456日目 後始末
マロウ:スフィーダから通って来ている通い弟子。34歳。
トーラス:アトモス村の村長さん。リエラを養女にしたいらしい。
フィフィ:コンカッセに弟子入りした、リエラと同じ孤児院出身の19歳のお姉さん。
コンカッセ:魔法具担当の丸耳族。アッシェと凄く仲が良い。
アッシェ:調薬担当の三つ目族。魔力枯渇により昏倒中。
謎の男性:マロウさんに連れられてきた、三つ目族の男性。リエラの攻撃で意識不明中。
騒ぎを聞きつけて、店舗の手伝いに行っていたフィフィが顔を出した時には、マロウさんは引き取った後だった。
「リエラ~、これって一体どうしちゃった訳??」
アッシェの魔力暴走で急成長した赤薬草の蔓になぎ倒された棚や台を見て、彼女は目を丸くする。
私も一緒になって周りを見回して、『確かにひどいな』とぼんやりと思う。
「リエラ。アッシェは上のソファにでも寝かせてやるか?」
「……そうですね……」
「じゃあ、俺が連れて行っとくからな?」
「はい。お願いします、トーラスさん。」
トーラスさんの声に、誰かの声が答えてるのが遠くの出来事のように聞こえる。
「……コンカッセ、ついていてあげて。」
その声が自分のモノだったのだと、コンカッセがトーラスさんについて行くのを見送ってからやっと気が付いた。
首を振って、自分の頬を両手で思いきり叩いて気持ちを立て直す。
心配そうに覗き込んできたフィフィに、無理矢理、笑顔を向けると彼女の眉尻が下がった。
「片付けよっか。」
一瞬だけ、私をぎゅっと抱きしめると彼女はキビキビと働き始める。
私も片付けに加わろうとして、足に力が入らない事に気が付く。
ホッとして力が抜けてしまったらしい。
手の届く範囲の物を避けながら、さっき意識を刈り取ってしまった男性の元に這い寄ると、脈拍の確認を行う。
……大丈夫そうだ……。
彼にやってしまった事を思い出して、思わず身震いする。
アレは、血を見ると卒倒してしまう私の為にと、アスタールさんが考えた魔法。
彼が考えたのはもっと凶悪で、肺から空気を全部追い出してぺしゃんこにしちゃうという代物だったんだけど、ほんの数瞬ある程度の量を追い出しただけなら一応命に別条がなかったらしい。
うん。命にはね?別条なかったんだよ??
ちょっと、後遺症がどうとかそういうのは検証できてないだけで。
はは。
思い出したら、体が震えて来たよ。
自身を抱きしめるようにして、目を閉じて深呼吸を何度か繰り返すと震えが止まってくる。
昏倒している彼は、規則正しい呼吸をしている事だし、暫く放っておくしかないだろう。
この人には、後で色々と聞かなくちゃいけない事が沢山ある。
変な後遺症とかがありませんように!
取り敢えずあてになるかは分からないケド、猫神様に心の中でお祈りしつつ、私もフィフィと一緒に散らかった工房を片付け始めた。
途中でトーラスさんが2階から降りて来て、片づけを手伝ってくれたお陰もあって思ったよりも早くに元の状態に近い程度に復旧できてホッとする。
後は壊れてしまったもので、修理できそうな物を処理すれば良いかな。
「トーラスさん、有難うございます。」
「いやいや。気にすんな! 逆に、帰る前で良かったよ。」
「フィフィもお疲れ様。」
「きーにすんなーって! それより、このきれーなお兄ちゃんなぁに?」
本当に、トーラスさんが帰る前で助かった。
帰った後だったら、この状態で収まってなかったかもしれない。
ああ、ダメだ。
まだ、気を抜くタイミングじゃない。
一瞬、気を抜きかけてハッと我に返った。
まだ、なにも終って無い。
気を抜くのは後にしなくては。
「その人は、多分アッシェの関係者。ただ、どういう関係かは分かんない。」
「だなぁ。コイツの顔を見た途端に、恐慌状態になっちまったからなぁ……。」
「え。さっきの状態って、アッシェちゃんがやったん?」
「うん。魔力を暴走させて……魔力が枯渇して、危うく死ぬところだった。」
「まじで?!」
私の言葉を聞いて、流石のフィフィも青くなった。
魔法具の作り方を学ぶ事になった時に、彼女にも魔力枯渇による生命の危険について話してはいたんだけど、やっぱりあまり身に迫った危険としては認識していなかったらしい。
そこに関しては、私も同じだったけど。
「アッシェちゃん、大丈夫なの??」
途端に、そわそわと2階を見上げ始めるフィフィに苦笑が漏れた。
「息は吹き返したけど、暫く様子を見るしかないかな……。」
「こっちも落ち着いたみたいだし、良かったら家の方に運ぶか?」
「……正直、2階に移動させて良かったかも今となっては自信が無いんです……。」
あの時は、咄嗟に2階に連れて行って貰ってしまったものの、もしかしたら動かしちゃいけなかったんじゃないかという不安が心を過る。
なにせ、今まで身近に魔力枯渇で倒れた人なんていなかったんだから、想像もつかない事なんだ。
「……なら、ラヴィのところに詳しいヤツが居ないか聞いてくるよ。」
唇を噛んで俯いた私の頭を、毛深い大きな手がクシャりと撫でた。
「そんな顔すんな! きっと大丈夫だよ。」
そう言って笑うトーラスさんに、私はなんとか笑みを返した。




