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第5章 死神

ウォーーーン!…遠くで、バイクのエンジン音が聞こえています。


関西電気保安協会のロゴの入った車から、2人の職員が車から飛び出してきました。


…おい!…大丈夫か!?


道路の真ん中でうずくまる、私を発見して、声を掛けてきました。


…生きてる。


そう思った瞬間…気を失いました…。

高校2年生…17歳の夏の出来事です。


夏休みだというのに、英語の単位を落とした私は、補習登校です。


…お盆は、いろんな人が帰って来るから、気をつけなさい!…母親に言われた言葉をすっかり忘れていました。


高校生になると、友人は、皆んな、音楽の道を進むか、バイク乗りになるか?…だいたい、この2つに分かれます。


もっとも、私は、小児ぜんそくを患っていたので、担当の主治医から、もっと肺を強くしなさい!…っとまで、言われていて、小学生からずっと野球をやっていました。


あ、いや…父親に無理矢理やらされていたと言うほうが正解です。


でも、中学生に上ると、地元の草野球チーム、リトルリーグ、部活と、3チームを掛け持ちしていました。


おかげで、小児ぜんそくとは、おさらばすることが出来ました。


地元の草野球チームは、皆んな、年上でした。バイクで、颯爽さっそうと登場する先輩のかっこよさに憧れて、中学1年生から、バイクショップに佇んで、ウィンドウショップを楽しんでいました。


高校1年生…16歳になると、真っ先にバイクの免許を取得して、バイトで貯めたお金を握りしめ、バイク屋に駆け込んだのを覚えています。


既に、中坊の頃から、慣れ親しんだバイク屋は、店員さんから、店長さんまで、まるでマスコットキャラクターの様に扱ってくれました。


…このバイク屋さん…後に、多くの有名なプロライダーを排出する事になるお店。


当時、新人として、入社された店員のAさんは、後に、日本モーターサイクル競技会MFJの理事長に就任する事になります。


彼は、独特な感性の持ち主で、この辺りで初のレーシングクラブを立ち上げ、当時、私の憧れの存在でもありました。


Aさんの的確なアドバイスのおかげで、小さなバイクから、練習を重ね、17歳になると、地元の峠族と言われるライダーの中でも、結構名前を知ってくれている人も増えました。…正確には、名前では無く、ヘルメットのデザインやバイクの名前で、覚えられます。


私の場合、モリワキのFX改…とか、CRキャブのFX…なんて、呼ばれていました。


モリワキとは、バイクの集合管マフラーなんかを手掛ける当時の有名なチューニングショップの名前です。


CRキャブも当時1番性能が良いとされる、ケイヒンという会社のキャブレターの商品名でした。


私の通う高校は、大阪府の箕面市という所にありました。高校では、バイク通学は、禁止でしたが、毎日バイクで通い、箕面山の峠を越えて帰るのが日課でした。…おかげで私は、バイク通学が見つかって、高校1年生、2年生、3年生と計3回停学になったものでした。


その日は、土曜日。

授業は、午前中でおしまいでした。


…よーし!、今日は、たっぷりと練習できるぞ〜♫


学校が終わると、そそくさと帰宅の用意…。


と、…お前、今日も部活サボりかよッ!


同じクラスの野球部員に呼び止められます。

すると、それを聞いていた友人が、


…無理無理!…コイツ、いつも土曜日は、山だよ〜♫


私が、峠族をやっている事は、既に、周知の事実でした。


…チッ、…事故んなよ。


嫌味を言いながら、心配してくれる友人たちに、感謝して、いつものように、バイクの隠し場所に向かいます。


キュルルル…ヴォン!…今日もエンジンは、快調です。


そのまま、近所の駅前に着くと、コインロッカーに隠して置いた革ツナギに着替え、山へと向かいました。


峠族にも、いろんな人が居ますが、私の場合、ある区間を行ったり来たりしながら練習する、

ローリング族と呼ばれる部類の走り屋でした。


最初は、ゆっくり慣らし運転…路面状況や気温、タイヤの接地感なんかを確認します。


今は、バイクの通行が、制限されていますが、

私の通う箕面山の峠には、知る人ぞ知る、◯Xマルペケコーナーという区間がありました。土日には、大勢のギャラリーが集まり、腕自慢の走り屋を見に集まっていました。


ギャラリーが、手前のコーナーで、◯を出せば、対向車無しの合図。逆にXを出せば、対向車に注意の合図…ゆえに、マルペケコーナーと言います。


ギャラリーが、◯を出します…全開アタックOKです。…私は、いつものブレーキポイントから、フルブレーキング!


