貴女が倒れているんじゃないかと、お風呂に乗り込もうとするのを止めるのは大変だったんですよ?」
口元に拳を当てて、クスクスと思いだし笑いをしながらヒカルさん。
他の人達は、みんなソファに座ってお茶を楽しんでる。
私もそっちに行きたいなぁ……。
炎麗ちゃんは、アスラーダさんの後ろに寝そべって畳の匂いを熱心に嗅いでる。
ごろごろするんでもいい。
正座はそろそろ勘弁して下さい。
ちなみにポッシェも、コンカッセを膝に乗せてヒカルさんの言葉に頷いている。
彼女の何でもない事の様な態度を見る限り、いつの間にやらポッシェの膝の上がコンカッセの定位置になっているらしい。
2か月の時の流れを強く感じる瞬間と言うヤツだ。
いつの間に、そのポジションが定位置になる程に関係が進んだんだろう。
なんだか疎外感を感じてしまう。
「そうそう。相変わらず過保護だよね。」
「師兄のは、半分病気。」
「コンちゃん、ちょっと言いすぎですぅ。」
「でも事実。師兄は、リエラの事になると過剰に反応しすぎ。もう少し落ち着くべき。」
コンカッセのきっついお言葉を、アッシェが一応窘めたものの続く言葉に苦笑を浮かべてそれ以上かばう事は無かった。
そうか、私限定で過保護だったのか……。
ルナちゃんと、何故か扱いが違うなぁとは思ってはいたんだけどね?
ルナちゃん相手にはもう少し、彼女の自主性に任せている感じと言うか、もうちょっと好きに動いてる様な気がしてたんだよね。町にも1人で出掛けてたし。
そこまで考えて、初めて疑問が浮かんできた。
「あれ……。私限定での過保護だったとすると、それって随分と昔から……!?」
「!」
「アッシェ達が来た時には、既に溺愛モード突入してましたですぅ。」
「!?」
「溺愛?!」
「なので、13歳の時には既にアスラーダさんはりえらちゃんにメロメロだったですよぉ。」
お?
アスラーダさんの顔が真っ赤になってる。
ふふふ。可愛いなぁ。
赤くなって口をパクパクしてる姿が新鮮で、思わず笑ってしまった。
「アスラーダさん、可愛い!」
手を伸ばして、その首にしがみつくと少し勢いが良すぎたのか、2人で畳の上に倒れ込んでしまった。
「父さんがリエラにやられたのは、出会ってすぐだよ。本人にも自覚なかったけどさ。」
器用に倒れこんできた私達を避けながら、炎麗ちゃんがそう言いだして、アスラーダさんが愕然とした顔になる。こんなに驚いた顔をしてるところをみると、アスラーダさんの心当たりのある時期はもっと遅めだったっぽい。
「それより、そろそろ動いた方が良いんじゃないの?大分、焦れて来てるみたいだし。」
「確かに、もう良い時間ですぅ。」
「ん。捕獲準備せねば。」
炎麗ちゃんの言葉を合図に、それぞれが自分の持ち場に移動を始めようと立ち上がった。
「もうちょっとだけ、待って。」
「イチャイチャするのは帰ってからでもいいのではないです?」
私の制止に、不思議そうな顔をして首を傾げる。
「イチャイチャしてない訳じゃないけど、今は移動が出来ないから……。」
「ああ、足が痺れたんですね。」
「成程ですぅ。」
「アッシェ? その指、何する気……うにゃあああああああああああああああああああああ!」
夜の静けさの中に私の絶叫が響き渡った。
あの後、足の痺れがとれるまでの間、アッシェとコンカッセに散々痺れた足を突きまわされた。
アスラーダさんと二人で。
私に飛び付かれた後、彼が動かないのが不思議だと思ってたんだけど、彼も足が痺れてたんだよね。
足を突かれてアスラーダさんは無言で悶えてるのに、ちょっとだけ萌えたのは内緒だ。
今度機会があったら、アッシェ達も突きまわしてやろうと思う。
リエラは久しぶりの自室に入ると、窓を大きく開けて部屋に外気を取り込んだ。
部屋の中は綺麗に掃除されているものの、すっかり生活感はなくなっている。
持って行く必要が無かったベッドやテーブル等の家具はそのままだけど、逆に言うとそれだけだ。
私が2年近くの間暮らして来ていたこの部屋は、すっかり私の部屋とは言えなくなってしまっていて、その事に少し寂しさを感じた。
今回の事が解決したとしても、もう、私がここで生活する事はないんだと改めて思う。
大きく開けた窓から少し身を乗り出し、紅い月を見上げる。
暫くそうしていると、家の左の方に人の気配を感じた。
そちらに視線を向けると、薄闇の中にぼんやりと明るい頭髪が浮かび上がる。
いつからいたんだろう。
彼は私と目が合うと、ふんわりと幸せそうな笑顔を浮かべた。
「ああ、僕のリアーナ。迎えに来ましたよ。」
私は、慌てて窓を閉めると、アスラーダさんが待つ『逃走植物と虫の森』へと賢者の石を経由して逃げ込んだ。
最後は間違いじゃありません




