第4章 男の子
皆んな〜♫ 元気かなぁ〜♫
夏だよ〜♫ 納涼だよ〜♫
怪談話だょ〜〜ッ♫
これは…実話です。
私のウチは、貧乏だったので、母親は、私が小学1年生(6歳)になって、すぐにパートの仕事をしていました。私は、3人兄弟の長男で、2つ下(4歳)の弟と、生まれたばかり(0歳)の妹がいました。
ウチの家から、ほど近い場所に銀行があり、当時は、夕方の5時になると、その銀行から、大音量の子守唄BGMが、流れてきました。
ね〜んねん♫ ころ〜り〜よ〜♫ おこ〜ろ〜り〜よ〜♫
…このBGMが、聞こえてくると、決まって、0歳の妹が、ほんぎゃ〜♫…大音量で、泣き始めます。ちょうど、ミルクの時間のようで、母親が、残業で帰りが遅くなると、ひたすら泣き続けます…、ほんぎゃ〜!、ほんぎゃ〜!
コレが5分以上続くと、今度は、4歳の弟が、一緒に、うわ〜ん!…連鎖の大合唱が起こります。私は、どうする事も出来ずに、大泣きする2人から遠ざかるように、家の前の路地に座り込んで、母親を待っていました。
いつもは、母親が、この5時の子守唄BGMを待たずして、帰ってくるのですが、月のうち3、4回は、こういう日があって、どうすることも出来なかった私は、よく路地でうずくまっていました。
…だから、私は、今でもこの子守唄が大嫌いです。
そんな母親を幼少期から見ていたので、中学を卒業すると、すぐに新聞配達のアルバイトを始めました。近所で、オープンしたばかりの配達所だったので、すぐに働かせてもらえました。
最初は、配達する家を間違えないように、先輩配達員に同行して、場所を覚えます。
2、3回追走したら、自分で配達します。
その日は、冬の寒い朝でした。
まだ、5時前だったので、辺りは真っ暗です。
私は、いつものように、とあるアパートの2階にある配達先のポストに向いました。
トントントントンッ…
2階に上がる階段を駆け上がって、5件あるいちばん奥のおウチ。
…あれ?
…僕?…どうしたの?
パジャマ姿の男の子が、入り口に置いてある大きな丸いゴミ箱の上で、うずくまっています。
…寒くないの?
男の子は、私に気づくと、また、頭を下げてうずくまってしまいました。…親にこっぴどくせっかんされたのか?…どうしよう、こんな寒空の下じゃ風邪ひいちゃう。
私は、意を決して、おウチをノックしました。
…トントンッ!…すいませ〜ん!
…あれ?…返事が無い?
…トントンッ!、すいませ〜ん!
2、3回呼んでも、返事がありません。
…おウチの人…いないの?
男の子に聞いても返事をしてくれません。
私は、配達の途中だったので、男の子に後でまた来る事を告げて、大急ぎで配達を終わらせて、さっきのおウチに向いました。
…ん?…男の子が居ない…。
おウチに入れたのかなぁ?
パジャマ姿だったし、辺りをウロついてるような形跡も無かったけど、念の為、ひとしきり、辺りを探しまわって、居ないのを確認しました。
…ふぅ、居ないや。
少し安心して、事務所に戻りました。
夕方…夕刊の配達。
その、おウチの入り口に提灯がぶら下がっています。
?…いつも通り、ポストへ向いました。
え⁈…凍りつきました。
忌中…と、書かれた紙。
お葬式…玄関の扉は、開け放たれ、奥に鎮座する遺影写真と目が合いました。
…紛れもなく、その男の子でした。
その時は、気が動転していたので、玄関先で、寒くて凍死したのでは?っと、焦りましたが、よく考えると、今朝の話から、お葬式まで、たった半日の出来事で、祭壇や遺影写真まで、あまりにも、段取りが早すぎます。
…そっか。
おそらく、おウチの家族は、皆んな、病院に居たのでしょう。僕の見た男の子は、すでに病院で亡くなっていて、大好きだったおウチに帰りたかったんでしょう。…願い叶わず、霊体としてココに。…そう考えると、男の子の様子や家族が居なかった事、すべてツジツマが合いました。
男の子が、うずくまっていた、ゴミ箱の横には、おそらく、大好きだった、スコップやフォークの様な、お砂場セットが網カゴに入れられて、ぶら下がっていました。
…もっと、たくさん、お外で遊びたかったんだなぁ。、これが、初めて、霊体というものを認識した、15歳の冬の出来事でした。
…続く。