…タイヤを地面に押しつけて、ブレーキリリース!…と、同時に左手で、ポンッと、左コーナーと逆方向にハンドルを押します。


…昔のライティングテクニックで、フェイントを当てる…と言います。


…キュイーン!

素早く、コーナーに、カットイン!…一瞬、逆方向に切られたハンドルは、物凄い勢いで戻ってきて、抜群の旋回力を生み出します。


ザザザザザーーッ!

旋回力が、限界を超えると、今度は、リアタイヤが、滑り出します。


スーッ…。

…すると、さっきまでの遠心力が、無くなり、さながら、宇宙遊泳を楽しんでいるような、無重力状態に入ります。まるで、膝を中心に1点倒立しているような感じです。この感覚が味わいたくて、峠族をやっているようなものでした。


…ピタッ!

スライドが、止まったら、今度は、バイクの起き上がりに合わせて、左手で、ハンドルをチョンっと引きます。…正確には、寝ているバイク側に、ほんの少しだけ、ハンドルを切ってあげます。…すると今度は、勢いよくバイクが跳び起きます。


…アクセルは、全開!…キレイにラインに乗って、ギャラリーの声援をうけながら、コーナーを駆け抜けます。


フォーーーッン!!


…いける!…今日は、乗れてる…そう思えるくらい、調子のいい日でした。


何度か、ローリングを繰り返すと、山を下り始めました。


…ここまでは…いつものように…。


…ここまでは。


ふと、サイドミラーに、バイクが映りました。


ん?!…追いついてきたのか?

今日は、結構、乗れているつもりでいたので、少し、ショックを感じていました。…コーナーを抜ける度に距離を詰められます。峠族は、速さ=プライドの生き物で、差を詰められると、若いライダーは、特に焦ります。


私も、当時、イケイケドンドンの17歳…御多分に洩れず、闘志に火が点きます。


…舐めるな!


…本気のアタックを見せてやる!


慣れ親しんだ道…道路の細かな凹凸まで、頭に入っています。


が?…しかし…とうとう、後ろに張り付かれました。…うっ。


スーッ、っと、近づいてきます。

…水色のRZ250。…見たこと無いヤツだな。


でも…あれ?…なんで?

…エンジン音が聞こえません。


…振り返りました。

…絶句。


…ク、クビが、ありません。


うわっ!


全身真っ黒のライダースーツ…でも、ヘルメットが…ありません。


…首から上が…ないんです。


あっ!…しまった!!


視線を前に戻すと…。

既に手遅れでした…次の下りの右カーブ…進入速度が、速すぎます。


凍りつきました。…死ぬのか?!

そのカーブは、箕面市一面が見渡せるような、絶景ポイントで、落ちれば、100m以上の断崖絶壁です。


生きたい!…もがきました!

パニックになりそうな気持ちを抑えて、ガードレールギリギリまで、フルブレーキング!


その時…私の右横から…フッ…首無しライダーが消えました。…まるで、私を死にいざなう…死神のように…。


…下りの右カーブ…無理だ。

でも…このまま、ガードレールに激突したく無い!…心と裏腹にブレーキレバーから、指を外せない…バイクを寝かせようとした瞬間。


ザッ!…前輪から、スリップダウンしました。


ガガガッ!…ゴォーーーーーン!

物凄い轟音。バイクが、ガードレールに突っ込みました。


私は、両膝から、ガードレールに突っ込み、空中高く飛ばされました。


…戦慄の中で、箕面市一面を見渡しています。


嗚呼ぁ…。


全てが、スローモーションです。

ちゃんと、母親の言う事を聞くべきだった…。


…お母さん…ごめんなさい。


心の中で、そう叫びながら、死を覚悟しました。


と、次の瞬間…信じられない事が起こりました!


何者かが、うしろから、私の襟元を掴んで、物凄い力で放り投げられました。


…私は、空中で、真横に吹っ飛びました。

そうです。カーブを曲がり終えた20m程先の道路の真ん中に落下しました。


ダッダーン!…ゴロゴロゴロ…。

後続車が来たら、はねられる!


私は、慌てて、路肩に移動する為、立ち上がろうとして…両膝に激痛が、走ります。


うぅ…、両膝のお皿の骨が、割れていました。

動こうとすれば、する程、激痛が走り、まったく身動きできません。


だ、誰か…助けて…。

すると、ガードレールに、金のシャチホコの様に食い込んでいたバイクが…。


ヴヴヴヴヴ…ヴォ…ヴォーーーーーーーッン!


…急に、アクセルが、全開状態になり、辺りを大音響が、つん裂きます!


ヴォーーーーーーーーーーーーーッ!


…その音を聞きながら、道路の真ん中に、仰向けで、倒れていました。


あまりの爆音に、人の気配に気づきませんでした。


お、おいっ!…しっかりしろ!…大丈夫か?!

関西電気保安協会の車と、私に話しかける職員の姿を見て。


…た、助かった。


…そのまま、気を失いました。


気づけば、箕面市役所の横にある、相原病院のベッドの上にいました。


…しばらくすると、次々と走り屋仲間が、見舞いにやってきました。


…あの後、仲間たちは、山のふもとから、10数台の隊列を組んで、登ってきたそうです。その先頭を走っていたのが、同級生で、走り屋仲間のM君でした。彼は、私の姿を見て、直ぐに救急車を手配してくれ、壊れたバイクも、移動してくれたそうです。


彼は、ふもとからほど近い場所に住んで居たので、自分のバイク用ガレージに私の壊れたバイクを運んでくれたそうです。


…なんで、あんなところで、倒れてたの?


M君は、不思議そうに言いました。


わかる訳がありません。…私自身、何が起こったのか?…わからないのですから…。


案の定、両膝のお皿の骨が割れていて、全治1カ月の大怪我でした。


首無しライダー…死神なのか?…思い出しても、戦慄が走ります。


…でも、命が…残りました。

……誰かの…おかげで。


その日の夕方、M君から連絡を受けた、妹と父親が現れて、父親から、しこたま頭をぶん殴られました。…痛かったけど…なぜか?…嬉しかったのを今でも覚えています。


ギブスがとれて、怪我が、回復すると、どうしても、現場を確かめたくて、いてもたっても居られなくなりました。


…1カ月半後、私は、事故現場に立っていました。箕面市一面が見渡せる下りの右カーブ…ベッコリ凹んだ、ガードレール。…バイクが、突き刺さった跡が、生々しく残っています。


私が、倒れていた場所……。

目を疑いました。


…に、20mどころじゃないぞ。


右カーブの先に左カーブ…次の右カーブ…。

私は、3つ先のカーブの出口辺りに倒れていました。距離にして、50mはあります。


断崖絶壁の右カーブから、倒れていた場所をみながら、普通に飛ばされても、無事では済まない距離に、絶句しました。


…ギリギリのところで…守られた。

…守護霊に感謝しながら、手を合わせ、その場を後にしました。


(補足)

2学期が始まると、ホームルームの時間に担任の吉岡先生が、こう言っていたそうです。


…あいつは、両膝に大怪我をして、しばらく学校に来れない。…本人は、足の上にテレビが落っこちてきたと嘘を言っとるが、今回は、その話に乗ってやろうじゃないか…なぁ、M君よ!


夏休み中だったおかげで、なんとか、単位を落とさず、進級する事ができました。


…高校2年生の夏の出来事でした。

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